雨竹 盆栽 水石 便り

盆栽歴50年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

カテゴリ: 飾り


大型連休も過ぎれば、暦の上での「立夏」。
新緑や若葉ともてはやされた、もみじをはじめとする葉物盆栽達も、
徐々に葉数を増やして、“緑陰“と言う言葉が似合う季節に向かいます。

雨竹亭の庭園応接室も、“夏の始まり“を感じさせる、「岩がらみ」を飾る季節になりました。

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薄緑の葉上に咲く、まるで“紫陽花“のような花
(正確には花ではなく、真花のまわりの萼片が進化した“装飾花“)は、
まだ私が二十代の頃、尾瀬など、標高の高い高原を山々を分け入っていた時、
巨木を見上げると、登れぬ程の高い所に、まるで蝶が群舞しているように見えたあの樹です。

5月から6月、岩がらみは、毎年私の目を楽しませてくれます。

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織田杏斎の「雨中の杜鵑」に合わせてみました。
霧煙る里山、一羽の杜鵑が“一閃“と言う、ホトトギスならではに使われる、
スーッと翔ぶ姿を、日本画家達は、見事に描いています。

“潤湿な空気“と言う季節をそのまま受け入れて感受する日本人の感性はいいものですね!

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脇に飾った、瀬田川梨地の山形石。
月明かりを照らすような美しい石肌、「樹・石・画」が、ひとつの“今“と言う、この国の“何処かにある“自然を床の間に現出しています❗️

枝垂れ桜から山桜、桜に酔いしれた2週間! 
そんな内に庭の雑木はすっかり新芽を吹き、新緑の世界が広がり始めました❗️

待ち遠しかった、床の間のもみじの飾り。

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昨年手に入れて、早春に鉢合わせをした獅子頭を飾ってみました。
陽射しに透けるような美しい若緑は、命の再生を物語ってくれる何よりのものです‼️
「揚げひばり」の掛物を合わせてみました! 

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陽春の田園風景の空、さえずるひばりの姿、そこには新緑の世界が!
脇床には山からの沢水を想わせる揖斐川の溜まり石。
緑に大空のひばり、山からの沢水。

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当たり前の季節の世界を席に現すのは毎年の事ですが、
何度やっても、来る季節の自然はありがたいものですね‼️


大好きな富士桜の枝垂れ性が、今年も美しい花を咲かせてくれました❗️

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咲き初めは白っぽく、満開が過ぎる頃には、淡い薄紅色へと、品の良い色合いが格別のものです❗️
枝垂れ桜に“おぼろ月“の掛物、“春はおぼろ“
千年も昔の古人の美意識は今も盆栽美に通じています。

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隣に鞍馬石の薄溜まり石を陶翠の名器水盤に合わせてみました。
朧月をその水鏡に映すような景色。
桜~朧月~鞍馬薄溜まり石 三位一体の席が出来ました。


千百年前、平安時代の「古今和歌集」にこのような歌があります。
“久方の光のどけき春の日に 静心無く花の散るらむ”
三十六歌仙のひとり、紀友則が詠んだ歌です。

その後、平安後期から鎌倉初期に活躍した西行法師の歌はあまりにも有名です。
“願はくは花の下にて春死なむ そのきさらぎの望月のころ“
旧暦の如月は今の3月、望月(満月)となれば、3月15日前後。
西行法師は、この歌のようにまさに“如月の望月の頃“ その生涯を終えました。

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私達日本人にとって、桜は野山にある樹々や花の中でも特別な思いがあるものです。
海外では“満開の美しい花々“としての桜が愛でられますが、
日本人はその満開の花が、風に誘われて、“はらはらと散りゆく様“に、
命の昇華、つまり“散華“の世界を感じたと言われます。
日本という国がどれほど自然の中で共生した感受性を宿して来たか、桜への心はいつまでも失くしたくないものですね。



彼岸を迎える頃、もう“桜の飾り“に心が動く時ですが、先日、梅の咲き分け種“思いのまま“を手に入れました。

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極太の樹!
何年か作ってそれらしい作品にしてみたいと、いつものように、悪い病気がムラムラと起きてきました‼️

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若い頃は、思いのままなんて園芸種で、野梅などから一段低いと勝手に思っていましたが、
宮島(大阪松)や、今では当たり前になった、“枝接ぎの真柏“のように、
時代で世の中の盆栽に対する価値観も変わっていくものです。
思いのままも、今では作出する人もなくなり、貴重な太幹となって来ました。

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朧の月の掛軸、そして脇床には、揖斐川の古石。
とても古い持込みの石で、石肌の古感はえもしれぬ程です。
これを名器“峯雲地紋楕円“の水盤に合わせて、水打ち!

やっぱりこの季節になると、水を得た水石は良いものですね❗️
さあ!この梅が終わる頃には、桜❗️
そして追いかけてくる“植替え“の嵐🌀💦大変です❗️



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二十四節気「大寒」の頃。
羽生雨竹亭の応接飾りも、新春の景色から“まだ来ぬ春“を想うものになりました。

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野梅の古木、流れる幹模様と古感ある立ち枝の姿。
国風展などの、細やかな手入れが成された枝打ちをみせる樹も勿論素晴らしいものですが、
このような、山里の何処かに枯れ寂びた樹相で生きる梅の風情などが、私は好きです。

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掛物は「深雲古寺鐘」有名な禅語 “流水寒山路 深雲古寺鐘“の一節から書になったもの。
“山間の奥、渓谷の水音の路を歩くと、何処からか奥寺の鐘の音が聞こえてくる“ 
そんな実景を詩としたものです。
聞いているだけで、その情景が浮かぶ名詩。脇に悠遠な加茂川石の遠山姿を配することで、
更に詩と梅、そして水石が、ひとつの世界を表現してくれます。

“まだ咲かぬ梅、待ちわびる春の訪れ“ 
そんな“今“を設えてみました。

旧暦の正月「春節」も間近、国風展の準備に余念ない1月下旬。
そんな中でも移りゆく季節を、盆栽や水石で表現すること!
自分の鍛錬のひとつとして怠らずにしていきたいと思います。

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