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盆栽歴50年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

2025年10月


来月11月21日から開催される、日本盆栽大観展。 

毎年そこで企画される「京都国際文化振興財団」通称“慶雲庵“の展示、

今年は“昭和百年の軌跡“と銘打った展示を考えています。

財団が保有する数多くの盆栽や水石・盆器など、飾る名品は限りないのですが、

その中で、訪れるすべての人達に伝えたいメッセージを込めた樹を仕上げています。


“被爆の松“  

80年前、広島に投下された原子爆弾、爆心地から僅か2キロにあったこの樹は、

共に生きていた殆どの盆栽が、爆風と熱風で枯死する中、奇跡的に半身を枯らしながら命を繋ぎました。


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それから80年、盆栽を愛する人達に守られながら、勿論飾れる姿にはなっていませんでした。

今回、私のところで5年、只々元気にする培養に心がけた結果、思い切った整姿施術を行うことにしました。


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普段の“見た目を大切にする“樹造りではなく、“この樹がどのように命を繋いであの時から生き抜いて来たか? 

“壮絶な記憶“のかけらを消さぬよう、それだけを心がけてみました。

ここから京都に運ぶまでの時間、日々少しずつ樹に向き合って仕上げてみようと思います。

“作りすぎてはいけない樹“と、対話をする気持ちで!


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不様(ぶざま)でも、必死に生きて来た姿、京都でご覧頂きたいです。

(大観展終了後は、京都大徳寺、芳春院盆栽庭園で、忘れてはいけない“命の軌跡“の樹として、ずっとそこで守り育てるつもりです)


水石協会が来春開催する『日本水石名品展』の選考審査、図録撮影が、都内春花園さんで行われました。

小雨降る美術館の休館日、合間を縫って、見慣れたはずの数々の名木を眺め散策して気がつく事がありました。

“樹が皆んな老成の美を呈している!“ 


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10数年前、「盆栽は“面“で捉えるのではなく、“線“で表現したい」と謳い始めた小林師。

その頃に大胆に枝をはずし、樹を“裸“にするが如く改作の限りを尽くした樹々達が、

あらためてふと観れば、ぞっとするほどの“古感“と“雅格“を示し始めていました。

懐や枝先にまで流れる線と命、枝の厚みで本質を隠すのではなく、すべてを晒しながら生きる姿を捉える。


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小林師が見つめ続けた象形(カタチ)は、その完成形を歩み続けているよう。

“只々、樹が好きなんだよ“と、屈託のない笑顔で答えてくれる小林師。


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本当の盆栽作家とは、人がその樹とどれだけの刻をともに生きて、己の“想い“をその樹に注いだか、かもしれない。

その意味では、小林國雄師とその庭園にある盆栽達はいつの間にか“共鳴“して“共生“しているように思えます。


一年半ぶりに、九州久留米で開催された「青樹会」オークションに参加しました。

大徳寺芳春院盆栽庭園から新幹線で博多へ、レンタカーで1時間、会場の久留米、慣れたルーティンです。


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遠く地方へ来れば、“見慣れない樹々“や、培養や手入れの異なる盆栽達に会えたものですが、

今は全国が何処でも変わらぬ世界!

メンバーも半数は中央でいつも同席する仲間達です。

普段はトラックでスタッフが先行搬入して、60~80点の買付けを積んで帰るのですが、

人員不足のところへ、若い社員達の免許は、トラックが運転出来ません💦

同業の友人に羽生から高速、フェリーを使って走ってもらったので、ハイエースのロング!

買付も“安いからではなく、中身の濃いもの“に注力しないといけない会になりました❗️


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それでも1500キロも離れていると、“こんな樹があったのか?“と思うものもあります。

久しぶりに積込までやって(若い者、人のもの、だと皆んな積み方が緩いので、“差込み積み“を見せてあげました)満載の1台❗️

帰ってから、手入れをして直しながら、来月初旬の「秋の観照会」にお披露目しようと思います‼️


“水石界の発展の為“と思って書き始めた「名石探訪」は、

各地に眠る未公開の水石名品を誌上でご紹介する企画として、100回を迎えるまで続けました。

これだけ書けば少しは水石界の役に立ったものと思ったら、出版社側より、

“こういった記事は森前さんしか書けないので、何か形を変えて続けてほしい“と、即座に言われて、

思案の末に

“ここからはその時書きたい事を自由に書かせて頂く“として「水石よもやま話」は始まりました。

今回で19回💧

毎回“何を書こうか“と浅学の身をつくづく感じながら、その時その時に思い付く内容を認めてきました。

時にはニュース性、時には展覧会内容、そして今回のような“自分が今本当に思っている事など、

水石界を取り巻く様々な事を気ままに書いています。

今回は久しぶりに、“ちょっと重く“ 水石の飾りの事などを書いてみました。


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季節を捉えた“当たり前の飾り“には大切な基本がありますが、

そこに届く心の有り様、更には石を深く見つめてこそ観えるその石しか醸し出せない“何か“を捉える自分。


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伝えたい事多く、堂々巡りになってしまいそうな解釈の難しさなど、

飾る事なく有りのままで読者の方々に綴っているつもりです。


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盆栽も水石も突き詰めて行けば、最後に引き算をし尽くした端的なものへと導かれると言う原理、

それでもそこに届くには多くの“まわり道“をした末でないと見えてこない道がある事。

どこまで行っても尽きぬ道ですが、“その先にあるもの“があるなら只々歩いてみたいと思っています。

【府立植物園で半世紀近い歴史!守り繋ぐ人達❗️】


大徳寺からほど近い、賀茂川を挟んだ向こうにある「京都府立植物園」で毎年春秋に開催される盆栽展を拝見に出かけました。


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普段より芳春院盆栽庭園の管理のお手伝いをお願いしている、

関西盆栽界の中堅(?西風会々長だから“重鎮“!)の大溝さんや、

二代にわたって親交を頂く、河合香艸園さん、そして長老格の岩本さん。

毎年伺っていますが、いつも御三方で迎えて下さいます。

今年は生憎の雨模様の中、外側の愛らしい盆栽即売もない中、ゆっくりと展示を拝見しました。


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本格的な私達が日頃取り扱う盆栽や、趣味会ならではの季節の盆栽達など、飾らぬ愛好家の盆栽が何処か心をホッとさせてくれる展覧です!

それでも秋展は四半世紀だそうですが、春展は間も無く50年❗️

地域の方々に盆栽の楽しさを伝えながら、敢えて爪先立ちの“上を眺める展示“を求めるではなく、

皆さんの楽しみと言う立ち位置で見守られる三人。

頭が下がります。


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数年前より、近隣である大徳寺盆栽庭園を預かる身、小店派遣の常駐のナベさん(渡邉さん)の名前で末席に飾らせて頂いています。

業界の大イベントで、いつも企画展を油汗をかきながら💦構成を考える身からすれば、

本当はこのような地域と愛好家に“寄り添う“活動で日々が過ごせたらと、我が身の在り方をため息まじりで振り返る機会でもありました!

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