雨竹 盆栽 水石 便り

盆栽歴50年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

2023年06月

時には“本画“の素晴らしさを愛でて❗️久隅守景と夏飾り‼️

京都大徳寺「芳春院盆栽庭園」も、黒松赤松の“芽切り“も進み、30日の「夏越の祓い」が近づく中、季節は“夏の飾り“に移りつつあります。

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庭内「通玄庵」の床の間も、夏蔦になり、主木の盆栽が“軽め“になる中、席中の“格“を創る為に、掛物に“本画“を使ってみました。

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盆栽界水石界の展示会では、季節を扶ける飾り道具として、掛物を使う機会がありますが、
少し辛辣な意見で言えば、掛物に対する考え方にまだ修練が足りないように思います。

席飾りとしての掛物使いは難しく、まずは月や翔ぶ鳥など、“盆栽や水石に使い易いもの“が主になります。
勿論それで良いと思いますが、果たしてその掛物自体を美術的に見ると、
金額的価値観ではなく、掛物を愛する方々からみて、佳きものであるか?
私からみても多少の疑問があります。

例えば、盆栽に対して“鉢映り“は大切な要素です。
この鉢を軽んじれば、本格の舞台では減点対象となるでしょう。
鉢・卓・水盤・これらに気を遣うように、掛物への“格“に対しての“配慮と目利き“を心がけたいものです。

折角の盆栽や水石、他の道具立ては素晴らしいのに、骨董屋さんで安易に手に入れた掛物を使う事で、
ある意味、その分野に明るい人達には、
“盆栽や水石は素晴らしいと思うが、使ってある掛物が、骨董屋の軒先に土産物程度に売っているもの、
これを平気で使えるという事は、盆栽も水石も大した事はないのだろう“
こんな言葉をかけられた事が忘れられません💧

今回、通玄庵には、江戸初期の画家として「狩野派四天王」と謳われ、
国宝・重要文化財にも指定される作品を遺した、久隅守景の水墨山水図を掛けてみました。

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名筆の伸びやかで無駄のない筆致と空間使い、紙の古感も良く、何より“表具“の仕立や古裂の質の良さが際立っています。
勿論それでいて主張し過ぎず、全体の席中の“余韻“を高雅静謐にしています。

私達の主たる物は勿論盆栽と水石です。
しかし、知識の研鑽は、最後に盆栽水石に立ち戻る“美への審美“になるように思います。

私は盆栽に対しても、水石に対してもまだまだ未熟です。
“盆栽の素晴らしさの究極は何か!水石の審美の極みは何なのか!“ 
いつも自分に問いかけています。勿論答えなど見つかりません。
しかし、日本文化に息づいた様々な美的遺産が、何かを気が付かせてくれる時があります。
日本画もそのひとつです。

日々、研鑽と修練を怠らず、もっともっと見つめていきたいと思っています。


先日、『WABIチャンネル』の動画撮影をお願いして、名匠木村正彦先生のアトリエに終日お邪魔しました。

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普段からお付き合いのある先生、動画撮影に対しても快く応じて下さいましたが、
まさかここまでの対応をして下さるとは思っておらず、
あらためて盆栽人としての先生の人柄と盆栽に向き合う“生き方“と言える姿に感銘を受けました。

私がお願いしたのは、五葉松の素材、盆中で半世紀を超えているでしょうが、
愛好家があまり手をかけずに“持ち崩した“樹で、直近の業界オークションで、誰も買い手が付かず、僅か1,000円で落札したものです。

“どんな価値の樹でも、愛情を注いで作っていけば、それなりの姿となって応えてくれる“
そんな結論が欲しくてお願いしたのです。

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しかし、木村先生は私の期待を佳き意味で裏切る程の“木村マジック“を披露してくれました。
普段は、名品の改作や、創作に使うアトリエで、1,000円の樹に向き合った瞬間、
先生の目には、金額や樹の優劣など微塵も感じられない姿勢になられたのを身を糺して拝見していました。
冷房もないアトリエ、暑気の中、先生は
4時間かけて、宛ら“醜いアヒルが、白鳥へ“となる技を惜しげもなく披露されたのです。

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“その樹はここをどうにかすれば、5年10年後は、見違えるようになるよ“  いとも簡単に仰いました。
“この方は本当に不世出の盆栽人なんだ“と、心から感じた瞬間でした。
1ヶ月ほどで、手入れの完成、最終的な飾った姿を、前述の『WABIチャンネル』でご覧頂けると思います。
私はこの『1,000円の名樹』をある意味で、羽生雨竹亭の“守り樹“のひとつに迎えようと思っています。
皆さんも、是非『WABIチャンネル』を見て下さい❗️


WABI CHANNEL
(YouTubeに飛びます)



東北6県の愛好家が集って、共同で開催されている「東北銘品盆栽展」

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今年は仙台支部がホスト役となって、昨年と同じく、日本三景のひとつ“松島“の景勝地で開催されました。
半世紀の歴史を持つ展覧会、数多くの盆栽達が、この地から中央盆栽界にもたらされて来ました。

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真柏・五葉松・蝦夷松・米栂・多様な自生地を持つ東北地方、愛好家と方々が山採りから育んだ作品は、
未完のものから国内盆栽界を代表するものまで幅広く、愛好家が主となって、この地域を支える専業盆栽園の協力で続いてきたのです。

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趣味家と業者のより良い関係が、この地には脈々と息づいているように感じました。
以前よりも少し“小振り“なったかな?と思って聞いたところ、“皆んな歳をとってきて、大きい物は運搬がたいへんだからねー!“の弁💦

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それでも、このように6県が協力しあって、ひとつの展覧会を続ける・・
趣味と言うものの
温かさと有り難さを心から思う機会でした。


コロナ禍で数年中断されていた、羽生南小学校での特別講演。
6年生への授業を行いました!

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樹齢250年の真柏古木・楓の寄植え・五葉松の文人木・小中盆栽の“棚飾り“!
各種各様の盆栽の持つ魅力を伝えました。
久しぶりの小学生への授業、盆栽で言えば、“未知なる将来性のかたまり“❗️

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いつも何を伝えようかと思って臨みますが、結局自分が若い頃盆栽から授かった“想い“と、
50年の盆栽人生で経験した思い出を交えながら話しました。

特に“人が寄り添ってこそ生きられる盆栽“と、社会も同じく、1人では誰も生きられない、
“誰かが誰かの為に支えてくれている“と言う事を何よりも伝えました。

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盆栽を観る子達の純粋な眼差し❗️
いつ見てもいいものです❗️

プロの盆栽家として、こんな時間はボランティアでも、何よりも大切に続けたいとあらためて思いました❗️


今年で23年目となる明治神宮社殿回廊における「奉納盆栽展」
そしてコロナ禍、この数年開催が延期されていた水石協会の歴史ある展覧「日本水石名品展」が、
従来通り、社務所講堂で開催されました。

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今回は特別出品として西園寺公望由来の菊花石名品「羽衣」が、都美術館への展示に続いて、“帝都の杜“に出陳されました。

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神宮からは、名石「愛鷹」京都から頼山陽の「青山白水」まさに名石のオンパレードです!

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社殿回廊には、樹齢500年の真柏(高砂庵・故岩崎大蔵先生遺愛)や、今春国風展に出品された蝦夷松古木など20点!
海外からの参拝(観光?)の方々も、初めて見る“ホンモノ“の名木達に感嘆の声をあげて、展示の場は、人だかりで樹が見えないほどでした。

こうして、コロナ前の風景に戻る景色を見ていると、“平和な日常っていいものだなあ“とつくづく思います。
“神域“に飾られた樹々達、盆栽達も嬉しそうです❗️

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