雨竹 盆栽 水石 便り

盆栽歴50年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

2023年05月

【第15回「玄虹会展」】

京都名刹“大徳寺“、芳春院全山を拝借しての、盆栽水石の三昧世界「玄虹会展」が開催されました。
初夏の風趣を織り込んだ、盆栽と水石の室内飾りは圧巻の内容でした。

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“さやけき“細きもみじの旋律、圧巻の古木大樹の陳列!
審美を極めた水石が、名亭茶室に設えられた世界。
芳春院全山に繰り広げられた“玄虹会ワールド“は、盆栽や水石を本来どう楽しむものかを教えてくれます。

ここから数回に分けて、心に染みる席飾りをご紹介します。


国内最大級の欅太幹!
未公開の一位大樹!
阿部倉吉先生の五葉松吹流し石付!


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本堂西室に飾られた三点の大型盆栽。
東北の盆栽大家、“舩山コレクション“として知られる舩山秋英氏の席です。

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中央の欅は、その太さ!
丸幹の姿、何よりも上部の立替し疵の少なさ!
等々、おそらく太幹欅の最高峰と思える作品です。
圧巻という言葉が良く似合うこの樹は、国風展にも未だ登場していないそうです。

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左手の一位、樹相全体が、“舎利芸“と言える程の姿。
未完の一位が、この展覧までに辿った刻は、僅かに5年だそうです!
左手の五葉松は、福島“吾妻山“半世紀以上前に作られた、“吾妻スカイライン“の工事の際、
“開発道路の周辺の樹々は伐採・採取を許可する“とした行政の下、地元の愛好家が、苦労の末に里へ下ろしたものだそうです。
それを吾妻五葉松を世に知らしめた名匠、阿部倉吉先生が、創り上げた傑作です。

大寺院の本堂と言う格調高い質実剛健な建築空間をしても、その存在感に圧倒される展示でした。


第15回玄虹会展の動画をこちらからご視聴いただけます☟


いつの間にか、夏日の多くなる季節となりました。
潤湿な空気、ともすれば鬱陶しさすら感じる中、盆栽の床飾りだけでも、どこか清々しいものを創りたいものです。

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深山の大木に絡み、天高く花を咲かせる“岩がらみ“、見上げれば、まるで蝶が空に舞うような錯覚をする季節の有難い樹です。

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掛物は、“東の大観“に比肩される“西の栖鳳”、竹内栖鳳の若描きの「雨裏新螢」の図です。
山深い清流の緑蔭に、夕闇近くなると、仄かに光る様は、儚さの極みといった風情を感じさせてくれます。

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脇床に「駿河千本竹細工」の虫籠。
飾り道具として、夏景色には本領を発揮する小道具です。
繋ぎ目もわからない程の精緻な作り、職方の数も減り、今では入手も難しくなってきた道具です。
まだ観ぬ螢、籠の戸口を開けて、“ほ、ほ、ほたる来い“  の人の心の願いが聞こえてきそうです。

観るだけで、スッと涼を感じる席、こんな飾りもこの時期は楽しみたいものです。


先日、久しぶりに千葉県匝瑳市、マルキョウ盆栽交換会(オークション)に行ってきました。
長いお付き合いのある会、盆栽界の中央本部「水曜会」私エスキューブの「天地会」と共に、関東方面の流通市場の一翼を担う大きな会です。

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一回で2000~3000万の出来高(現金会)ですが、近年の様相は、ここだけではなく、全体として将来への課題を感じるものが多くなりました。

例えばマルキョウでも、買付の60%が海外勢!(私も同じくらい特別の扱いと見られているようですが、笑)
残りの40%の内、私が30%、つまり多くの参加者は、海外特に中国勢の“リモート“と呼ばれる、
iPhoneをかざして、中国にいる本来の買付者の“代行“をしている人達。

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彼らの殆どは、自分で作ったり、売ったり、お客様とお付き合いするのではなく、只々、注文を取って仲介料を得るのみです。
勿論、商売の在り方は様々で、そんな人達も流通には大切ですが、
憂うのは、このジャンルに多くの日本盆栽業が手をするように、頼り切っている事です。
私が修行をしていた45年前は、日本の業者達が、自分の思う樹をプロとして精一杯買い合うのが、交換会でした。

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“交換会“とはよく言ったものです。
売る時も“卸値“になりますが、自分の店や庭で中々お客様に向かない樹を多少損しても会で手放して、
その代わりに卸値で、新たな仕入れをして、自分の庭で作ったり飾ったり・・そんな世界でした。

国内全体の愛好家が、高齢化する中、やや大型となると、買い手が付かない時期がありました。
そこに海外勢が“黒船“のように押し寄せたのです。有難くもあり💦複雑な思いもあり💦です。
私達プロ業者として、次の時代の盆栽界を真剣に考えるべき時期が来ているように思います。
若い方々に伝える盆栽の素晴らしさ!
見習い中のプロ達を導く世界。

老成する歳になった私達の責務だと思います。

【希少種・“山蔓あじさい“の床間飾り❗️】

今月末、大徳寺芳春院を舞台に開催される「第15回・玄虹会展」 
盆栽水石の趣味家の皆さんが、名木名石のみならず、
何気ない季節の移ろいを感じる樹々や山野草を含めて、名刹の空気感の中に繰り広げられる奥深い展示会。

毎年展示される皆さんと、展示内容に対しての熟考が日々続いています。
“霧煙る5月“  潤湿な日本の美しい自然観を、盆栽や水石の飾りを通して、どのように表現するか? 
その時々の“切り取った風景・伝えたい内面の趣向”   特に季節の盆栽達は、の“旬“を展示に合わせるのに苦労しています。

先日、琵琶湖そばに住する古老玄虹会員の方が、展示に予定していた珍しい“山蔓あじさい“。
何とか月末の展示に使おうと、私達の仲間の宮城県の加藤君の所に、花を遅らせる為に預けておきましたが、
残念ながら今年の異常な暖かさで、飾れない事になりました。

折角の樹、ご本人と相談して、大徳寺芳春院の庭園床の間に、玄虹会展に飾ろうとしていた姿で設えてみました。

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深山に咲く降り下りる樹姿、そこに咲く自然の謳歌、掛物には日比野白圭の「ほととぎす」

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間調子も良く、展覧で多くの方々に披露出来なかった事は残念ですが、
こうして今年見られる今年だけの姿、庭園に訪れる海外を中心の来園者が、感嘆の声を上げられるのを見ると、
盆栽は庭や棚だけで楽しむものではなく、そこに自然の移ろいや日本人が心に持つ心象の風景をどれ程憧れているか分かります。

樹齢数百年の名木も良いものですが、季節を切り取った世界観は、心を誘われます。

玄虹会展について詳しくはこちら👇
雨竹亭ホームページ

【“未来の名木“へ‼️】

一昨年、某所に30年以上畑植えで培養されていた真柏。

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庭木の素材として若木の頃に“曲付け“されていた樹、それが功を奏して、“この幹なら枝接ぎで大型真柏の盆栽へ変貌出来るかもしれない!“。
こんな思いで、木箱に入れて2年、芽の伸びるこの時期に合わせて、穂を用意して幹への枝接ぎ技法の一種、“胴への予備接ぎ“を行いました。

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太い幹の水をよくあげている所を見極めて、更に将来の樹形を想像して、必要な箇所に注ぎ込みました。

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穂材と幹、双方の形成層を合わせることが難しく、ここから数ヶ月で、活着の是非が確認できます。
現在、日本の真柏素材は枯渇状態!
このような技法で新たな盆栽を作っていく事も、私達の責任です!

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