雨竹 盆栽 水石 便り

盆栽歴50年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

2021年10月


澄んだ空の下、羽生雨竹亭の盆栽庭園も、徐々に彩りを増しています。

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コロナ禍で、お客様に“遊びにいらして下さい!“と、お声をかける事も憚るような日常が続いてきましたが、
感染される方々が減少して、世の中も“外へ出かけて気分を晴らしたい!“と願う人達でいっぱいのようです。

私達盆栽業も、こんな時少しでも自然や広々とした庭園で、
のんびり盆栽の四季の移ろいを楽しんで頂くことが、皆さんに出来る事と、
スタッフで庭園や樹々・水石達を飾ってみました。


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一年半、今までにない刻をすべての人達が過ごしてきた中で、あらためて盆栽達をゆっくり観て頂ける機会にして頂ければと、願っています。

「観照会」の字に、“観賞会の間違い?“と言われますが、
観賞は長め愛でること、観照は目の前にある樹や石と自分で対峙して、心の内側にある景色を照らして楽しむこと、
その願いを込めています。

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葺き替えの済んだ展示場と応接室、壁の仕上げも開園以来の改修をしての開催です。
盆栽や水石達に、是非会いに来て下さい。
11月1日~7日9時~16時


羽生本店雨竹亭ホームページ
【羽生本店雨竹亭 観照会のお知らせ】

羽生本店雨竹亭
アクセスはこちらから


【久々の1億円超え❗️約1000点の落札‼️】

雨竹亭も加入している、日本の盆栽界の中心的流通市場・盆栽協同組合“水曜会“の秋季大会が、
上野グリーン倶楽部で14日開催されました!
前日の搬入は全国から出品される盆栽で、倶楽部が埋め尽くされる有り様!

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朝8時からのセリ人の掛け声で始まったオークションは、目利きセリ人達の、一瞬の品定めで、発句が行われて、
同じ値が3度掛けられると落札されると言う、一般の愛好家では、着いていけない様相。


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慣れている私達は自分がこれと思うものがセリ台に載ると、合い声をかけて落札できるか?
荷主・セリ人・との丁々発止が行われます。
誰もが欲しいものは似ていますが、私を含めて“強者“と呼ばれる上位20者が、秀品の多くを落札します。
暗くなるまでかかった大会、総出来高、1億円の大台に乗ったのは久しぶりです。
それでも、“どうしても欲しい“と思う程の名品は僅か。
またそれらは大手が競い合う状態がいつもです(笑)
雨竹亭の落札は550万ほど。
ウェブサイトでの商品、銀座店に飾りやすいものなど、市場で手に入れる物には限りがあります。

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全国に散らばる仲間が集う場、老も若きも同業者同士、各地の様子を語り合ったり、
コロナが少しずつ収束する中での、盆栽展などの話が尽きません。
いよいよ、秋本番!盆栽の本格的シーズンが始まります!


【王者の真柏!大改作の末!師匠木村正彦先生も絶賛‼️】

2年の雌伏の時を経て、長く雨竹亭の非公開培養場で生育されてきた真柏大樹が、
日頃エスキューブの手入れの協力をしてくれる森山義彦君の手によって、今年の日本盆栽作風展審査会で、映えある大賞を受章しました。


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32歳と言う最年少での大賞、九州の地から、名匠木村先生の下で修行の日々を送り、
二代目と言う身でありながら、中央で己の技を極めたいと、私の所のそばに盆栽園を構えた彼。
技術者として真摯に盆栽と取り組む彼には、木村正彦先生の真の弟子として、技術者の道を歩んでほしいと、今回の改作の橋渡し役を務めました。




長く未公開名樹と噂されてきたこの真柏。
私の大旦那さんである舩山先生に、“若者の未来をご一緒に作ってほしい“と懇願し、
大金をはたいて、ご自分の名では数年は展示もできない事を理解して頂き、森山君の夢が叶ったのです。

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若き盆栽家が、誰もが夢に描く“作風展の内閣“。
立ちはだかる“大金がかかる素材の探索と入手“、作者だけでは叶わない事が殆どです。
“森前さんは、自分が20年も手がけた樹が、表裏逆転の末、自分でない者が脚光を浴びるのは良いのか?“
と、私を気遣ってくれる仲間もいました。

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60を超えている私。
願うことは、その盆栽が私が手掛けるよりも更に価値ある姿に導ける者に託す事、
そして、未来のある若者の背中を押す事になれる事、誰よりも森山君の大賞受章を喜んでいるのは私なのです。
勿論、私の言葉を信じて、夢の改作を見守って下さった舩山会長の懐の深さには感謝に堪えません。
いずれ、『近代盆栽』に改作の経緯が発表されます。
是非、皆さんも木村先生の愛弟子、森山君の晴姿を名樹と共にご覧になって下さい。


【夜長の季節、禅語と盆栽水石飾り!】

澄んだ夜空の月が美しく感じる秋。
盆栽庭園の展示場飾りも、季節の良さで心に染みる楽しみの頃となりました。
連席を芳春院ご住職の揮毫による禅語との取合わせで組み立ててみました。
国風展級の樹でもなく、水石展級の石でもないものが、
“設え“と言う日本文化が培って来た“席の構成が織りなす美の気韻“で、観者に響くものを感じさせてくれます。
三席の禅語の意味と共にご覧下さい。



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「月落露光冷 獨坐松根下」
月落ちて露光冷ややかなり 私はひとり松の根元に居る

五葉松の樹齢約百年の木立。
自然の三幹の生い立つ無理ない姿。
脇には佐治川のくずや石。

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禅林の夜、老松は月明かりの下で夜露の微かな光を見せている。
そんな景色を松と石が描き出しています。
くずや石は、“羅屋“と呼ばれる座禅をする粗末な庵を想わせます。
静けさ極まる禅寺の宵闇の景色が浮かび上がります。



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「鳥啼山更幽」 
鳥啼きて山更に幽なり

文房卓から変化した二段卓に、真柏の幹模様ある文人風の樹、下段に老僧を想わせる八海山石。
脇には楓の数本からなる林間の風景。


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精神性深い真柏、見立て心で感じとる姿石、そして簡略化された中に自然の景を見せる楓。
自然界にある“当たり前の景色“が如何に深いものかを語っています。
“鳥が啼き、山々はその静かな荘厳さを更に深く示している“
まさに、自然の偉大さを伝えてくれています。



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「時雨洗紅葉」 
時雨紅葉を洗う

見上げるようなケヤキの大木立。
樹下には山草の有り様を想わせる風知草。
間もなく訪れる晩秋の紅葉の景色は、この前後の意味を形に表しています。
時雨は人生の苦難を意味して、その時代や経験を超えてこそ、本当の人生の素晴らしさがある
(美しい紅葉)盆栽も酷暑を耐えて私達に目に鮮やかな紅葉を見せてくれるのです。
私達も、苦労を歓迎して日々を前向きに生きたいですね!


10月7日、羽生雨竹亭において、業界人専売オークション、第145回「天地会」が開催されました。
台風の影響で1週間の延期通知をしたのも初めてです。
この1週間の間に、新潟県で大切に培養されて来た未公開の真柏逸材を入手する機会を得て、
久々の“ホンモノ“に、商売ではあっても、胸躍るものがあり、
2日間の夜間手入れと植替えで、私が思う“真柏の盆栽はこうでありたい“と思う作品になりました。

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天地会の延期は各方面の仲間達の“台風“に対する配慮で決めた事なので、後悔もしていませんが、
中々逸品がオークションに出品されることがない昨今、“売れなくてもいい“と言う気持ちを持ちながら、出品に踏み切りました!


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結果、中国バイヤーを警戒していましたが、木村正彦先生、小林國雄先生と言う巨頭のオークションバトル!と言う思いもよらない形になりました!
勿論、私が入手した価格よりも数段高いビットが続き、最終的に木村先生が落札された事は、有り難い限り、、なのですが、
不思議に嬉しくもなく、何となく寂しい想いを抱いたのは、この樹が本当に名樹として庭に置いておきたい!気持ちが強かったのかもしれません。
こうして、どれくらいの逸樹をこの庭から送り出したでしょうか?

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考えても仕方がない事、と分かっているのですが、歳でしょうか?不思議なものです。
盆栽で食べながら、良い盆栽は売りたくない!
わがままですよね!
それでも、また明日出会う樹達との一生懸命、生きていきます!

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