雨竹 盆栽 水石 便り

盆栽歴50年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

2020年11月



分不相応な夢。
2年前に大徳寺芳春院のご住職より頂いた「盆栽庭園」の構想。
再三のご辞退願いの末に、私淑するご住職の想いを受け止めて、
自分の人生設計(元々たいしたものではなかったのですが)を変えて臨んだ庭園進行。
コロナの影響で、正式な開園を来春の3月にした中、ご縁ある京都盆栽財団の「慶雲庵」田中理事長と
お世話になって来た『月刊・近代盆栽』の徳尾会長のお話で、
11月28日〜12月6日まで、財団初の単独展に庭園をご利用頂くことになりました。


IMG_0748

21日に京都入りして、とにかく掃除掃除の毎日!
24日より、財団所有の盆栽達が、長野鈴木伸二さん・エスキューブ・より続々と庭に運び込まれ、
目の回る忙しさの中、ようやく準備完了となりました。

IMG_0747
何も無かった150年間未使用の地、庭園前が秀吉が信長の一周忌を執り行った・総見院、斜め前が、千利休を筆頭とする茶道千家の菩提寺・聚光院、
そして後ろがこの盆栽庭園の所有者である芳春院の加賀前田家の墓所。
ここに盆栽庭園が出来るなんて、当の私ですら今も“夢の中か?“と思うくらいです。


21日以来、ホテルには泊まらず、日々をこの名刹の中で暮らしています。
深夜、庭に佇めば、蹲に落ちる一滴の水音までが、はっきりと聞こえる静寂。
月明かりの下に仄かに見える盆栽達。

IMG_0749
IMG_0750
これからここを舞台に私に何が出来るものか?見当もつきません。
ひとつだけ言えることは、46年前、15才の時、世間から離れた山奥の禅寺で修行僧になる事に憧れた小僧が、
紆余曲折の人生の末、多くの人々に導かれて、日本の禅林を代表する地に、盆栽庭園を預かる事になったと言うことです。
不思議な想いですが、私はここに辿り着く為に今まで生かされて来たのかもしれません。
そして、これからも多くの出会いを頂きながら、人生の修行をさせて頂くのだと思います。
間もなく禅林文化の中に、初めて盆栽が根付きます。
もう一度、10代のあの頃に心を戻して、修行の始まりです。



明日から長留守の京都行き。
展覧会の事や、大徳寺に対する礼儀など、無学な私には神経衰弱になりそうな毎日です💦

こんな時は、本来の自分に戻って、樹作りの時間を作る事が1番です。
木村先生門下・森山義彦君、私の所の卒業生(もう一人前の盆栽業者ですが)白石友也君、
そして3年の修行を終えて間もなく故郷中国へ帰るハオ君とツァオ君。
4人の力を借りて、四国から運んだ大阪松(宮島五葉松)の幹曲げ、枝曲げを伴う改作を行いました。

IMG_0714

素材の激減する中、若いみんなには、こんなそのままでは誰も見てくれない樹が、“本筋“に変貌してゆく姿を体現してもらいたかったのです。


IMG_0715
名匠木村正彦先生よりの鉄棒やジャッキを使った、樹の限界との挑戦のような仕事!


すぐには人前に飾れるものでは無いけれど、数年の刻をかければ、鉄棒も外れて、“これがあの時の樹?“と言うようになってくれると思います。

IMG_0716
やっぱり、樹と一緒に過ごしている時間は、何よりも楽しいですね♪



完成を間近にした、大徳寺内の盆栽庭園。


IMG_0659
細かな所を色々と想うと、庭園を預かる者として、頭が痛くなる思いです。

門入口脇の桜川砂を敷いた所に予定している、枯山水の石組の仮置きをしました。
尊敬する蔓青園加藤三郎先生の遺愛品である、揖斐川の龍眼石と伊予石。


IMG_0663
IMG_0660
5代目園主、崇寿氏より割愛を頂き、本来は来年の3月の開園前に正式に設ようと思っていましたが、
28日からの「京都国際文化振興財団・慶雲庵」の、同所で行う財団展に際して、
入口を砂敷だけでお迎えするより、惜しまず披露しようと思いました。

大徳寺の中には、多くの名勝名園があり、禅林としての枯山水庭園は、日本を代表する歴史深いものが各所にあります。
その中で、私のような盆栽水石以外何の能も無い者が、ここに枯山水などと言えるものを設るなど、おこがましい限りです。

揖斐川の龍眼石は、盆栽界で石付に用いる石、三郎先生は創作的景色を大切にした作品を多く遺されましたが、
平石やこの龍眼石を使っての盆栽への造詣において、他の手本を示されました。
その先達の遺愛品を使ってこの庭園に“盆栽を付けない石で景色を表現してみたい”と言うのが、この枯山水なのです。


IMG_0661
IMG_0662
取り敢えず、仮組をして、最終的には、秋吉ご住職のご指示を頂いて固めたいと思っています。
私が出来るのは、三郎先生達が築かれた盆栽界への想いをこの日本を代表する名刹が開く盆栽庭園に遺すこと、それだけです。
もう少しで、全体が仕上がります。
還暦を過ぎて、日々勉強の毎日です!



来春2月の国風盆栽展、1月初旬には審査申込み締切、下旬には選考審査。
ここから本格的な樹の準備に入ります。

IMG_0578
エスキューブは、通年木村正彦先生と共同で進めていますが、申込み予定の樹は、11月中にハウスに取り込んで、手入れや状態の万全に努めます。
先日も先生の所に伺って、今年の進行の打合せ をしました。
真柏・黒松・五葉松・その他、多種多様な盆栽がこれから先生のアトリエハウスに集まります。


IMG_0576

多い時は50点を超える最上級の盆栽達が、所狭しとハウス内に置かれます。
既に先行して搬入してあるもの、これからお客様の所からお預かりしてくるもの、
審査での評価が楽勝のもの、手入れを入念にして、1点でも審査点を上げたいもの、
鉢映りを直さないといけないもの、一人ひとりのお客様の気持ちになって、考えなければならず、思案に苦労します。


IMG_0577

それでも、国内最高の展覧にご自身の盆栽が飾られた時の、愛好家の方々の嬉しそうなお顔を思えば、
精一杯のお手伝いに努めないとと、気を引き締めての準備が始まります。





暦の上では、もう立冬。
暮らしのまわりにも“過ぎゆく秋”が感じられます。
夏の終わり頃に手に入れた柿の盆栽が、ようやく飾れる時になりました。

IMG_0477
スタッフ達は、“間もなく実も終わりますが“、とずっと言っていましたが、
私は柿の盆栽に求めるのは、たわわの実なりが過ぎて、僅かに残った葉の実の風情こそが、柿に描きたい世界だと思っています。

飾る当日、残された葉の半分を取る、この時、“自然に落ちてゆく葉姿“を心に浮かべて、
人間がいかにも“わざとらしく少なくした“感じが出ないように心がけました。

IMG_0478
IMG_0479
鉢も今まで白い丸鉢に入っていたものを、“侘びた風情“が一層となるように、丹波焼の古鉢に、根を痛めないようにそっと植え替えました。

取り合わせた掛物は、田中訥言の「時雨の散り紅葉」。

IMG_0480

霜月の山風に葉を散らしてゆくもみじ。淡彩で描かれているので、柿の実の色を殺さず、溶けあってくれました。

添えには、木彫の茅屋。


IMG_0481
山里の晩秋の景色が、席中に表現出来たかなと思います。

この柿の見頃は、僅かに5~7日程です。
でも、季節の移ろいとは、そんな具合が丁度良いです。
その1週間の為に、1年の培養を続ける。
こんな贅沢こそが、盆栽趣味の醍醐味だと思っています。
さり気無い柿の盆栽。
国風展などに出品される老名樹とは違いますが、心に沁みる点では、些かも負けていません。
そこに込められたそれまでの時間、想い、
盆栽飾りは、これでいいと言うものがなく、奥が深く、私もまだまだ樹に教えてもらう事ばかりです。

↑このページのトップヘ