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盆栽歴50年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

2020年10月

五葉松・黒松の生産と育成では、国内随一の高松鬼無地方。
鬼無を代表される「小西松楽園」小西幸彦先生の所へ伺いました。
前回お伺いした時、今は殆ど手に入らない、“銀八”宮島五葉松を苗から育成され、中品盆栽に仕上げた夥しい鉢数を見て驚きました。

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「通年ならヨーロッパなどからの注文で、この時期は予約品で売る物も無い時なのに、今年はコロナの事で、来年の鉢上げ分をどうやって棚に置こうか悩んでいる」
これを聞いて、棚に広がる千点近いこれらの樹を全部譲って頂く事にして、今回それを引取りに来ました。

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ご家族総出で積込みを手伝って頂く中、“ちょっと来てくれ“と言われ、
小西先生と暫く歩くと、目を疑う程の大型太幹の五葉松が、整然と植え並んでいました!

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“親の代に植えて、私の時代でも半世紀を超えた作出をした樹達。森前君が良ければ譲ろう”と申されました。
鬼無各地を廻りましたが、こんなに手間をかけて見事に作出した太幹物は、初めて見ました。

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来春の抜き込み、移動、という事で譲って頂くことになり、思いがけない縁を頂きました。
老匠達が、刻を惜しまずに手がけた鬼無の銀八五葉松。
有り難くもあり、次の時代にはこのような樹達がこの街からも消えてゆく事に、複雑な思いも抱きました。
世の中の生活レベルが向上して、日が昇り、暮れるまで、樹と土にまみれて暮らされて来た先輩達が残された遺産。
これからは“5~8年位で出荷できる生産品へ“となっている現状。
盆栽がいかに人の刻を削って作り上げられてきたのか、私達は伝えていかなければいけないと痛感しました。
鬼無に来ると、何故か心が穏やかになります。
それはきっと、そこで盆栽達の育成に努められる皆さんが、自然と樹と共に、無理せず暮らされているからなのかもしれません。
羽生に運ぶこの子達を、大切に盆栽を愛される皆さんへ繋いでゆく事の重さを感じる1日でした。


一年の時をかけて進めた、大徳寺芳春院・盆栽庭園も、いよいよ最終的な仕上げの工事に入りました。
先週、庭方の親方と盆栽を庭に乗せる石柱(初めは灯籠の竿柱を使う予定でしたが、和尚様の案で、贅沢な御影石の石柱になりました)
の位置と高さを決めて、この日羽生から昨年中国から運んだ清の時代の水瓶を三基、庭に埋め込んで配置しました。

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石柱が立ってくると、ここに厚みある板を敷いて台として、盆栽を飾る姿が空間的に見えてきます。
庭方・建方・皆さんさすがに大徳寺のお仕事をなさる方々。

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一を伝えれば百を理解され、共にこの庭園を預かる者として、ひとつひとつの出来事に、緊張感が生まれます。
何よりも、傍で見守ってくださる和尚様は、いつも穏やかで、それでいて和尚様の眼が皆んなを引き締めている気がします。
ここから10日に一度の仕上げの進みで、11月半ばには完成します。

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盆栽が置かれた姿を思うと、身が引き締まります。

でも、展示場・手入れ小屋・手洗い・すべてが白木造り!
毎日の掃除に今から目が回りそうです♪ 
誰か一緒に守ってくれる盆栽が好きな“変わり者“の若い人いないですかね!

【圧巻の春花園の盆栽群!】

来春の「第7回・日本の水石展」審査会が協会理事長宅、春花園で行われました。

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コロナ禍の中、150席の参加に感謝の限り!
内容高い展覧となります。


それにしても、小林理事長の所の盆栽群は、溜息の出るレベル!

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流石に美術館を名乗るだけの最高級!
蔓青園さん、鈴木伸二さんも、理事として参加しましたが、3人で “これだけのコレクションをプロでしている所は、ここだけだね”と。

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近く、盆栽『天』樹鉢『地』に続いて、集大成の水石を含めた小林國雄の大観を刊行する予定とのこと。
日本の盆栽水石界に残る本になる事を期待したいです!


台風の接近に一喜一憂する盆栽園、秋晴れの日になると、心がホッとします。
“名匠“木村正彦先生にお願いしていた五葉松の根連りが仕上がって帰ってきました。
2年前、うらぶれた姿で市場に売られていた木、培養の安定を確認するまで我慢して、先生に持ち込みました。

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100年を超える樹齢を見せる樹、揺れ立つ幹姿は、どんな盆栽作家でも創出することは出来ない味です。
「松風を聴く」・・そんな景色を創ってみました。

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掛軸は明治の名筆・山元春挙「来雁図」。

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渡り鳥の雁は、中秋から晩秋にかけて日本に飛んで来ます。
遠見に飛ぶ雁の群れのみで画中を構成しているのは、大家ならではの腕!
余計な書き込みがないだけ、主木をよく扶けてくれます。

脇には古谷石の重畳とした連峰の姿。

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大陸から島々を超えて来た雁の有り様を、席全体で表現しています。
やっぱり、持込みの古い松はいいですね!


造営が進んでいる「大徳寺盆栽庭園」。
大門の右方の延段脇を飾る枯山水庭園、盆栽の景石「揖斐川龍眼石・伊予石」を使っての作庭を考えました。
歴史ある名刹を預かる庭師の親方達、庭園の本体部分は私などが口を挟むものなどないくらいのレベル!
入口の左右の仕様を預かった私が考えたのは「盆栽師ならではの枯山水」。

先日諸用で名園「蔓青園」さんに伺った際、現当主(五代目!)の崇寿さんに、大徳寺の計画を伝えて、
所蔵されている三代目三郎先生の遺品である景石郡の割愛をお願いしたところ、
“売り物ではない、と普段言っていますが、歴史ある名刹に私利を捨てて盆栽庭園を作られる森前さんに協力します”
と、亡き日本盆栽界の恩人、加藤三郎先生の集められた石群を、しかも、仮組みをして使いたいものだけを分けて頂く事になったのです。

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冷雨降る日、庭の各所に散る遺愛石を出しては並べ、また戻し、半日ほどかけて十数点の古石を有り難く割愛頂きました。
果たして、後日この石達が、現場でどのような「貌」を見せてくれるか?まだ、私も半信半疑です。

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でも、蔓青園さんにかけて頂いた心、天国にいる三郎先生への想い、色々なものを込めて込めて「盆栽師の景石枯山水」に挑んでみようと思います。

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雨の中、びしょ濡れになって、何度も何度も組み直しをする私に嫌な顔ひとつ見せずに手伝ってくれた若衆の皆さん、ありがとうございました。

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