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盆栽歴50年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

2020年05月

【四天王発見!】

3年前、九州八女地方の山里で、代々守り継がれた絶滅種「祖母五葉松」が確認され、
エスキューブによって『世界盆栽大会』の場で、総額1億円の公開がされたことは、盆栽界のニュースとして大きく取り上げられました。
今回、祖母五葉松を守った現地田中家から秘匿のうちに譲り移された「祖母四天王」と言われた名樹4点が、小店へ届きました。
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どのような経緯かは、先方との約束で秘匿しなければなりませんが、
田中家に残された幾つかの古樹は、現ご当主の意向で、“今あるものは、私の代はここで大切に遺したい”ということで、これ以上の割愛は当時から諦めていました。
今回、羽生に届いた四天王は、圧倒的な存在感。世界大会の巨樹3点に準じる現存が信じられないほどのものでした。
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“これだけの歴史的遺産をどのようにすれば良いものか?”
・・今は唯々現状な生育に努めることを第一に考えています。
3年前、九州に出向き、古老ご夫妻と膝を交えての相談をしたあの時を、ご夫妻の写真を見ながら思い出します。
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80年近く前、戦時色濃くなる中、軍部より
“盆栽など何の役にも立たない。置場を薩摩芋を作るように捨ててしまえ”
との命令に、方便で「畑にする時の風除けに植えますから」と泣く泣く鉢から外して地に植え、
目立たぬように日々夜半に桶で水を与えたと当主田中氏に伺ったことを思い出しました。
盆栽人として、先人が命がけで守ってきたこの稀少種達、同じ心で良き彼らの安住の地を探したいと思います。


いつの間にか、新緑に目も慣れた今、雨竹亭の応接室も季節の雰囲気が変わってきます。
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日本人は歳時記に謳われているように、春夏秋冬の四季から、12ヶ月の暦、そして二十四節気の移ろい、
果てには日々の日射しや気を敏感に捉えた七十二候(およそ5日ごとに変化してゆく自然観)など、まさに自然と共に自然の中に生活を営んでいます。
私達盆栽家も、日々の手入れや商売に追われながらも、日本人として盆栽人として、
お越しくださる(今はコロナで殆ど誰も来ませんが!)皆様に盆栽・水石・山野草・の美しさ、素晴らしさをお見せする役目を忘れずに努めたいと思っています。

菖蒲の花が咲き始めました。
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端午の節句に剣に見立てた菖蒲を飾り「菖蒲湯」に浸かる。
江戸の昔から続く風俗文化です。
この菖蒲は鉢で4~5年持ち込んだもので、締まった姿に仕上がりました。
この持ち込んだ姿は今年が見頃。
ここまで根が締まってきたら、植替えが必要です。
また数年の培養で、勿論毎年楽しませてくれますが、本当に美しさを見せてくれるのは、その中で植替え前の最後の1回です。
山野草はどちらかと言えば、盆栽と比べて低く見られがちですが、
奥の深いもので、人の手が過度に加えられない事が、審美の心を駆り立ててくれます。
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掛軸は、戦前の名筆・田中以知庵の「飛燕図」つがいで飛び交う姿は、この季節に巣作りに励む燕そのものの風景です。
脇床には安部川石の清冽な滝石。
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水を打った古銅水盤に瑞々しい涼景を見せる石は、立夏を迎えた“先取りの飾り”の好機と言えます。
床飾りの側面棚には、ヤマコウバシの寄せ植え。
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新緑が映える高原の林間が優しく映し出されています。このヤマコウバシは、先日惜しまれながら天国に逝った勝俣先生の作品です。
野山にあるヤマコウバシを寄植え盆栽の代表的な美へと導いた盆栽界の恩人です。
鉢に入れると数十年を経ても太らない、切返しでの造りを嫌うヤマコウバシは、雑木盆栽の“優しい美”をとても良く表現してくれます。
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足下の菖蒲・仰ぐ山々の中にある滝・その向こうの山中の高原の林間。
ひとつひとつが奏でる美が、共鳴して日本の四季の「今」を室に醸し出しています。


〈コロナ災禍で刻を止めた日々・盆栽との静かな時間〉

半世紀近く、盆栽業をさせていただく中で、ゴールデンウィークと言えば、お得意様・一般の盆栽に興味を持たれる方々の対応に追われる年に1度の季節。
今年は人生の中で初めて“誰も居ない”この時期を過ごしています。
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17人のスタッフ、内12名の男子は、
普段ならそれぞれの仕事(銀座店・レンタル盆栽・本店管理)などに分かれて慌しい日々を過ごしているのですが、今は庭内の仕事が殆ど!
仕事の合間に盆栽棚で腰に剪定鋏と又枝切とピンセットを持って、
ひとつひとつの樹の細かい切込みをしていると、吹き抜ける風の音と、自分で切っている鋏の音だけが聞こえてきます。
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世の中がウィルス災禍で身動きが出来ない中、こうして自分の広い庭で1日中手入れをしていられる事に感謝しなければいけないのですが、
手入れをした盆栽達を見て楽しんでくださる方々が、誰も訪れない不思議な今、
私達盆栽家が出来ることって何だろうと、自問自答してしまいます。
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何か世間のためになる事はないものか?
こうして出来るだけ、自分の出来る事を発信して、たとえ一人の方にでも、盆栽を伝える事になればと、拙い願いを込めています。
“出かけないように”と、世の中は言っています。
それでもせめて写真の中だけでも「盆栽の楽園」を見ていただいて、少しでも心の癒しにして欲しいです。 
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