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盆栽歴50年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

2019年03月


【木村正彦先生の真柏と寒桜】

彼岸を超えて 各地からソメイヨシノの開花が伝えられる中、盆栽も季節の移ろいを日々現す頃となりました。
月末から月初にかけて 久しぶりの海外。
今回は約100点の名木の植え替えを現地で行う為、熟練のスタッフから見習いまで、総勢9名で 渡航します。
10日間も羽生をこの季節に空けるのは、芽出しの季節、心苦しく辛いのですが、
日本から渡った真柏などの名樹達を手入れをせずにそのままにしておくわけもいかず、お手間賃も有難いほど考えて下さる愛好家。
せめて 出かける前の“今”を応接室に設えて行こうと思いました。
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帰国する頃には 桜は満開を過ぎ、名残の葉桜、盆栽も この寒桜を早春飾りの最期に、
ここからは枝垂れ桜の儚い美しさが、庭内・室内を満たしてくれます。
先日 名匠木村正彦先生の所から来た、真柏の大型古木に満開の寒桜。
朧の月の掛け軸と共に、寒桜の“刹那”の美・真柏の連綿と続く荘厳な命の営み、盆栽の持つ美と精神の両面を飾ってみました。
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・・・やっぱりこの季節はこの羽生、日本にいたいです!


【著名盆栽園主 多数参加、約2500万円の取引高!】

3月19日 栃木県鹿沼市 花木センター内 緑の産業館(以前エスキューブで、至宝展・風雅展を開催した建物)で、
北関東盆栽組合主催による 春の大会オークションが開催されました。
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地元は勿論の事、私達 埼玉県の盆栽業者や日本盆栽界を代表する園主達
(蔓青園・今井水光園・大嶋日本盆栽協同組合理事長・山北松月園・等々)
が揃い、将来の名品となる逸材・季節の美しさを奏でる樹々・味わい豊かな風流な樹・盆器・水石、
夕方までかけて、競り声は続きました。
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激減する素材・流出が続く名品・様々な想いを胸に各自は 作品の自己評価と競り値に、一喜一憂していました。
お陰様で、エスキューブも予定通り2トントラック二段積み一台分の仕入れが出来ました。
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【温暖化で予定急ぎ!】

「三寒四温」と言う言葉は既に死語。
染井吉野の開花宣言も全国で早まっています。
盆栽も雑木盆栽を中心に 芽の動きが早くなって、鉢映りや根の老化による植え替えが必要なものを、
早めに施術しなければならず、先日 スタッフ8名を集合させて2日間で60点の植え替えをしました。
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特に鉢映りは、ここからの3~4年のその樹の姿を決める大切なもの!
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羽生の庭内に2000点以上ある鉢でも、ピッタリと言える鉢合せをするには苦労があります。
用土も老成した樹・成長を必要とする樹・実成りを促進する樹、
それぞれの樹に合わせた配合と混入させる肥料分が違います。 
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大切な僅か5~8度の角度の差による樹の正面の捉え方も、その盆栽の表情を大きく変えるものです。
エスキューブ雨竹亭は、年間に800~1000点の盆栽が動きます。
ありがたいことですが、その為に前年に新たに雨竹亭の“家族”となった盆栽達は、
根の処理・鉢映り・樹の表情への創出・など、様々な処置が必要となります。
まさに春は戦争です!
そんな中でも、お世話になる愛好家の皆様のお手入れ(出仕事)も欠かせません。
羽生に在園出来る時間のすべてを“次の季節を無事に美しく過ごす”為の手入れの時間にします。還暦となった中、2日続けると腕が上がらなくなります(笑)。
その分、若きスタッフ達が、まるで盆栽が徐々に仕上がってゆく様に ある程度 仕事を任せられるようになってゆく姿が 嬉しいものです!


【展示用の古鉢群の圧倒的な充実と日々変わらぬ手入れ作品】

貴重盆栽登録審査会の打合せで、木村先生の庭に伺いました。
国風展が終わり、貸し出しされていた展示用の古鉢群が、丁度並んでいました。
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古渡大型鉢から3点飾り用の中型鉢まで、「これだけあれば、多くの作品の利用に充分」と言える保管量です。
日頃から先生は
「私にとって古鉢は、売り買いするものではなく、盆栽を映えさせる衣装のようなもの。必要なものを少しずつ集めた結果」
と仰っています。
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愛好家の仮植えから戻されて元の鉢に植えられた盆栽は、
樹勢を留意して先生のハウスで、3~5週間状態の安定が確認されるまで管理されます。
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そんな中でも先生は、新たな作品作りに邁進されています。
老成されてなお、制作意欲は衰えるどころか 益々意気軒昂!
すべての点で 盆栽人として見習うことばかりの大先輩です。

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3月2日~3日僅か2日間、京都名刹 大徳寺の中の芳春院で開催された『第11回玄虹会展』。
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特に別室床飾りで披露された寺内幸夫氏の展示は、盆栽趣味の文化的な真髄を物語るものでした。
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主木の黒松は、名人会田一松翁が最後まで愛した名樹として名高いもの。
「盆栽とは肥培するものではなく、枯淡の風趣を枝ひとつの中にも醸し出されたものが肝要」
という名言を残した翁。
若き栽匠として注目される神奈川県秦野市 宝樹園 椎野健太郎氏の所で 絶妙な管理をされたこの樹を、
席主は松を使った飾りの季節としては難しいとされる三月初旬に見事な設えをされた。
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掛け軸は 田中日華 筆「雪月花」通常の掛け軸と違い、表装部分も画家がすべて書き込んだもの。
画中の外から降る雪、この雪に混ざって僅かに散る桜の花びら。
朧の半月と共に幽玄な世界を表現しています。
特に注目するのは、月や雪そして花びらは、画中の下では消えていることです。
目に見える月も雪も花びらも、悟りの境地に言う「一切は空なり」の空。
つまり 世の現世に見えるものは、一刻の儚い夢、そこに齢を重ねてなお厳とした姿を見せる松。
生きる盆栽の姿と空蝉の画中世界が共鳴しあい、松際立つ気韻を見事に描き出されている盆栽飾りの真骨頂を捉えた名席と言えます。
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加えて脇床に置かれた馬蹄石の雅石。
石中に立つ姿が明王や菩薩にも見立てられるこの石は、本床に広がる幽玄の世界を、更に深い響きへと導く仏性観と言えます。

盆栽は 庭や棚で その姿を観賞するだけのものではありません。
本席が描き出す精神性は、盆栽を主軸にして 自然や哲学的な美意識を、
学識の裏付けを加えて どこまでも広がる人間美へと昇華させています。
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世界に盆栽文化が広がる中、技術や価値観ばかりが 評価される中、先人達が 百年以上の時をかけて完成させてきた 真の盆栽世界を 再認識させてくれる 鑑と言うべき一席です。

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