雨竹 盆栽 水石 便り

盆栽歴50年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”


10月末、半年ぶりに神奈川県秦野市、“大山詣“の地として、歴史深い山々の麓にある、椎野宝樹園に伺いました。


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“蒼き山・澄んだ空“  まさにここは盆栽の別天地❗️

相変わらず名樹が並ぶ椎野さんの庭❗️

整備された美しい前庭と培養棚としての奥庭。

ひとつ一つの樹にかける彼の想いが感じられる庭です。

業界中堅として、抜きん出た才と腕を持つ彼。

どうしても商才を喧伝されますが、私は彼は本当の盆栽人としての資質を兼ね備えた人と思っています。


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名門「大樹園」で6年にわたる修行の末、故郷に開いた盆栽園。

開園当時からお付き合いのある私ですが、私と同じく、彼は何よりも盆栽が好きなのが、会話の中でも感じます。

私のように事業として5,000坪の構えを造る姿もありますが、

ある意味、自分の大好きな盆栽を正業として、佳き愛好家の方々、

愛すべき同業の仲間達と過ごす個人経営の盆栽園の手本とすべきものだと思っています。


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何よりも、ここに来ると“盆栽はいいなあ“と時間を忘れる事が、それを物語っています。

尽きぬ話をしていると、相変わらずどうしても “積めるだけ買ってしまう💦“  悪い癖😅

でも、もしかすると、椎野さんの所は、そんな事も計算して作られているのかな?参った🙇‍♂️


秋の盆栽園に彩りを添えてくれる老爺柿。

私が修行時代に一世を風靡して盆栽界に登場してから、もう50年以上の月日が経っています。

暫くは忘れられた程に姿を消していましたが、近年海外からの人気で再沸騰(値段が高くなったわけではないのですが)してきた種です。


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羽生の邸内にもふと見れば、目立たぬ中にも鮮やかな実姿の老爺柿が点在しています。

この中の半数以上は、今から17年前、都下小平方面の武蔵野園さんより、

一千点を超える老爺柿を譲って頂いた名残の樹達です。


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いつの間にか棚に置いてあっても、愛らしさを楽しませてくれる存在になりました。

昨今は様々な実姿・実色の“種類物“と呼ばれる老爺柿が市場を賑わせていますが、私は普通の自然な老爺柿が好きです。

日本原産ではないのに、いかにも日本人の目に映る老爺柿。

茅舎の置物を添えて飾れば、訪れる多くの方々の心を和ませてくれます。

四季の中に生きて来た日本人。

やっぱり秋の実りはいい物ですね❗️


春と秋、年2回、羽生雨竹亭で開催する観照会。

今年も秋の飾りを庭内に設えてみました。

普段、どうしても“その時にお客様に求められるもの“を中心の商売や店作りになってしまいますが、

この時だけは、細やかな足元にあるような樹なども、精一杯のお化粧をして、展示場や庭を彩るようにしています。


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雨竹亭の特徴である、“盆栽も水石も最終的には飾るもの“と言う意味で、水石や盆器、掛軸に飾り道具。

収蔵庫も含めてすべてを開放してご覧頂けるようにしています。


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応接の床の間には、“松風“を感じる、名匠木村正彦先生の施術による、五葉松の根連り!

季節を添える為に掛軸には、今井景樹の“月に散り紅葉“、そして彼方に見える佐渡赤玉石の名石。


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脇には山里の景色そのままの柿の盆栽。


私がナビゲーターを務めるYouTube「WABI CHANNEL」などの影響で、若いご夫婦連れの来園も多くなった雨竹亭。

訪れた方々すべてが、名木名石だけではなく、盆栽水石の素晴らしさを満喫頂ければと願っています。


秋の観照会についてはこちらから


来月11月21日から開催される、日本盆栽大観展。 

毎年そこで企画される「京都国際文化振興財団」通称“慶雲庵“の展示、

今年は“昭和百年の軌跡“と銘打った展示を考えています。

財団が保有する数多くの盆栽や水石・盆器など、飾る名品は限りないのですが、

その中で、訪れるすべての人達に伝えたいメッセージを込めた樹を仕上げています。


“被爆の松“  

80年前、広島に投下された原子爆弾、爆心地から僅か2キロにあったこの樹は、

共に生きていた殆どの盆栽が、爆風と熱風で枯死する中、奇跡的に半身を枯らしながら命を繋ぎました。


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それから80年、盆栽を愛する人達に守られながら、勿論飾れる姿にはなっていませんでした。

今回、私のところで5年、只々元気にする培養に心がけた結果、思い切った整姿施術を行うことにしました。


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普段の“見た目を大切にする“樹造りではなく、“この樹がどのように命を繋いであの時から生き抜いて来たか? 

“壮絶な記憶“のかけらを消さぬよう、それだけを心がけてみました。

ここから京都に運ぶまでの時間、日々少しずつ樹に向き合って仕上げてみようと思います。

“作りすぎてはいけない樹“と、対話をする気持ちで!


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不様(ぶざま)でも、必死に生きて来た姿、京都でご覧頂きたいです。

(大観展終了後は、京都大徳寺、芳春院盆栽庭園で、忘れてはいけない“命の軌跡“の樹として、ずっとそこで守り育てるつもりです)


水石協会が来春開催する『日本水石名品展』の選考審査、図録撮影が、都内春花園さんで行われました。

小雨降る美術館の休館日、合間を縫って、見慣れたはずの数々の名木を眺め散策して気がつく事がありました。

“樹が皆んな老成の美を呈している!“ 


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10数年前、「盆栽は“面“で捉えるのではなく、“線“で表現したい」と謳い始めた小林師。

その頃に大胆に枝をはずし、樹を“裸“にするが如く改作の限りを尽くした樹々達が、

あらためてふと観れば、ぞっとするほどの“古感“と“雅格“を示し始めていました。

懐や枝先にまで流れる線と命、枝の厚みで本質を隠すのではなく、すべてを晒しながら生きる姿を捉える。


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小林師が見つめ続けた象形(カタチ)は、その完成形を歩み続けているよう。

“只々、樹が好きなんだよ“と、屈託のない笑顔で答えてくれる小林師。


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本当の盆栽作家とは、人がその樹とどれだけの刻をともに生きて、己の“想い“をその樹に注いだか、かもしれない。

その意味では、小林國雄師とその庭園にある盆栽達はいつの間にか“共鳴“して“共生“しているように思えます。

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