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盆栽歴49年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

タグ:添景

 
【"見えぬ月を席中に描き出す" 】

樹齢100年を超える黒松の老木を手に入れました。 
文人盆栽はその基準が難しく、"細く下枝のないひょろひょろとした木"
が文人樹だと勘違いされる方や、プロですら解釈が出来ずにいる面々もあり、
「究極の盆栽」と評した古人の想いがわかります。 
この樹は、荒ぶれた幹肌、捻る様な立ち上がりの腰部分、
捻転する幹に見える枝が落ちた跡のサバ姿、
そして樹冠と僅かな"落ち枝"で構成された空間ある樹相。
これ以上"引き算"のしようがない身形、まさに文人盆栽の真骨頂だと思います。 
文人盆栽は飄逸とした姿の裏側に、厳しく果てし無く永く生き抜いた足跡が感じられるもので、
決して昨日針金技で創出出来るものではありません。 

今回この樹を使って「掛け軸を使わない席飾り」をしてみました。 

老い立つ如き老松、その樹下に佇み松を仰ぐ古老。
禅の問答や古詩に登場する景趣を樹と木彫のみで表現してみました。 
一枚板の地板に双方を載せて飾ってみましたが、僅かな"間"がきつくダメでした。 

詩情を湛える飾りは数センチの"間"や高さが、
そこにある「心地良い緊張感」的な空間を創り上げます。
「空間有美」とはよく言ったものですね。 


【老境の中に描く 季節の楽しみ】

40年のお付合いを頂く愛好家、小林二三幸様より季節の盆栽便りが届きましたので、
ご本人の了解を頂き、お紹介させて頂きます。
写真の日本建築の座敷は、小林様が大手企業の重役を退いて
「晴耕雨読 盆栽三昧」の日々を過ごす為に、10年前より旧家を改築して作り上げたものです。

今回はまさに "秋"! 
山蔦の老木が濃淡の深紅の彩りを見せる最高のタイミングです。

「月に落雁」の掛け軸は、"遠見の景色"で席の季節と広がりを扶けています。

脇床の鋳胴の人物像は「養老」。
今回は養老に固執せず、蒔や柴を取りに来た杣人が、山中で憩うひとときの情景を物語っています。
主木を引き立て、季節の興趣を喚起させ、ものの想いを深める・・
当たり前のように設えるこの席に、小林様の熟練の"見せぬ技"が潜んでいます。
脱帽・脱帽


【添景で浮かび出る 常盤柿の盆栽】

両手に乗る常盤柿の盆栽、橙色の実姿はこの季節嬉しいものです。

先日、小品盆栽専門家より可愛らしい小道具を入手したので、この樹と合わせてみました。
二人の子供がハシゴを使って柿の実を取ろうとしています!

盆栽だけで楽しむ観賞、そしてこの様に添景によって情感と景色を広げる方法、
人それぞれの感性が、ひとつの盆栽に様々な世界を作り出せるのも、盆栽趣味の楽しさです。
身近な小物で空想の自然に挑戦してみて下さい!

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