【ススキひとつの飾り方で広がる世界 】

9月9日「重陽の節句」菊の節句と謳われる秋の訪れも過ぎ、
ススキの席飾りが心に沁みる季節になりました。
屋久島糸ススキは小振りで小さなスペースでも飾りやすく、お薦めの種類です。 
名残の蜻蛉が一匹飛ぶ下に小菊を楚々と咲かせるススキの風情は
まさに"秋"の景色を切り取ったかのようです。 

添え飾りに鈴虫(谷村隆文作・竹製)を置くことで景趣は更に情感的になりますが、
掛物に動物などを配した時"かぶり"と言われる重複の飾りにならない事は重要です。

掛物を使わないススキと鈴虫の席も山野草飾りとしてはとても気高いものです。 

蜻蛉から富岡鉄斎の「月下牧牛図」に変えることで、席中の情趣はまったく別世界になります。 

禅の教えのひとつと言われる「十牛図」の題材と思われる鉄斎の筆は、
画中に潜む精神をススキと言う野にある自然の風景をそこに取り込むことで、
"物の哀れ"を感得できる静謐で孤高な精神世界を現出してくれます。 

蜻蛉を配した「景色の具現」・牧牛図を用いた「精神世界への誘い」。
ひとつのススキから広がる様々な世界観を楽しむのも、季節飾りの醍醐味と言えます。 
留意点としては、ススキを単体で飾るなら丸地板で問題ありませんが、
合わせ飾りとして鈴虫を共に飾る時は、主たるススキの敷物を天然地板、鈴虫に丸地板、など、
格の差や変化を忘れないで欲しいものです。
これも"重複を避ける"作法のひとつです。