雨竹 盆栽 水石 便り

盆栽歴49年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

カテゴリ: 盆栽管理


縁あって、数年前国風展の大賞に輝いた楓の石付が手元に来ました。

若い修行時代、松田松月園氏の扱いで、展覧の席で拝見した時、“これが有名なあの楓“と心躍らせたものでした。

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細身の立石に絡みつくように根をおろした姿。
独特と言える樹相と、印象的な古鏡型の鉢。
40年前の出来事が目の前に甦りました。

羽生に届いた時、“これがあの樹?“  と思うくらい、印象が変わっていました。

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樹の培養状態、作品としての維持と手入れは満点なのに・・鉢映りでした。
培養を考えて和鉢の深みのある楕円に“のんびり“と植えられていました。
2ヶ月、全国の仲間に“古鏡型の中渡り鉢がないか?“と問い続けて、ようやく京都で想いの叶う鉢に巡り会いました。

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半世紀前は、紫泥のおとなしい古鏡。
今回はひとまわり大きくなった樹に合わせて
海鼠の大鍔型の古鏡。
植え付けを終えて、眺めれば、往時の感慨が再び心に甦りました。

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盆栽は鉢を“締め込む“事で、樹相が“大きく“感じられます。
勿論、培養のみを考えれば、楽な合わせが順当なのでしょうが、やはり“衣装“はその樹を変えます。
自分で納得のゆく鉢合わせ、私も和鉢まで入れれば3000点以上の鉢を保有していますが、
それでも、植え替えの時、うまく合わない時は、半日かけてもピッタリと来ない時があります。
48年間、植替えを毎年やってきても、それは変わりません。

盆栽人として、“最良の美なる鉢映り“を、いつも心掛けてゆきたいとあらためて思った楓の石付です。

“深山の更に奥を逍遥すれば、崖上より岸壁にしがみつくように生きる樹々の姿
その梢はあくまで細やかでやさしく、降りおりるような景色“

私の中の石付盆栽の象徴のひとつが“あの頃の姿“になりました。


10月7日、羽生雨竹亭において、業界人専売オークション、第145回「天地会」が開催されました。
台風の影響で1週間の延期通知をしたのも初めてです。
この1週間の間に、新潟県で大切に培養されて来た未公開の真柏逸材を入手する機会を得て、
久々の“ホンモノ“に、商売ではあっても、胸躍るものがあり、
2日間の夜間手入れと植替えで、私が思う“真柏の盆栽はこうでありたい“と思う作品になりました。

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天地会の延期は各方面の仲間達の“台風“に対する配慮で決めた事なので、後悔もしていませんが、
中々逸品がオークションに出品されることがない昨今、“売れなくてもいい“と言う気持ちを持ちながら、出品に踏み切りました!


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結果、中国バイヤーを警戒していましたが、木村正彦先生、小林國雄先生と言う巨頭のオークションバトル!と言う思いもよらない形になりました!
勿論、私が入手した価格よりも数段高いビットが続き、最終的に木村先生が落札された事は、有り難い限り、、なのですが、
不思議に嬉しくもなく、何となく寂しい想いを抱いたのは、この樹が本当に名樹として庭に置いておきたい!気持ちが強かったのかもしれません。
こうして、どれくらいの逸樹をこの庭から送り出したでしょうか?

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考えても仕方がない事、と分かっているのですが、歳でしょうか?不思議なものです。
盆栽で食べながら、良い盆栽は売りたくない!
わがままですよね!
それでも、また明日出会う樹達との一生懸命、生きていきます!

【受け継がれる技術の継承】

日頃から雨竹亭の盆栽整姿術に協力をして頂いている、森山義彦さん。
木村正彦先生の直弟子として、将来を嘱望されている盆栽作家。
作風展頂点への挑戦をされる中、私と相談して、雨竹亭のスタッフである近藤瑞希君を
週に二日間の研修見習いを始めて頂くことになりました。

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森山さんと仕事を組み始めて4年。
温厚な人柄と、さすが木村先生が唯一埼玉県での独立を認めただけの腕!
そろそろ彼にも“本物の手入れ仕事“に打ち込める体制作りに入って欲しいと願って、
私のスタッフをそばに置いて、少しでも“生活費“の為の仕事が減らせるようにと願いました。


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勿論、雨竹亭としても、日常的な針金整姿のスタッフが、育ってくれれば、“1人がもう1人に“と、技術の継承ができます。
木村先生に憧れて盆栽作家を目指した森山君、そして彼が指導する若者が、技術を継承してゆく・・
年寄りの仲間入りが近い私から見れば、羨ましくもあり、微笑ましくもあり!

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まずは、近日行われる「日本盆栽作風展・審査会」で、森山君がどこまで階段を駆け上がるか!楽しみにしています!


秘匿され続けた、松島の東北真柏の逸材群!
現地の高橋さんが30年以上、すべてを山採り作出に尽して集めた百数十本の真柏達。

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初夏の頃、名匠木村正彦先生と内密に訪れて、高橋さんと将来の設計をして、木村先生の所へ数点を運び数ヶ月。
これが、一代で山採りから未公開で作出された真柏!? と驚く程の完成度❗️

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唯々、好きな山採りを続け、道なき道の果てに生き抜いた数百年の真柏達を、
山中で取木をかけ、1~2年、幾度も誰一人居ない山中へ行き、根着いた頃を見計らって、獣道を2〜3時間、巨木を背負い、誰も来ない自宅で数十年。
今回の名匠との出会いが、次代の日本の盆栽界に遺す名樹を生む事になりました。
弟子で宮城県多賀城で頑張っている、加藤充君の連絡でこの真柏逸材群を知ったのは、数年前。
“バイヤー達の餌食になるような事なく、東北の地で守ってほしい“ そんな私の願いを聞いてくれた木村先生には感謝しかありません。
所蔵真柏(全部高橋さんの山採り品)約200点! 出来れば一般に公開される来年までに、あと数点の逸材を木村先生にお願いしたいと思っています。

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“東北真柏の山採り未完の逸材群は生きていた!“ こんなフレーズで、『月刊近代盆栽』に、その全貌が公開されるのは、新春になりそうです。
ただ、海外でも人気の真柏は、札束を持ち歩く、“中国バイヤー“達の格好の餌食になりがち💦 

来年春には、愛好家の為に、自宅を公開したいとされる高橋さん。

「買取り希望の交渉、写真撮影は固くお断りします」


これを門前にかけて、この“未来の盆栽界の宝“を、みんなで見守りたいです。

【未来を決める“水切り“開始❗️】

樹齢1000年を超えると推定される“東北真柏の生き神“。
福島の地で、安息の時を経て長くなりますが、名称、木村正彦先生の助力を得て、糸魚川真柏の枝穂接ぎがなされて1年半。


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既に接合部分は2倍に膨れて、幹から水を吸い上げているのは確認されていましたが、
猛暑も過ぎていよいよ各枝穂を生かして来たポットを外して、根への水を止め、幹との接合で生かす段階を迎えています。

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いくらちゃんと接いでいると思っても、これだけの老大樹、何本かの接枝は、根の水を止められることで、活着しない事もあります。
それでもいつまでも大事にし過ぎても、結果が出ません。
すべてのポットを外して、苗からこの枝穂の命を繋いでくれた土と根、そして水分を止める日が来ました。

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10日程経てば、活着の成否がハッキリします。
正直、ここを越えれば、完成までの数年は見えたも同じです。
高さ4mの巨木真柏が、半分の大きさとなり、巨大な日本を代表する作品になる日が近づいています。

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