雨竹 盆栽 水石 便り

盆栽歴49年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

カテゴリ: 飾り


八月、長く続いた京都“祇園祭り“も終わり、各地の祭事も過ぎてゆきます。
七日には暦の上では“立秋“を迎えましたが、酷暑はまだまだ続き、
併せてコロナ感染はいまだに猛威をふるっています。
世の中が感染社会の苦悩に苛まれている今、盆栽飾りに“願い“を込めてみました。

IMG_1593
真柏の美しい半懸崖。
流麗な樹姿は真柏盆栽の真骨頂とも言えます。

IMG_1594
真柏で季節感を表す事は難しいものです。
しかし、掛け物や添景に季節感や風物を織り込むことで、床間に、別世界を表現できます。

画面全体を覆う滝姿の掛物。

IMG_1596
戦前の筆家、寺田盧秋が残した賓作です。
脇床に法塔を飾る事で、世界遺産“那智の滝“が胸中に浮かびます。

IMG_1595
清冽な深山から湧き出でる水飛沫が、すべてを洗い流すほどの瀑布となって席中に水音を響かせるようです。
ご神体とされる“那智の滝“。
IMG_1597
世情の憂いのすべてを洗い流して、“穢れ“を落としてもらい、来る秋には清涼、清浄な、日々を迎えたいものです。


京都は7月1日から1ヶ月に及んで「厄や疫病を祓う」願いを込めた『祇園祭り』が行われます。
コロナ禍で2年間開催が見送られましたが、今年は洛中を埋める“山車“も出番に備えて木組みが行われています。


IMG_1243
“山鉾巡行“と言う山車が市中を練り進む一大イベントの中でも、
この掛物に描かれている「長刀鉾」は、“邪気を切り祓い進む“ 象徴的な山鉾です。
IMG_5007
1300年続く神事、長刀鉾に取り合わせて、真柏の珍しい根連りの細幹。
脇には木彫の双龍が宝剣を守る姿。

IMG_1242
IMG_1244
古都を守る龍、京都に都を作った桓武天皇は、
この地を見下ろす地に宝剣を突き刺し“ここを新たな都とする“と言われた伝説が残っています。

厄災の多かった半年、ここからの半年が佳き刻となる事を願った飾りです。
盆栽の床飾りには、自然や季節を謳歌するものから、このように伝説や故事に即した飾りもあります。


“夏越しの祓い“も過ぎて、今年も後半、空梅雨の猛暑には参ります💦
暑気強い空気の中、せめて床飾りには“涼しさ“が欲しいものです。

IMG_1224
名木の松柏類の美もひと休み! 
何気ない山野草や細き季節の鉢物が、掛軸や点景道具と合わせると、観ているだけで、何処かに“風“を感じさせてくれるように思います。

IMG_1225
普段は盆栽の棚場の端っこで、粗末な扱いを受け易い草木たち。
彼らが年に一度、ひのき舞台に上がる時です❗️

IMG_1226
暑さで参りそうな今、人が造ったものではない、自然をありのままに映し出すこの子達。
皆さんも、“たかが草、たかが竹“と思わず、彼らが見事に主人公になる季節を楽しんで下さい❗️
IMG_1227

【究極の盆栽水石の“夏飾り“の深奥!】

京都「大徳寺・芳春院」を舞台に十数年続く、
盆栽水石の探究趣味団体「玄虹会」の御用掛けとして、お手伝いする中、初めての向暑の展示を創りました。

IMG_0895
大観展の11月下旬,2月から3月の早春期など、季節を替えての展示による研修をしてきましたが、
“一服の清涼“が欲しい季節の展示は、会員の皆さんも含めて、初挑戦のものでした。

愛好家である会員の方々も、国風展や大観展など、普段の趣味家としての展示もなさる中、
この季節での展示、特に道具立てを思案した席創りには、苦労されました。

IMG_0896
おひとりずつ、愛好家としての“個性“もあり、またそれが朋友と共に展覧を楽しむ材料にもなっています。

日本の盆栽業者は、ともすれば、自分の出入りする上級の愛好家を“囲い込む“ように、周りから遠ざける感があります。
私は逆に愛好家同士が、和気藹々として、趣味の世界に親睦の華を咲かせてくれる事を願っています。

盆栽が得意の方、水石が好きな方、名品の数々を所蔵される方、
名もなき草や石を見事に取り合わされる方、そのみなさんが、禅と茶の湯の象徴と言える、大徳寺で、個性豊かな席を創り合う。
それが、私がこの会を興す時願った世界です。

IMG_0897
“相席“と言う、同じ部屋に飾り合う中に生まれる響き合う世界、
ひとりで一室を受け持って、盆栽にしても水石にしても、複数を飾り、それでも季節・世界・力・などが、重複しないように、
ひとつの“趣意“を創出する醍醐味。
いつの間にか“熟練の大家“になられた皆さんの席には、もう私の介添えなど要らぬ深さが滲み出ていました。

IMG_0888
高位の茶人ですら、使用を許可される事の殆どない大徳寺、総長であったご住職の下で、
趣味家として大切な“品位と飾らぬ心“を身につけられた皆さん。

完成などない、盆栽や水石の美意識の探究。
ここからも更に“もう一歩“その向こうに見えるものを、探る道案内役を務めていきたいと思う展覧でした。


緑陰を楽しむ6月の梅雨景色。
もみじや深山の樹々の盆栽が、床飾りを映えさせてくれますが、時には少し早めの“水盤水石の飾り“をしてみようと思いました。

渓流や滝石と思い、水石蔵を探しましたが、雨竹亭の応接床の間は大きく、ここに見合う石がありませんでした。
10年ほど前、静岡の方から“生前家人が生涯をかけて集めた石を手放したい“と連絡を頂き、10トントラックで数台分の石を羽生に運びました。
“玉石混淆“の言葉通り、故人が集めた石群は、多種多様! 

IMG_0652
いつの間にか10年が経ち、風雨に晒されて、石肌に味わいが出てきました。
培養場の端に並べている中から、手にとってみたのが、この石です。

IMG_0645
ブラシで汚れを取り、水圧のかかる機械で、石の古感を損なわないようにしてみました。
水盤石として鑑賞する際は、基本的な汚れや、苔むした部分を掃除して、清浄な心象世界を石から感じられるようにしてから水盤に据え付けます。
当たり前の滝姿や渓流も、当然良いのですが、“この見方は今までにない“なんて、ヤンチャな心が、独特の興趣を作ってくれました。

IMG_0653
安倍川石の一種、藤枝石。
母岩の石肌が、淡白褐色で、大陸的な宋画の中に登場するような石相を醸し出してくれます。

聳り立つ岸壁、よく見れば、岩崖の間から“石清水“の滝が感じられます。
静かに音もなく、神韻とした空気。
石の色調が淡いので、水盤は“色で締める“気持ちで、瑠璃釉の袋式にしました。

IMG_0649
深山に聳える孤峰の断崖、霞む向こうには、月を一閃に横切るホトトギスの姿。
草木も生えぬ断崖の彼方に生きる真柏の老樹。
石に季節は表せづらいものです。
しかし、取り合わせる掛け物や、盆栽が、季節と席全体の景趣の一体感を創り上げてくれます。

名もなき石達。
数百点の誰も見向きしない中に、“見立てる“  心を持てば、床の間に飾れる石が生まれる。
これも水石趣味の醍醐味のひとつです!

↑このページのトップヘ