雨竹 盆栽 水石 便り

盆栽歴44年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

カテゴリ: 飾り


【古老名人達の本領!】

舩山秋英先生の叙勲を祝って友人達が開催した祝賀展は、
現代数寄屋建築の名亭「八芳園・壺中庵」全館を使っての平成最上の展覧でした。
招待客のみの半非公開の様な展覧でしたが、次代に伝えるべき内容だったと思い、特に秀抜な4席をご紹介します。


イワシデの席
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名匠 山北松月・松田恭治先生の作出による、イワシデの雅樹。
自然な株姿の古幹に数十年の鋏作りが物語る枝味の素晴らしさ。
日本盆栽界が捉えるべき雑木盆栽の美が集約された作品です。
格調高い床の間に合わせてかけられた「水墨山水」は、江戸期大家 狩野探幽の筆。
樹と掛物だけで充分に席中の風趣を醸し出していますが、場面の広さを考えて、
“留め飾り”として、この景色を壊さない 双鹿の添を配されました。

瀬田川石の席
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山水景情石の真骨頂と言える石相を持つ瀬田川石の賓石。
配する水盤は薄造りの中渡均窯の中でも釉調に静けさを漂わせる“吹墨”の均窯。
掛物は横山大観筆「東海の朝」。
祝賀の意を込めての目出度さを現出した水石飾りの“引き算の美”を見事に具現した一席。

赤松の席
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老樹の相見事な赤松。
静かな月の掛物との取合わせは、定法。
右に設えた、呑平水盤での蓬莱山の取合わせが心憎い。
閑雅な印象の赤松飾りに、蓬莱図を水石で取合せることで、祝賀の一席とされた。

ノウゼンカズラ(凌霄花)の席
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夏の儚い花姿が印象深いノウゼンカズラは、徒長しやすく蔓性ゆえに、盆栽仕立てが難しい。
花色も里の種よりもひと色濃く、暑季の中、ひときわの目を惹く。
水面に映る「水月」の図は、主木の観を見事に扶けている。
添えの一木彫りの苫屋舟が、塗床ゆえ “素置き”で配されたことで、席面全体を水面に見立てたものとなった。
花物盆栽で涼を呼ぶ好例。

【玄虹会展に込められた、日本文化の美意識】

第10回展となる「玄虹会展」・ 盆栽水石文化に深い造詣を持たれる趣味者達が集い、
日頃の愛好の成果を、同朋と“感嘆相照らす”心で、
更にもうひとつ奥深い“向こう”に見える美と人間性を高める同好会の展覧として、毎年1回 開催されています。
通常は、この会の趣意を理解下さる京都名刹「大徳寺」塔頭『芳春院』のご住職のご好意で、同院で春秋どちらかで行われています。
今回は、秋展が続いた数年から春展へ移行する間の年として、
京都国際文化振興財団『慶雲庵』理事長・田中慶治様が所有する 名亭での披露となりました。
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「わらびの里・霞中庵」戦前の資産家が、京都の山里に“隠れ家”的な数寄屋建築を残されて、
戦後長く料亭として使用されていたものを、正業の関係で田中氏が引き受けたものです。
下足番を備える外門に掲げられている「霞中庵」の扁額は、横山大観の筆・しかも篆刻は北大路魯山人! 
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門をくぐり、庭内を進むと、深山渓谷を想わせる素晴らしい庭。
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山間に溶け込むように作り込まれた樹々・石組・苔・そして 平安の頃から歌われた「音羽川」が庭内を流れて、
その斜面を清冽な音を立てて流れる滝姿の妙。
渓谷の傾斜地に築かれた数寄屋建築は、各部屋ひとつとして、同じ趣向は無く、一室一室がまるで工芸品のよう。
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半世紀を超えてこの「隠棲の栖」を保存された歴代の所有者に頭が下がります。
展示の中身をご紹介する前に、この霞中庵が私に教えてくれた“飾り”に潜む美の源流が、
日本の美意識の根幹と言える「影あればこその光の美しさ」を伝えたいと思います。
最近の盆栽水石の展示会・展覧会は、会場形式が主流です。
時代の流れで、これも仕方がありません。
誰もが参観しやすく、搬出入が便利なのは当然の利です。
しかし、日本の盆栽界が創出した美は、盆栽だけの世界で生まれたものではなく、
古くは室町期に発生した「東山文化」の中で、御伽衆・連歌衆の手によって誕生した室礼による書院飾りにその起源を見ることが出来ます。
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ひとつの空間、直射の無い“間接光”の部屋に現出される、人と空間と対峙する実像。
そこに「幽玄」という、言葉には表しづらい「韻」を 感得するに至ったのです。
今回の「霞中庵」における盆栽水石飾りも、その本流と言える在り方を、見事に表現したと言えます。
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照明では響きを示さない仄暗い室の中に浮かび上がる玄なるもの、ただ自然の造形物や園芸創作があるのではなく、人のその時の心の在りようが、そこに感じる小宇宙なのです。
今回は総論を写真と共にお伝えして、次は幾つかの席について申し上げます。

本格座敷飾りの準備『玄虹会』

サツキの花咲く今ですが、すぐ足元に「初夏」の兆しが感じられます。
庭の「岩がらみ」の盆栽が見どころとなったので、床飾りをしてみました。
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清冽な瀑布を僅かな筆さばきで描いたのは、大家 菊池契月。
瀧を描くのではなく、それ以外の部分を描くことで、瀧を表現する腕は、流石に名筆!
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飛沫をあげる深山の崖には、蝶が飛び交うような花姿(正確には花ではありませんが)をみせる岩がらみ。
瀧を水墨で合わせる事で、岩がらみの葉の美しさが際立ちます。

もうひとつ、まもなく京都山科の里深くに構える数奇屋名亭・わらびの里『霞中庵』で開催される
「第10回 玄虹会展」の 出陳席の席割りと飾り構成に 知恵熱を出している中で、
本格文人盆栽飾りの “古武士的”な 席が出来たので、ご紹介します。
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赤松名樹「観月」。
 大宮盆栽美術館蔵の「帰去来」と共に、盆栽界に現存する赤松文人樹の雄として名高いものです。
大家小泉薫先生の旧蔵でしたが、
縁あって数年前に西宮に住する現蔵者の愛樹となりました。
取合せた掛物は、文人趣味的古画を愛する蔵者の大切なコレクション・池 大雅 の名筆。
「水流心不競 雲在意俱遅」その意は、
“ 川の水の流れのままに 心をまかせ 雲と同じに
気持ちをのんびりとさせる"
中国唐代の詩人 杜甫が遺した『江亭』の一文です。
脇飾りは、天龍川の古石「南山」まさに南画の中から出て来たような姿のこの石は、
煎茶の本山と言える黄檗山萬福寺の由来を秘めた 本邦初公開の賓石です。
文人盆栽と言えば、細身で飄々としたイメージですが、真の文人盆栽とは 
“ 静けさの中に心で捉える凛とした厳しさと古厳と言うべき 老感を持った格調高き盆栽 ”です。
力強い大型名木の数々を有した 小泉薫先生 唯一の文人盆栽だったと言えます。
今回の「玄虹会展」は、季節を考慮した このような “目利き唸る席 ”が数多く出陳されます。
僅か二日間の展覧ですが、日本盆栽界の未来の姿は、こんな樹達と展示会に あると思います

【席飾りの美しさ!】

今年は藤の盆栽が、花咲早く、普通は連休の頃まで楽しめるのに、すでに満開となりました!
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先日、海外講演へ出かける前に、雨竹亭の応接室に今年の藤の飾りをしたくて、取り合わせをしてみました。
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「長尺藤・野田藤」などと呼ばれる薄紫色の降るような藤の花々。
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この五月雨にも似た花姿こそが、日本人が藤に求める“記憶の中の美”ではないでしょうか。
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朧月と山河の雪解け水を湛える湖水を思わせる「黒鞍馬石」の景趣見事な天然石。
季節を映し出す取り合わせ飾りは、
誰が見ても その時の自然の“在りよう”を無理なく表現した席が、心に優しく映るものですね。

【枝垂れ桜・床飾りの美】

細身ながら、一重性の可憐な美しい花を見せる枝垂れ桜(富士桜系)が、今年も羽生の庭で咲きました。
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陽春の徴として毎年床飾りを楽しませてくれるこの種、今年も朧月の掛け軸と、
春らしい 稜線美しいのどかな遠山石を“水温む”感を楽しめるように、水盤飾りでの脇飾りとしました。
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「樹・石・画」 が一体となり、席中に「季節と詩情」を生み出すのも、床飾りの醍醐味です。
2000点を超える庭の子供達(盆栽)も、暖かい陽射しを受けて、花や芽吹を見せるものも多くなりました。
“ あれも飾りたい、これも面白い” と あちこちと庭を歩き廻る朝が多くなりました。
これも良い運動ですね!

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