雨竹 盆栽 水石 便り

盆栽歴43年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

カテゴリ: 飾り


【銀座「加島美術」さん・名画と盆栽水石】

先日 羽生雨竹亭で、銀座の老舗画廊「加島美術」さんの依頼により、名画と盆栽水石の飾りの撮影が行われました。
古画から近代画まで幅広く扱われる加島美術さんは、審美・鑑識眼共に信頼厚い店です。
私も何度か道具として使いやすい掛物をいただいたことがありますが、
このような 銀座を代表する老舗画廊が、ご自身の大切な誌面に 盆栽水石を 同じ日本文化のひとつとして捉えて下さる事は、嬉しいものです。
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応接展示室を使っての飾りは、江戸期名筆「狩野探幽」の 墨絵の『波』。
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破墨の筆致見事な探幽ならではの横物大幅の掛物は、脇床に設えた佐治川の汀型の石と良く調和してくれました。
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流れを意識した盆栽は、風や潮騒を感得できる五葉松の
“断崖から懸垂する”遥かに見える磯の風景を連想できるものにしようと、飾る前に 枝の捌きを少し加えました。
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カメラマンさん以外、すべて女性陣のスタッフの方々は、
初めて見る盆栽水石の世界を感嘆と興味深い眼差しで、作業を進められました。
美術品が、単体で画商方が扱う事を主流としてもう長くなります。
私達が盆栽水石を通して学んだ、
「どれ程素晴らしい美術品でも、それを実際に使い切る事が出来なければ、それは単なる蒐集でしかなく、趣味家・数寄者ではない」
と言う考えが、盆栽界・美術界 の垣根を超えて広まってくれる事を願うばかりです。

【真柏の文人盆栽】

記録的な暑さの続くこの夏。
お客様をお迎えする羽生雨竹亭の応接飾りも、蓮の花や水石など、冷房のかかった応接室に入って、ホッとするものが多い季節です。
時には そんな中でも、盆栽の本質的な中身を持っているものを楽しみたくなります。
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先日、羽生で開催されたプロ専用オークション『天地会』に静岡の高木あずま園氏が出品して小店が落札した真柏を飾ってみました。
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細身の中型ながら、その舎利幹の味わいある旋律と間調子の効いた造りが、とても気に入っています。
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握りこぶし程の、くずや石を取り合わせることで、樹の大きさが増したように思います。
小僧時代より、
「文人樹とは、細ければ良いのではない。その中に枯淡の風趣や、生き抜いてきた厳しさが見え隠れしていないものは、偽文人樹でダメだ。」
と諭されました。
還暦を間近にする中で、その意味は実感として強く感じます。
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扁額「自在天・自ずから天にあり」禅問答のようなこの言葉が妙に似合うのも、
樹が何かを語りかけているような印象があるからでしょうか?

【千年続く 都の文化を床飾りに取り入れて】

連日の猛暑に とにかく盆栽達を強い陽射しと高温から守るのに必死の毎日ですが、
そんな中でも この羽生の庭へ訪れて下さる方々をお迎えする「夏飾り」には心掛けたいものです。
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昨年 七鉢程 作り始めた “蓮の花”の中で、やっとひと鉢だけ、飾ってみたいものが 出来ました。
自然の恵みと言うべき 花姿は、本当に 仏様がそこにいらっしゃるような、美しさと浄蓮さを感じさせてくれます。
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「山鉾巡行」の掛物が、“疫病退散”の祈願の神事として、京都八坂神社で始まってから千年以上の時が過ぎています。
ご存知ですか?
三十三基の先頭に立つ「長刀鉾」の山鉾は、邪気を祓いながら進みますが、決して御所と八坂神社の方に、刃先を向ける動線を取りません。
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脇床に 東山を連想させる貴船石の山形石。
蓮華の無垢なる美・祓いの願いを込めた神事の掛物・そしてその古都を映し出す水石。
飾りは 季節・歳時記・景趣・等々、込められた席中への想いが 遊び心を駆り立てます。


【古老名人達の本領!】

舩山秋英先生の叙勲を祝って友人達が開催した祝賀展は、
現代数寄屋建築の名亭「八芳園・壺中庵」全館を使っての平成最上の展覧でした。
招待客のみの半非公開の様な展覧でしたが、次代に伝えるべき内容だったと思い、特に秀抜な4席をご紹介します。


イワシデの席
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名匠 山北松月・松田恭治先生の作出による、イワシデの雅樹。
自然な株姿の古幹に数十年の鋏作りが物語る枝味の素晴らしさ。
日本盆栽界が捉えるべき雑木盆栽の美が集約された作品です。
格調高い床の間に合わせてかけられた「水墨山水」は、江戸期大家 狩野探幽の筆。
樹と掛物だけで充分に席中の風趣を醸し出していますが、場面の広さを考えて、
“留め飾り”として、この景色を壊さない 双鹿の添を配されました。

瀬田川石の席
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山水景情石の真骨頂と言える石相を持つ瀬田川石の賓石。
配する水盤は薄造りの中渡均窯の中でも釉調に静けさを漂わせる“吹墨”の均窯。
掛物は横山大観筆「東海の朝」。
祝賀の意を込めての目出度さを現出した水石飾りの“引き算の美”を見事に具現した一席。

赤松の席
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老樹の相見事な赤松。
静かな月の掛物との取合わせは、定法。
右に設えた、呑平水盤での蓬莱山の取合わせが心憎い。
閑雅な印象の赤松飾りに、蓬莱図を水石で取合せることで、祝賀の一席とされた。

ノウゼンカズラ(凌霄花)の席
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夏の儚い花姿が印象深いノウゼンカズラは、徒長しやすく蔓性ゆえに、盆栽仕立てが難しい。
花色も里の種よりもひと色濃く、暑季の中、ひときわの目を惹く。
水面に映る「水月」の図は、主木の観を見事に扶けている。
添えの一木彫りの苫屋舟が、塗床ゆえ “素置き”で配されたことで、席面全体を水面に見立てたものとなった。
花物盆栽で涼を呼ぶ好例。

【玄虹会展に込められた、日本文化の美意識】

第10回展となる「玄虹会展」・ 盆栽水石文化に深い造詣を持たれる趣味者達が集い、
日頃の愛好の成果を、同朋と“感嘆相照らす”心で、
更にもうひとつ奥深い“向こう”に見える美と人間性を高める同好会の展覧として、毎年1回 開催されています。
通常は、この会の趣意を理解下さる京都名刹「大徳寺」塔頭『芳春院』のご住職のご好意で、同院で春秋どちらかで行われています。
今回は、秋展が続いた数年から春展へ移行する間の年として、
京都国際文化振興財団『慶雲庵』理事長・田中慶治様が所有する 名亭での披露となりました。
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「わらびの里・霞中庵」戦前の資産家が、京都の山里に“隠れ家”的な数寄屋建築を残されて、
戦後長く料亭として使用されていたものを、正業の関係で田中氏が引き受けたものです。
下足番を備える外門に掲げられている「霞中庵」の扁額は、横山大観の筆・しかも篆刻は北大路魯山人! 
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門をくぐり、庭内を進むと、深山渓谷を想わせる素晴らしい庭。
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山間に溶け込むように作り込まれた樹々・石組・苔・そして 平安の頃から歌われた「音羽川」が庭内を流れて、
その斜面を清冽な音を立てて流れる滝姿の妙。
渓谷の傾斜地に築かれた数寄屋建築は、各部屋ひとつとして、同じ趣向は無く、一室一室がまるで工芸品のよう。
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半世紀を超えてこの「隠棲の栖」を保存された歴代の所有者に頭が下がります。
展示の中身をご紹介する前に、この霞中庵が私に教えてくれた“飾り”に潜む美の源流が、
日本の美意識の根幹と言える「影あればこその光の美しさ」を伝えたいと思います。
最近の盆栽水石の展示会・展覧会は、会場形式が主流です。
時代の流れで、これも仕方がありません。
誰もが参観しやすく、搬出入が便利なのは当然の利です。
しかし、日本の盆栽界が創出した美は、盆栽だけの世界で生まれたものではなく、
古くは室町期に発生した「東山文化」の中で、御伽衆・連歌衆の手によって誕生した室礼による書院飾りにその起源を見ることが出来ます。
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ひとつの空間、直射の無い“間接光”の部屋に現出される、人と空間と対峙する実像。
そこに「幽玄」という、言葉には表しづらい「韻」を 感得するに至ったのです。
今回の「霞中庵」における盆栽水石飾りも、その本流と言える在り方を、見事に表現したと言えます。
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照明では響きを示さない仄暗い室の中に浮かび上がる玄なるもの、ただ自然の造形物や園芸創作があるのではなく、人のその時の心の在りようが、そこに感じる小宇宙なのです。
今回は総論を写真と共にお伝えして、次は幾つかの席について申し上げます。

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