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盆栽歴44年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

カテゴリ: 飾り

【「後の月」の 風情】

10日21日、今年の十六夜の月となりました。用向きがあって 
羽生市内の恩ある古老愛好家 根岸先生の所へ伺う時、
丁度名残りのススキの穂が上手く上がっていたので、数日の間 楽しんで頂こうと持参しました。
奥様共々大変喜んで下さったのですが、「座敷の方にこれと一緒に飾りましょうね!」と、
奥様が 月見団子と台飾りを運んで来ました。
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23代続く 名家、日本の歳時記の中で、ともすれば慌しい日々 
忘れがちな“大切な自然との対話”の刻を こうして何気なくされている・・・
頭の下がる思いでした。
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床の間には、蘇東坡の驢馬に乗った見事な木彫、名器 植松陶翠に設えられた舟形石の逸品!
石の銘は「浪浦」と言うそうです。
障子越しに影絵のように座敷に移るススキの姿、日常を豊かに楽しむことの素晴らしさを改めて教えて頂きました!


台風ばかりで 棚の盆栽を守るのに、スタッフ達が不眠の日が多い今年。
その合間に訪れる“秋の澄んだ気”は、ホントに良いものですね。
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海外に出かけてこの国に帰った時、日本の自然の素晴らしさが空を見て・星を見て・盆栽達がいる庭を見て・つくづく感じます。
雑木盆栽での(モミジやススキ・実成りもの)秋景色の飾りは、
季節を映して嬉しいものですが、
松柏盆栽を使っても「掛け軸」や「脇飾り」の水石などで、季節の風情は醸し出せるものです。

帰国して数日、久しぶりに床の間飾りをしてみました。
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丁度 昨日 木村正彦先生の所から、お願いしていた五葉松の流れのある樹が 手入れを終えて帰ってきたので、
同じく目をつむって(笑)京都の美術商から“ボッタクられ”ているのを覚悟で手に入れた「雲月図」と共に 飾ってみました。
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豊穣の秋・生気に満ちた葉色の五葉松。
雲間に澄み切った煌く光を放つ名月。
松の盆栽で遠くには既に紅葉の奥山を表す赤玉石。
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名筆ならではの秋の空気まで感じられる画中、松の緑と鮮やかな赤玉石の色彩の対比。
こんな「当たり前だけど、スキッとした飾り」が私は好きです。
日々の正業に追われるこの身ですが、盆栽に生きる者として、
日本の素晴らしい季節に感謝しながら “生命の移ろい”を、五感で受け止めて参りたいものです。

【 『雲糸の松』】

先日上野グリーンクラブで開催された 日本水石協会主催のオークションに、心の奥に刻まれた五葉松が出品されました。
誰にも気付かれないように、せり台に登場した時「思いのある樹!」と声を上げて落札しました。
11年前、自分の不徳で もう立ち直ることも叶わない事業の失敗をして、命すら失う事も当然となった時、
馬鹿な私をまるで泥水の中からその手ですくい上げて下さった方の旧蔵樹。
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40年程前、その方が国風盆栽展に出品されたもので、18年前にも一度縁あって手元にあった樹です。
今でこそ、こうして多くの盆栽水石を愛する方々のお陰で 僅かでも斯界の役に立つよう日々を過ごしていますが、
あの頃を思えば、生涯 この世界の為に滅私奉公をし続ける事しか 私の一生は無いと思う記憶です。
こうして、3度目の縁で 羽生の庭に帰ってきたこの樹に『雲糸の松』と言う銘を付けました。
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芥川龍之介の短編に「蜘蛛の糸」という物語があります。
生きている時 ありとあらゆる悪行の限りを尽くしたカンダタという男が、地獄で無限の苦しみにもがいている時、
天からこれを見ていた仏様が、カンダタが命ある時一度だけ、道端の蜘蛛を踏まずに避けた事を思い出しました。
仏様は天から細い糸を地獄に降ろし、カンダタはそれにしがみついて地獄から抜けられる時、
下の方からこの糸に多くの地獄の亡者達が「俺たちも揚げてくれ!」と 細い糸が切れる程にぶら下がってきました。
「やめろ!これは俺のものだ!」と、カンダタが叫んだ時、仏様の糸はふつっと切れて、
カンダタは元の地獄の中に落ちていきました。
私をあの時 慈悲の心で導いて下さった方、その方へのあの時の想いをいつまでも忘れぬように、
この五葉松に『雲糸の松』と名付けたのです。
いつまでも羽生の庭で私の生き方を見守って頂き、私はこの樹を守り抜いていきたいと思います。


【銀座「加島美術」さん・名画と盆栽水石】

先日 羽生雨竹亭で、銀座の老舗画廊「加島美術」さんの依頼により、名画と盆栽水石の飾りの撮影が行われました。
古画から近代画まで幅広く扱われる加島美術さんは、審美・鑑識眼共に信頼厚い店です。
私も何度か道具として使いやすい掛物をいただいたことがありますが、
このような 銀座を代表する老舗画廊が、ご自身の大切な誌面に 盆栽水石を 同じ日本文化のひとつとして捉えて下さる事は、嬉しいものです。
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応接展示室を使っての飾りは、江戸期名筆「狩野探幽」の 墨絵の『波』。
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破墨の筆致見事な探幽ならではの横物大幅の掛物は、脇床に設えた佐治川の汀型の石と良く調和してくれました。
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流れを意識した盆栽は、風や潮騒を感得できる五葉松の
“断崖から懸垂する”遥かに見える磯の風景を連想できるものにしようと、飾る前に 枝の捌きを少し加えました。
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カメラマンさん以外、すべて女性陣のスタッフの方々は、
初めて見る盆栽水石の世界を感嘆と興味深い眼差しで、作業を進められました。
美術品が、単体で画商方が扱う事を主流としてもう長くなります。
私達が盆栽水石を通して学んだ、
「どれ程素晴らしい美術品でも、それを実際に使い切る事が出来なければ、それは単なる蒐集でしかなく、趣味家・数寄者ではない」
と言う考えが、盆栽界・美術界 の垣根を超えて広まってくれる事を願うばかりです。

【真柏の文人盆栽】

記録的な暑さの続くこの夏。
お客様をお迎えする羽生雨竹亭の応接飾りも、蓮の花や水石など、冷房のかかった応接室に入って、ホッとするものが多い季節です。
時には そんな中でも、盆栽の本質的な中身を持っているものを楽しみたくなります。
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先日、羽生で開催されたプロ専用オークション『天地会』に静岡の高木あずま園氏が出品して小店が落札した真柏を飾ってみました。
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細身の中型ながら、その舎利幹の味わいある旋律と間調子の効いた造りが、とても気に入っています。
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握りこぶし程の、くずや石を取り合わせることで、樹の大きさが増したように思います。
小僧時代より、
「文人樹とは、細ければ良いのではない。その中に枯淡の風趣や、生き抜いてきた厳しさが見え隠れしていないものは、偽文人樹でダメだ。」
と諭されました。
還暦を間近にする中で、その意味は実感として強く感じます。
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扁額「自在天・自ずから天にあり」禅問答のようなこの言葉が妙に似合うのも、
樹が何かを語りかけているような印象があるからでしょうか?

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