雨竹 盆栽 水石 便り

盆栽歴47年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

カテゴリ: 飾り


緑陰を楽しむ6月の梅雨景色。
もみじや深山の樹々の盆栽が、床飾りを映えさせてくれますが、時には少し早めの“水盤水石の飾り“をしてみようと思いました。

渓流や滝石と思い、水石蔵を探しましたが、雨竹亭の応接床の間は大きく、ここに見合う石がありませんでした。
10年ほど前、静岡の方から“生前家人が生涯をかけて集めた石を手放したい“と連絡を頂き、10トントラックで数台分の石を羽生に運びました。
“玉石混淆“の言葉通り、故人が集めた石群は、多種多様! 

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いつの間にか10年が経ち、風雨に晒されて、石肌に味わいが出てきました。
培養場の端に並べている中から、手にとってみたのが、この石です。

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ブラシで汚れを取り、水圧のかかる機械で、石の古感を損なわないようにしてみました。
水盤石として鑑賞する際は、基本的な汚れや、苔むした部分を掃除して、清浄な心象世界を石から感じられるようにしてから水盤に据え付けます。
当たり前の滝姿や渓流も、当然良いのですが、“この見方は今までにない“なんて、ヤンチャな心が、独特の興趣を作ってくれました。

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安倍川石の一種、藤枝石。
母岩の石肌が、淡白褐色で、大陸的な宋画の中に登場するような石相を醸し出してくれます。

聳り立つ岸壁、よく見れば、岩崖の間から“石清水“の滝が感じられます。
静かに音もなく、神韻とした空気。
石の色調が淡いので、水盤は“色で締める“気持ちで、瑠璃釉の袋式にしました。

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深山に聳える孤峰の断崖、霞む向こうには、月を一閃に横切るホトトギスの姿。
草木も生えぬ断崖の彼方に生きる真柏の老樹。
石に季節は表せづらいものです。
しかし、取り合わせる掛け物や、盆栽が、季節と席全体の景趣の一体感を創り上げてくれます。

名もなき石達。
数百点の誰も見向きしない中に、“見立てる“  心を持てば、床の間に飾れる石が生まれる。
これも水石趣味の醍醐味のひとつです!

【ひと足早く『初夏の飾り』芳春院盆栽庭園❗️】

絵に描いたような大徳寺の青空!
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盆栽達もひと通りの春の手入れが終わり、緑豊かな充実の時に入りました。
庭内「通玄庵」の床の間も、少し早めの“夏飾り“にしてみました!
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「緑陰」の言葉がピッタリとする“山蔦“。
空にはまだ湿気を纏った月、そこに一閃をひくホトトギス。
里山の寓居からそれを見上げる高士。

床飾りで大切なのは、“間調子“  と言われる、主木はもちろんの事こと、
掛物、添景、などの空間を活かした、その場面の全体を“ゆったり“と設えてあげる事です。

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明治期に中京で活躍した日本画家、織田杏逸が遺した「月にホトトギス」の図。
細身の軸に小さめに描かれたホトトギスが、画中は勿論の事、席全体を広々とした世界を創り上げています。

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山蔦も大き過ぎず、葉物盆栽の季節と“色“をよく表しています。

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添景に木彫を使った事で、主木や掛物の“季節に合わせた柔らかさ“を扶けてくれました。

盆栽にしても、水石・山野草の飾りにしても、どうしても“肩肘を張った“席を創りがちですが、
空間と季節感を活かした“日々の飾り“を努めることが、いつの間にか、スッキリとした席作りになるものです。

とは言え、いつも“その時の飾りと持ち合わせの道具立て“で、頭を抱える日々の多いこと💦


5月下旬から6月の初め、盆栽界にひときわの華やかさが始まります。
さつき盆栽達が一斉に見事な花姿を見せてくれます。
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さつきは趣味の底辺が広く、“さつきの趣味から始まった“とする盆栽愛好家も多く、
専門のマニアもいれば、丈夫で作りやすく、盆栽の登竜門としての大切な樹種でもあります。

花物として花期の単品飾りが主流ですが、時には床飾りも楽しみたいものです。

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長年羽生で培養してきた「光琳」の花が咲き始めたので、今の季節に合わせた飾りをしてみました。

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美しい真紅の剣咲きと言われる花姿、大樹の相を見せるこの樹に、潤湿な空気感がある今、おぼろな月の天空に翔ぶ一羽の郭公。

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“一閃を翔ぶ“と呼ばれる郭公はホトトギスとして、古来より季節を謳う鳥で和歌や詩文にもよく詠まれています。
ホトトギスの掛物を選ぶ時は、鳥自体が、画中で大きくなりすぎない事が大切です。
鳥の姿が大きければ大きいほど、席全体の景色は“近景“となり、
場合によっては、配する盆栽との大きさによる合わせが上手く行かなくなります。

さつきに花が咲く頃、見上げれば空に線を引くように一羽の郭公が飛んでゆく。
山里によく見かけた自然の有り様も、今では貴重な景色の記憶になりつつあります。

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脇に少し早めの“岩がらみ“を飾る事で、“葉の緑“を伝えたい季節を補ってくれます。
盆栽・水石・山野草・それぞれの季節の美しさ、移ろい、何よりも大切にしたいですね!

【盆栽・水石の “飾り方“  について】

最近は若い方々にも盆栽や水石が広まってきた感があって嬉しいことです。

初心者的な栽培方法から、樹造りのマスターへ、そして展覧会などに見られる名品へ鑑賞と憧れ。
誰もが辿る趣味の道ですが、近年、盆栽も水石も、単にその本体だけでの評価や楽しみに特化してしまっている感があります。

本来、この趣味は最終的にその盆栽水石を自身の感じる“世界観“や“自然観“、そして突き詰めれば、“人生観“ 的な飾りへと昇華して欲しいものです。

例えば、文人樹と言われる、細身の飄々とした松は、それ自体だけで観れば、
真柏などの迫力ある舎利幹などの自然芸術性に圧倒されがちなもの、
でも、その樹を掛軸と合わせたり、水石や山野草と組み合わせる事で、その樹の周辺の景色や、その樹に求める世界観が、広がっていきます。

水石にしても、静かな一塊の石に、その周りの景趣を想わせる道具と取り合わせる事で、
まるで石に自然界の命が宿されたような景色が浮かび上がります。

日本人は、日常の身の回りに四季折々の自然を取り入れた生活を楽しんできました。
それを盆栽や水石で表現できたら、どんなにこの趣味が奥深くなるでしょうか。

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京都大徳寺の「芳春院盆栽庭園」でも、庭内の大型名木の鑑賞とは別に、
展示場には、誰もが持ちやすい楽しみやすい中型の盆栽や水石を使った総合的な飾りを日々披露しています。

皆さんも、ご自分の盆栽や水石を、“ひとりぼっち“の世界から、遥かに広がる世界にしてみませんか!


風吹く飄々とした松。
足元には爽風になびく風知草。
これで季節が表せます。
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風雪に耐えて生きた真柏の姿、左に遠くに見える山姿の鞍馬石。
掛物は「鳥鳴きて山更に幽なり」鳥が鳴き山々は大自然の大きさを謳っていると言う、
自然界の“あるがまま“を伝えているものです。
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吹き荒ぶ自然の中に生きる松の姿、
眼下には渓谷の清流や滝に見える貴船石を“水気“を感じるように水盤に仕立てています。
掛物は江戸期の名筆、狩野探幽の「波濤」水気を意識した飾りです。
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コロナ下で開催を控えていた、盆栽水石の趣味団体「玄虹会」の本格的な陳列に対する勉強会が、
修練の深さと完成度、そして高潔な人柄で、会員の指導的立場だった今は亡き、根岸庄一郎先生の邸宅で令夫人の協力で行われました。

盆栽と水石の座敷飾りをする為に造られた構え。
久しぶりの座敷内の飾り付けで、この空間が如何に素晴らしいものか、実感しました。


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玄関を入ってすぐの“寄付席“は、湖に浮かぶ帆舟。
足下には、水辺にあう砥草の芽出しの姿。

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客を迎える初手の飾りは、“重くなりすぎぬよう“を心がけ、それでも季節の移ろいを表現する事を肝要としています。


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書院席は唐楓の寄植。
写実的な景趣と葉色に対して、配された掛物は、盆栽の“実“と対比させる、水墨で描かれた“山雨“と題されたもの。
脇床には、里山にまさに今飛来している白鷺。

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この時期は、練達となれば、盆栽に“ほととぎす“の画をよく合わせられますが、
脇に白鷺を配したことで、鳥の“被り“が出るのを避けての配軸と添景です。

“峻険な山々には、時折雨が流れ降り、眼下の叢林は、新緑の季節。
遠くを見れば、人里に白鷺の風景。
樹・画・添・が三位一体となって、自然を素直に謳い上げた席です。



根岸邸にある茶室は、数寄屋建築として正統なもの。
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小間と呼ばれる小さき床の間は、“小宇宙“としての格の高さを内に秘め、精神的な内面を持った席が求められます。

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主石は滝石。
単に“滝“の景趣を思うのではなく、配された名筆、菱田春草の“天人“と共に、
石中に仏性にも似た観照心を希求したい事が、掛物との共鳴に感じられます。



三席は、主飾りがすべて異なり、一席の印象を被らせる事なく、
奥へ進むほどに、“何気ない自然の景趣“から、盆栽水石の飾りの深奥へと向かう精神性の高みへと構成されています。

一席を創意するだけでも大変ですが、ひとつの邸宅の全体を季節の主題を持ちながら、
更に“その向こう“を“見えぬように設える“・・趣味三昧の深奥を伝えてくれる研修会でした。

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