雨竹 盆栽 水石 便り

盆栽歴49年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

カテゴリ: 展示会

【究極の水石飾り❗️】

京都大徳寺「芳春院」で開催された「第15回・玄虹会展」は、盆栽の陳列は勿論のこと、
水石の飾りに対しては、他の追随を許さない程の、深い興趣を備えた陳列が目立ちます。

特に、芳春院書院奥の茶室、“迷雲亭“の席は、別格と言えるものでした。

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崑崙山脈や“天山回廊“を想わせる白銀の峰々を彷彿とさせる石は、京七石のひとつ、“畚下し石“。

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旧三菱財閥、岩崎家の所蔵品で、通称“岩崎の番号石“と呼ばれるもの。
底部に“ニの32“の符牒が記されています。

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片山一雨から横山雨洛へと受け継がれたこの名石は、独特の石相から、飾り込むのが難解で、
名人と謳われた過去の蔵者達も、合点のゆく設えには届きませんでした。

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今回、会員である寺内氏は、“初夏ならばこそ、人界届かぬ天界の峰々を現出してみよう“と、
名器“御庭焼紫紺釉長方”の短冊水盤に合わされました
(一説にはこの水盤は呑平と言われています。同型唯一の小水盤が名園松竹園にあり、これは呑平作とされていました)

低めに抑えられた卓、床の空間を活かして、その上には、“天人“が飛天として天空を舞う姿の掛物。

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近代日本画を確立した“四天王“のひとり、菱田春草の筆。
東京美術學校(現在の東京芸術大学)で、岡倉天心の下で、必死に古画の模写をしていた頃の作品です。
光り輝く神々が棲み暮らすとされる神々しい峰々、仰ぐのみの山容高くに舞う飛天。
名茶室に相応しい、格調と気品。
無駄な飾りをせず、石と画だけの構成。

水盤石は、どちらかと言えば、具象の自然界を感得するものが殆どですが、
この席は、水盤石の究極の世界観が満ち満ちていました。

名石・名水盤・名画、ともすれば高額品の羅列と揶揄されがちな道具立て。
これを見事に“三位一体“の旋律で創出した、精神性を含めて水石飾りの手本と言える席でした。


第15回玄虹会展の動画をこちらからご視聴いただけます☟

【第15回「玄虹会展」】

京都名刹“大徳寺“、芳春院全山を拝借しての、盆栽水石の三昧世界「玄虹会展」が開催されました。
初夏の風趣を織り込んだ、盆栽と水石の室内飾りは圧巻の内容でした。

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“さやけき“細きもみじの旋律、圧巻の古木大樹の陳列!
審美を極めた水石が、名亭茶室に設えられた世界。
芳春院全山に繰り広げられた“玄虹会ワールド“は、盆栽や水石を本来どう楽しむものかを教えてくれます。

ここから数回に分けて、心に染みる席飾りをご紹介します。


国内最大級の欅太幹!
未公開の一位大樹!
阿部倉吉先生の五葉松吹流し石付!


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本堂西室に飾られた三点の大型盆栽。
東北の盆栽大家、“舩山コレクション“として知られる舩山秋英氏の席です。

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中央の欅は、その太さ!
丸幹の姿、何よりも上部の立替し疵の少なさ!
等々、おそらく太幹欅の最高峰と思える作品です。
圧巻という言葉が良く似合うこの樹は、国風展にも未だ登場していないそうです。

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左手の一位、樹相全体が、“舎利芸“と言える程の姿。
未完の一位が、この展覧までに辿った刻は、僅かに5年だそうです!
左手の五葉松は、福島“吾妻山“半世紀以上前に作られた、“吾妻スカイライン“の工事の際、
“開発道路の周辺の樹々は伐採・採取を許可する“とした行政の下、地元の愛好家が、苦労の末に里へ下ろしたものだそうです。
それを吾妻五葉松を世に知らしめた名匠、阿部倉吉先生が、創り上げた傑作です。

大寺院の本堂と言う格調高い質実剛健な建築空間をしても、その存在感に圧倒される展示でした。


第15回玄虹会展の動画をこちらからご視聴いただけます☟

【吾妻盆栽展に登場‼️】


毎年ゴールデンウィークに恒例で開催される、福島市の盆栽展。

今年からは吾妻支部・福南盆栽会の共催で行われました。


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現地を代表される愛好家、吾妻支部長でもある、舩山邸より名樹が出品されました。


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47回日本盆栽作風展で、木村正彦先生門下の若き栽匠、森山義彦氏が、最高賞である

内閣総理大臣賞を受賞した真柏。

元々舩山氏が、若い作家志望の方が、世に出るお手伝いになるならと、入手して3年以上、

自身の名で飾れない事を承知で、森山氏にこの大樹の未来を託されたのです。

受賞後、大観展などへの招待出品を経て、本来の住まいである福島に帰ってきたのが、去年の春。

今回初めて地元でのお披露目となりました。

関係者一同で、日本の名木が飾られるのだから、皆んなで設備を作ろうと、正面に金屏風を模した展示がなされました❗️


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左右の太刀持ちと露払いに、舩山氏は、これも惜しげもなく、今年の国風展に出品された寒グミの古木、

更には吾妻の山地で山採りされて、いまだこの地から公開されていない五葉松の根上がり巨木。

初日は午前中だけでも入り口で列が出来るほどの盛況!


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地元の古老達が、丹精を込めた吾妻五葉松の数々も、会場を彩りました。

地方の愛好会が衰退する中、この展覧は、地域の皆んなで作り上げる力強さと意気込みが見事に発揮された展覧でした。

未完のもの、土地ならではの樹、産地を抱える愛好会の楽しさを感じる時間でした❗️


羽生雨竹亭の盆栽教室に通う、“盆栽博士ちゃん“こと、清水ちえりちゃん。
今年の国風展で見事再びの入選を果たしました。

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小学生だったちえりちゃんが、国風展史上、最年少で入選した事で、協会関係者はもとより、
マスコミも取り上げて、いつの間にか芦田愛菜さんとテレビの「博士ちゃん」に2度も盆栽博士ちゃんで出演するまでになりました。

本来の教室に通うちえりちゃんは、盆栽愛好家のお爺様の影響を受けた物静かな少女。

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お父様お母様の温かい愛情と応援を頂いて、豊かな少女期を過ごされている方です。
昨年、一所懸命手入れをして準備をした作品が、残念ながら国風展落選💧
今だから言えますが、“ギリギリかなあ“と思っていた作品。
勿論落選は辛いものですが、
ちえりちゃんにとっては、人生の佳き経験になってくれたかなと思っています。
高校受験も、見事難関付属高校(この付属は殆ど大学まで行ける優秀校!)に推薦入学を決めました❗️おめでとう‼️
盆栽趣味を持つ女性、才色兼備を絵に描いたような世界‼️
ここまで来る間のたくさんの苦い経験、国風展の落選💦 
それこそがちえりちゃんの“今“を作ってくれたのかなと思います。

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教室に来て今回の樹の手入れを黙々とする姿、高額な盆器や卓を提供してくれた、田中財団理事長や舩山さん。
孫を見るような眼でその成長を見守る多くの方々に、一所懸命御礼を伝える健気な姿は、お手伝いした私達にも清々しく映りました!

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“今度は3〜5年かけて、自分の手で培養した素材からの樹も挑戦しよう“と伝えて、今春には培養をする樹を探すことになりました!
盆栽と共に成長してほしい若い方、ある意味で私達老練の盆栽人達こそが、ちえりちゃんのステップに勉強させられているように思います!
我々、爺い達もちえりちゃんに負けずに頑張るぞ😤


15歳でこの道に入って48回目の国風展。
当時荘厳な大理石の建築だった東京都美術館も現代的な姿になって久しいです。
10年前より、国風展会場の2階展示室で『日本の水石展』を主催者の1人として運営する中、
前期展は上野グリーン倶楽部での“盆栽大市“の商売の合間を縫って、後期展は水石展の会場から駆け足で垣間見るような観覧(笑)。

そんな中でも年々の国風展は毎年“色“を少しずつ変えているように見えます。

今年の展覧を全体的に言えば、とても素晴らしかったと思います。
言葉を替えれば、“王道の姿“に戻ったように見えました。
昨今の国風展は、この展覧が世界的な注目を浴びる中、海外の方々でもわかりやすい“アカデミック“な盆栽が目立っていました。
大型で派手な作品は観る者を圧倒します。

しかし、なぜか?多少の違和感を感じていましたが、今回の展覧は、会場全体が引き締まった静謐感に満ちていました。
各盆栽達も古感が漂い、寸法も本来の日本の盆栽として長く伝統の中で育まれたサイズ感があり、観賞していても圧迫感を感じませんでした。

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主催の方々の労苦と努力に感謝と拍手を贈りたいです。
相変わらず、私が不得意な中品盆栽と、小品盆栽は、その丹精な培養と細やかな手入れの仕上げに頭が下がるばかりでした。

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また、後期展の国風賞の真柏には、深い感銘を覚えました。
出品された岩手県陸前高田市の菅原さんの自宅でこの樹を観たのはもう15年前です。

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まだ山採り真柏の原木状態でしたが、その頃より“この樹は将来日本の真柏盆栽の代表的な樹になる!“と確信した樹です。
弟子の加藤君と2度目に訪れた時、菅原さんの家から僅かな距離にあった、浜辺につながる見事な松林。
そこに加藤君と座ってその素晴らしさに息を呑んだものです。
それから1年後、大地震と津波によって、200年かけて創られた松林は、一瞬に消え去りました。
“あの巨大な松林が消えた!?“  すぐには信じられない出来事でしたが、現地で海産物の加工業を営む菅原さんの工場も津波に飲み込まれたと聞きました。

幸にして、ご自宅と盆栽達は、一段高い土地にあった為、難を免れたそうです。
それでも故郷全体が失われた中、平和で豊かな日常があるからこそ評価される盆栽の趣味、
色々な方々の“目“もある中での、丹精と培養の日々を送られたのだろうと、その苦労はひと言では語れないものでしょう。

ご高齢になった菅原さんに会場で久しぶりにお会いして、受賞へのお祝いをお伝えした時の、ご本人の東北人らしい朴訥な静かな笑顔が心に残りました。

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日本人は盆栽と同じく、自然と共生しながら時には厳しい試練を受けて、それでもそこから再生していきます。
私はこの真柏の国風賞受賞は、特別な想いで拝見しました。

素晴らしい樹、誇るべき日本の盆栽と人達、心から“ありがとうございます“と言いたいです。

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