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盆栽歴45年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

カテゴリ: 展示会



1月25日、上野グリーンクラブで、第95回国風盆栽展の選考審査会が行われました。
各地・各盆栽業(日本盆栽協同組合員)の取扱いによる300点を超える申込作品。
愛好家の方々が、出入り方のプロと手を取り合って、作出に励まれた樹達は、どれも甲乙付け難い逸品ばかりです。
それでも、コロナの影響で、東京都美術館に飾れる席数は、削られて、審査会では、厳選など点数性によって落選してしまう盆栽もあります。

私が修行中の頃は、数百点が落選する事が当たり前の様な国風展でした。
当時数百万円の樹が落選する、出入り方が愛好家本人に“残念な結果でした“と伝える時の辛さは、私も経験があり、
“二度とこんな思いはお客さんにさせない“と心に誓って励んだものです。
特に落選の報を伝えた時“そうか、ご苦労だったね“と、何も言わずに受け入れて下さった方々の事は、今も鮮明に覚えています。
その“想い“が、その後の私の糧となったのです。

今回も名匠木村正彦先生と共同で、審査会に挑みました。


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2ヶ月間にわたる手入れ・仕上げ・準備の末に、今回は無事に29点のすべてが入選となりました。
ありがたいです。
そして、その中に木村正彦が手掛けた“未公開真柏名樹”が、栄えある「国風賞・国風展全体の中で、特に優れた作品に与えられる賞」に選ばれました。

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間もなく81歳になる先生の老成した術によって世に送り出した真柏。
一年程前から先生の棚場で拝見するたびに“久しぶりに見た秘蔵未公開の樹だ“と、見入っていました。
そしてこの樹の出品者が、海外の方と聞いて驚きました。
“ハッタリ“の効いた樹などが、海外でもてはやされるのはわかります。
しかし、この樹は私達半世紀近くこの世界に身を置く者が見ても、真柏盆栽として、真柏芸術として、第一級の名品なのです。
簡単に言えば、“目利き“と言われるような旦那衆でなければ、所有していない樹です。
先生に伺うと、
“とても目筋の良い方で、たとえ国風展に受かるような樹でも、余程の内容を感じなければ買わない人なんだよ“
と言われ、“そんなレベルの人が海外に生まれてきたんだなあ“と感慨深いものがありました。

ここで、考えるのは、プロとして多くの盆栽を扱わせていただく中で、
国風展級といわれる多くの愛好家の方々でも、1000万円を優に超える盆栽を求める方が少なくなって、高額名盆栽の多くが、海外流出している事です。
(輸送の合法・非合法も問題です)

『トヨタのレクサスのグレードの高い車種を買う程度の金額、それで「日本の伝統的文化遺産」が買える。』


この比較価値観で海外の富裕層の方々が、日本の名盆栽に注目するのです。
考えてみれば、今回の木村先生の真柏も山採りされてどれ程の年月が経っているのか、わからないほどです。
そしてその山採りも今は素材の枯渇と規制で、新たな原木素材を見つけるのは不可能です。

私はよくスタッフに言います。
私達が日常取り扱っている10~30万円の盆栽の半分以上が、“過去の盆栽を愛した人達が、守り伝えてくれたからこそ、今ここに生きている”ものなんだと。

新作のモダンアートと称される抽象絵画が、名盆栽の数倍の価格で取引される令和。
私達日本のプロ盆栽家は、次の時代の在り方、次の時代への遺産の伝承、の方法を真剣に考えなければいけない時に来ているように思います。

自由市場の流通は、資本主義の原点です。
しかし、失えば二度と取り戻せない遺産達、このジレンマをどうすべきか?
少し考えさせられる時になりました。


木村正彦先生との連合準備で、国風盆栽展の審査会に29点の愛好家の方々の大切な盆栽を積込み・上野グリーンクラブへ搬入しました。

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25日審査会において、無事に29点全品入選しました!
その内の先生の近作真柏が国風賞に内定しました。
先生は「本人には国風賞への挑戦はあまり期待させるといけないので、言わないでいるんだ」と仰っていました。


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お客様ご本人もさぞお喜びでしょう。
準備に2ヶ月程かけて、ひとつひとつの盆栽に合わせた“出来るだけの事“をして審査会に臨んだ結果は、とても嬉しいものです。
何よりも、入選の連絡をお待ちになっている愛好家の皆様の喜ばれるお顔が目に浮かび、ホッとしてもいます。

併せて、京都財団の理事長として、日頃よりお世話になっている田中慶治会長も錦木で国風賞、
水石協会の特別出品のご協力を頂いたり、今回の水石展でも、“自在庵特別連席”の企画をお願いしている廣瀬様も黒松名樹「黒龍」で満票の国風賞。

正直、盆栽の賞レースには、あまり興味のない私ですが、よく知る方々の嬉しそうなお姿は気分はよいものです。

木村先生の所で、日々、盆栽達の管理に尽くしてくれた、アレッサをはじめとするお弟子さんや、関係の皆さん、ありがとうございました。


【京都財団・慶雲庵・大徳寺特別展】

大観展で開催を企画していた日本樹鉢界の至宝「東福寺」の大回顧展を、
大徳寺芳春院様のご好意で、隣接する塔頭「龍泉庵」本堂をお借りして展覧しました。

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財団が長年蒐集した東福寺の名品から、百有余点を精選して、一堂に陳列しました。
緑釉を中心に、東福寺の作域の広さと歴史を振り返る品々、
中には“とうに日本から流出しているのだろう“と思われていた唯一無二の“鯰の東福寺“の真作や、名器“御所車“など、
コレクターの方々には、図録でしか見る機会のなかった作品が、集合しています。

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初の財団単独展として開催された本展は、同所の庭園に繰り広げられた名樹の数々と共に、

この本堂に、財団の象徴として、継承前の財団創設者、高木禮二先生が愛して本人が初の国風賞を得た五葉松「寿」、
そして世界に日本の盆栽を広め、WBFF(世界盆栽友好連盟)の副会長として、世界を旅して生涯盆栽文化の普及と交流に尽くされた、
岩崎大蔵先生の遺愛樹、真柏「羽衣」を、首座に据えて開かれました。

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本来、塔頭の本堂として、開祖様、陽峰老師の木造を安置されるここを、
本展の為に快くお貸し下さった、芳春院ご住職・秋吉則州師(大徳寺宗務総長)には、お礼の言葉もありません。
海外にまで散逸が続く、東福寺をはじめとする盆栽界の遺産群。


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財団は「私を捨てて斯界の将来の為の保護公開」を主意としています。
美術館設立委員会の室長を預かる身として、多くの皆さんのご協力をお願いします。



完成を間近にした、大徳寺内の盆栽庭園。


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細かな所を色々と想うと、庭園を預かる者として、頭が痛くなる思いです。

門入口脇の桜川砂を敷いた所に予定している、枯山水の石組の仮置きをしました。
尊敬する蔓青園加藤三郎先生の遺愛品である、揖斐川の龍眼石と伊予石。


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5代目園主、崇寿氏より割愛を頂き、本来は来年の3月の開園前に正式に設ようと思っていましたが、
28日からの「京都国際文化振興財団・慶雲庵」の、同所で行う財団展に際して、
入口を砂敷だけでお迎えするより、惜しまず披露しようと思いました。

大徳寺の中には、多くの名勝名園があり、禅林としての枯山水庭園は、日本を代表する歴史深いものが各所にあります。
その中で、私のような盆栽水石以外何の能も無い者が、ここに枯山水などと言えるものを設るなど、おこがましい限りです。

揖斐川の龍眼石は、盆栽界で石付に用いる石、三郎先生は創作的景色を大切にした作品を多く遺されましたが、
平石やこの龍眼石を使っての盆栽への造詣において、他の手本を示されました。
その先達の遺愛品を使ってこの庭園に“盆栽を付けない石で景色を表現してみたい”と言うのが、この枯山水なのです。


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取り敢えず、仮組をして、最終的には、秋吉ご住職のご指示を頂いて固めたいと思っています。
私が出来るのは、三郎先生達が築かれた盆栽界への想いをこの日本を代表する名刹が開く盆栽庭園に遺すこと、それだけです。
もう少しで、全体が仕上がります。
還暦を過ぎて、日々勉強の毎日です!



来春2月の国風盆栽展、1月初旬には審査申込み締切、下旬には選考審査。
ここから本格的な樹の準備に入ります。

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エスキューブは、通年木村正彦先生と共同で進めていますが、申込み予定の樹は、11月中にハウスに取り込んで、手入れや状態の万全に努めます。
先日も先生の所に伺って、今年の進行の打合せ をしました。
真柏・黒松・五葉松・その他、多種多様な盆栽がこれから先生のアトリエハウスに集まります。


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多い時は50点を超える最上級の盆栽達が、所狭しとハウス内に置かれます。
既に先行して搬入してあるもの、これからお客様の所からお預かりしてくるもの、
審査での評価が楽勝のもの、手入れを入念にして、1点でも審査点を上げたいもの、
鉢映りを直さないといけないもの、一人ひとりのお客様の気持ちになって、考えなければならず、思案に苦労します。


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それでも、国内最高の展覧にご自身の盆栽が飾られた時の、愛好家の方々の嬉しそうなお顔を思えば、
精一杯のお手伝いに努めないとと、気を引き締めての準備が始まります。



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