【“一照千隅“ 伝教大師・最澄の心を水石に込めて】
以前KBS京都の長寿番組「比叡の光」に大徳寺芳春院盆栽庭園で取材を受けた縁で、
天台宗大本山「比叡山延暦寺」の教務主事、清原徹雄師を訪ねて、琵琶湖畔、大津市坂本町にある、延暦寺“里坊“の本坊「滋賀院」に伺いました。


里坊とは、本来山内(比叡山の上)で生涯を過ごす天台僧侶達が、高齢となり、座主の許可を得て、山麓の街に下りて暮らす為の、塔頭のようなもの。
現在でも50以上の里坊が、山麓や琵琶湖畔に点在しています。
この里坊の“本山“としての役目を担うのが、この滋賀院です。
1615年、“黒衣の宰相“と謳われた、天台僧“天海”が、
後陽成天皇より京都法勝寺の建物を下賜されて、1655年、後水尾天皇によって名を賜った寺院です。
大徳寺でお会いした時から、物静かで柔和な、それでいて身を律した立ち居振舞いに、厳しい修行をされた方のみが漂わせる“静かな力強い気品“を感じる方でした。
テレビ収録でお別れする際、“必ず叡山にお伺いします“と約束し、今回あるものをお届けする為に、ご都合を頂きました。

瀬田川石、石肌の片隅にまるで蝋燭が灯るような紋様が浮かび出た石。
天台宗の開祖、伝教大師(最澄)が唱えた有名な言葉・“一隅を照らす“ これは世界遺産となった、
延暦寺の根本中堂に千年の時を過ぎてなお守り伝えられる灯火、“不滅の法灯“と繋がります。
(浄土宗・法然)(浄土真宗・親鸞)(臨済宗・栄西)(曹洞宗・道元)(日蓮宗・日蓮)他、
日本の仏教を創られた多くの僧侶が、修行の時を過ごした延暦寺。

清原徹雄師は、快く受け取って下さいました。
この石はこれから数百年、比叡の山懐に静かに蔵されます。
いつの日か、水石文化に興味のある人物が、この“仏教の母山“にある、この石を観た時、
また新たな歴史が始まってくれる事を微かに願って、尊い聖地を後にしました。