雨竹 盆栽 水石 便り

盆栽歴49年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

カテゴリ: 水石


“水石を文化として美術館で“と言う水石界の大願。
それを実現したのが、11年前に開催された今も続く、東京都美術館での「日本の水石展」、
今年からその名を改めて「第61回日本水石名品展」となったこの展覧です❗️

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水石という、盆栽からすればマイナーとされる水石。
これが美術館と言う大舞台で続けられるのか?とい
う不安を一掃するように、
小林國雄理事長の旗の下、事務局長の私も10年の間、まさに“駆け抜ける“ように、
毎回“来年は何を首座に持ってこようか?“と思案しながら走り続けました。
名石「黒髪山」から、伊達家「鎌倉」小堀遠州「重山」そして信長由来の西本願寺「末の松山」
今では海外からの愛好家の定着、出品、そして年々増えて来た来場者の方々と若い層の注目❗️
ありがたい事です。

昨年就任された長沢新理事長は、四半世紀、水石協会を“縁の下の力持ち“で支えてくださって来た“影の功労者。
朴訥な性格の氏ですが、真の水石への慧眼深く、実直な旗頭として、
私も今回から総括理事としての立場で、相変わらず図録解説などの実務を預かっています。

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10年の刻をかけて築いた『日本の水石展』の重み。
しかし、水石界には『日本水石名品展』という、協会発足以来からの展覧会があります。
三越本店、盆栽倶楽部(現・上野グリーンクラブ)そして近年の明治神宮社務所講堂。
神宮は、協会誕生の時より、会長職を宮司様にお願いして、今の社団法人になってからは、名誉会長をお願いしています。

毎年6月には『奉納盆栽水石展』が、参拝される世界の方々を魅了して、日によっては展示している本殿回廊が、人だかりで盆栽が見えないほどになるのが常です❗️
その中、長沢新理事長の地道な努力で、美術館の「日本の水石展」が、60年続く「日本水石名品展」への名称変更の許可がおりました。
小林前理事長が尽力されて定着した「日本の水石展」を千穐楽にして、歴史と共にある旧来の名跡にするか?
私達役員は悩みましたが、長沢新理事長の“先人達が築いてくれた歴史を100年100回展にする為に“という想いに、小林前理事長が“いいと思うよ“の漢気❗️

こうして今回の『第61回日本水石名品展』は開催されました❗️
“河原にある石が美術館に飾る芸術?文化?“と、学芸的な立場の方々から揶揄された11年前を思うと、
水石に対する、愛好家の皆さんも含めての“思い“が、ここまで導いてくれたと思います。

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レベルも往時の日本水石名品展の絶頂期を凌駕する程になりました❗️
“帝都の美術館で水石展“ 
いつまでも、あの頃の開催に賭けた苦労を忘れずに、愛好家の方々に寄り添って、この文化を守り広めたいと願っています。


【“一照千隅“  伝教大師・最澄の心を水石に込めて】

以前KBS京都の長寿番組「比叡の光」に大徳寺芳春院盆栽庭園で取材を受けた縁で、
天台宗大本山「比叡山延暦寺」の教務主事、清原徹雄師を訪ねて、琵琶湖畔、大津市坂本町にある、延暦寺“里坊“の本坊「滋賀院」に伺いました。

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里坊とは、本来山内(比叡山の上)で生涯を過ごす天台僧侶達が、高齢となり、座主の許可を得て、山麓の街に下りて暮らす為の、塔頭のようなもの。
現在でも50以上の里坊が、山麓や琵琶湖畔に点在しています。
この里坊の“本山“としての役目を担うのが、この滋賀院です。

1615年、“黒衣の宰相“と謳われた、天台僧“天海”が、
後陽成天皇より京都法勝寺の建物を下賜されて、1655年、後水尾天皇によって名を賜った寺院です。

大徳寺でお会いした時から、物静かで柔和な、それでいて身を律した立ち居振舞いに、厳しい修行をされた方のみが漂わせる“静かな力強い気品“を感じる方でした。
テレビ収録でお別れする際、“必ず叡山にお伺いします“と約束し、今回あるものをお届けする為に、ご都合を頂きました。

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瀬田川石、石肌の片隅にまるで蝋燭が灯るような紋様が浮かび出た石。
天台宗の開祖、伝教大師(最澄)が唱えた有名な言葉・“一隅を照らす“  これは世界遺産となった、
延暦寺の根本中堂に千年の時を過ぎてなお守り伝えられる灯火、“不滅の法灯“と繋がります。
(浄土宗・法然)(浄土真宗・親鸞)(臨済宗・栄西)(曹洞宗・道元)(日蓮宗・日蓮)他、
日本の仏教を創られた多くの僧侶が、修行の時を過ごした延暦寺。

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清原徹雄師は、快く受け取って下さいました。
この石はこれから数百年、比叡の山懐に静かに蔵されます。
いつの日か、水石文化に興味のある人物が、この“仏教の母山“にある、この石を観た時、
また新たな歴史が始まってくれる事を微かに願って、尊い聖地を後にしました。


水石界の悲願だった“美術館での水石展開催“という実現を、春花園・小林國雄理事長(今春勇退・最高顧問に)と共に10年、
今では海外の水石愛好家の皆さんの出品も定着した東京都美術館での『日本の水石展』
(来年より歴史ある“日本水石名品展”への名称継承が認められました)150席に及ぶ美術館での展覧には、
日本ならではの、“床飾り“風の展示設備を作る為、この部分への出品料は10万円愛好家の方々に負担して頂いています。

200ページの記念図録と共に、趣味家の皆さんにこれ以上の負担をかけるわけにもいかず、
1000人にも満たない“小さな協会“は、いつも“財布は空っぽ“状態💧
苦肉の策として、開催を始めた「水石オークション」
今年から正式に日本水石組合が主催することになり、収益金の半額を文化団体である日本水石協会に寄付して下さる事が、総会で認証されました。
ありがたい事と、私を含めて協会役員も全員参加のオークションとなりました!

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“水石文化を守り広めよう“と、想いを共にする仲間達が、“商売夏枯れ“の今、損を覚悟で、全国から出品協力をして下さいました。

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名匠木村正彦先生を筆頭に、約100名のプロ達が、多数の盆栽・水石・樹鉢・水盤・卓などを、
さすが水石オークションと言える内容で集めてくれました。
感謝です。

朝8時、掛け声とともに開始され、夕方5時、手締めで終わった成果は、約5000万円。
誰も儲かってはいないでしょう。
業界の為と、出血落札を覚悟で皆んなで頑張ったのです!

水石組合の理事長に就任された、小林國雄氏、75歳で社団法人の長を退かれた中、
水石界の“頭“として、業界の安定的発展を見守ってもらう為に就いて頂きました。

水石文化を広めるには、様々な努力が私達プロには必要です。
その中に市場形成と言う大切なものもあります。
いくら“文化としての水石“と説いても、
そこにある水石や水盤が、価値あるものである事を、趣味家の方々にも、ひいては若いプロの人達にも、
こうしてオークションでかかるひとつの石が“30万!50万“と言う姿を目の当たりに見てもらう事が、
一番の刺激にも“自分もプロとして水石をもっと真剣に学ぼう“と言う気持ちになってもらえると思うのです。

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私もオークショナーを務めて、はや10年💧
さすがに
翌朝は声もガラガラ💦
65歳を前に、“次なる水石のオークショナー“を育てないといけません!
それには私のように、何よりも水石が好きでたまらないと言うプロの出現を期待するばかりです。


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さいたま市大宮盆栽美術館で開催中の「山水涼景〜水石の世界」※日本水石協会共催 で、
展示品へのギャラリートークをコロナ以前のようにライブで行いました。

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美術館へいらっしゃる、普段盆栽の素晴らしさを楽しまれる方々、皆さんへ“水石って?“という、
単純でひとことで伝えるのが難しい説明から、各席の詳しい解説まで、
38℃と言う猛暑の中いらして下さった30名程に伝えるのに、45分ほどかかってしまいました❗️

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嬉しいのは、解説など、浅学非力の私が、おこがましくも説明する事に、
耳を傾けて真剣に聞いて下さったり、メモをとりながら、“なるほどなあ“と、一席ずつご覧になったり・・。

水石を扱うプロとして、このようにその魅力を伝える事の大切さを痛感する時を頂いたのは、何よりも私自身かもしれません‼️

以前、アメリカワシントンの国立盆栽園でキュレーター(主に学芸員の方々)との講義を任された時、
“モリマエ、石は河川にあるもので、結局盗んで(拾って)来たものなのか?犯罪ではないか?“
と問われて、答えに窮した事がありました。

水石協会の役員として、正当な答えを求めに、国土交通省所管の河川局とその内容を相談して、答えを見つけました。
今日のような講演の時には、この内容を必ずお伝えする事にしています。

(河川局よりの解答)
日本の山河や海にそそぐ河川は、すべて国の管理するもので一部を除いて個人の所有はありません。
この河川に広がる石類も同じく国民の自然財産です。
個人としては、娯楽の域で河原から石を手に取り、訪れた記念に数点を持ち帰り楽しむ事は、
その河川を荒らすような行為とならなければ、問題ありません。
しかし、これを営利目的で採取したり、業とする方が持ち帰ることは、河川法に照らしても違反行為となります。
自然を愛する日本国民としてのコンプライアンスを遵守された娯楽の域で楽しまれる事を望みます。


これが解答でした。
つまり、一般の愛好家の方々が、“探石“と言う、水石として楽しめそうな石を河原から拾う事は問題なく、私達プロはダメという事です❗️


多くの人達が、訪れた山河で、自分の“目利き“で、水石の“卵“を見つける事が、いつかはそれが水石展に登場する第一歩になるのです。
盆栽で言えば、山採りの素材から名木が生まれるような事です。
みなさん!川へ行きましょう❗️未来の名石を‼️


「山水涼景〜水石の世界」についてはこちら


毎年、夏の季節、さいたま市大宮盆栽美術館で、同館と日本水石協会の協同主催による水石展が開催されます。

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今年は7月21日から8月30日までのロングラン❗️
途中(8/10)入替を経て前後期の展示です。
今回の前期展は、雨竹亭関係で、全席8席の内、7席を受け持ちました。

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冬の『日本の水石展・都美術館』とは雰囲気を変えた展示、この美術館ならではの企画が込められています。
格調高い床の間飾り・茶室風飾り、山形石・島型石、滝石、小品棚飾り、など、
景趣や設えを凝らした水石の展示。

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庭園の名樹を背景に静かな空間が広がっています。
私も8/6(日)13:30~ ギャラリートークを今年も受け持っています。
“ひとつの石が見せる大自然の景色“  是非皆さんもご覧になって下さい❗️

大宮盆栽美術館『山水涼景』についてはこちら↓
https://www.bonsai-art-museum.jp/ja/exhibition/exhibition-9438/

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