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盆栽歴47年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

カテゴリ: 盆栽

【蘇る真柏「昇天の龍」❗️】


日本盆栽界の“雑木盆栽の名人“と謳われる、大宮盆栽町「芙蓉園」に、
お預けしてある盆栽の管理料等をお支払いするのに、久しぶりに竹山先生にお会いしました。

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休園日の木曜日、門を開けて下さって中に入れば、手入れの行き届いた盆栽達が、塵ひとつない棚場に整然と並んでいました。
“いつも園の中の美しさは格別“と感心する姿です。

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冬の寒さを避ける為に、ハウスや軒下に取り込んである樹々、
釉薬鉢の古い物を使っている盆栽は、鉢に毛布を巻いて、根や鉢の“凍害“を守っていました。

ふと母屋の軒下を見れば、“日本盆栽界の宝“と謳われた、真柏名樹「昇天の龍」がありました。

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1970年、日本で開催された『万国博覧会』に造られた“盆栽庭園“は、
戦後の盆栽界の爆発的な発展のスタートで、その中でもこの“昇天の龍“は、シンボルとされた樹です。

以来50年以上、竹山先生と共に生きてきた樹。
一時は枝が広がり過ぎて、往時の姿からすれば、鷹揚となった樹、
数年をかけて先生が、切り戻し、針金整姿、植替えを施して、久しぶりに見れば、あの若き頃感動した姿に戻りつつありました。

刻をかけ、見守り続けた樹。
まさに名園芙蓉園を代表する真柏として、これからも盆栽界のシンボルであり続けてほしいものです。


国風展開催中、木村正彦先生の呼びかけで、昨年末、盆栽作家の競演「日本盆栽作風展」において、
見事に大賞である「内閣総理大臣賞」を受賞した森山義彦君の祝賀会が、森山君の結婚報告を兼ねて、大宮で催されました。
受賞作品である真柏「飛天の神龍」の所蔵者である福島県の舩山様と私が木村先生のお誘いで参加させて頂きました。

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木村先生の一番弟子、矢島さんは、私も先生の所での出会いから40年のお付き合い。
高弟の藤川さん・漆畑さんは、既に同展で大賞をそれぞれ、蝦夷松・赤松・で受賞されています。
森山君が真柏なので、次なる弟子内の候補として、著名作家であり、
私の朋友である鈴木伸二氏のご子息、浩明さんが、是非五葉松で挑戦してくれることを伝えました。

木村先生は娘さんのみで、後継ぎの息子さんはいません。
先生にとっては、このお弟子さん達こそが、何よりも愛おしい息子のようなものだと言うことが、
同席している間、ずっと慈愛の眼差しで彼らを見ている先生から感じられました。

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コロナ下、身内だけの静かで温かい祝賀会でした。
それにしても、森山君は、盆栽以外は本当に照れ屋で、おしゃべりが苦手で、
同じ地域で木村先生に“良く見守って指導を頼む“と言われた私は、彼の生真面目さ・人付き合いと商売の苦手さ・に苦笑いです❗️


コロナ下でも無事に閉幕した「第96回国風盆栽展」 
数々の名樹が一堂に揃う祭典は、その頂点の作品数点に“国風賞“の栄冠が与えられます。

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私達半世紀近く盆栽界にいる者達には、古来より名樹として名高い真柏が、
この国風賞を受賞された事は、選考審査に携わる方々の審美に対する良心を称えるべき事と喜んでいます。

さて、今回は数多くの真柏が海外の愛好家の方々より出品され、どれもが樹形素晴らしく、ダイナミックな存在感を会場に示していました。

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それらの樹を出品された方より「国風賞の真柏はどこが良いのか?よくわからない」と言う質問を受けました。
なるほど質問の通り、多くの皆さんが、国風賞の真柏に対して“この樹がここにある真柏群の中で一番?“と思われたでしょう。

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幹太く大型で、捻転する舎利芸の圧倒的な姿を持つ真柏が多数出品される中で、どちらかと言えば大人しいこの樹が何故栄えある大賞なのか?

私なりに想う意味をお伝えします。
造形という意味からすれば、今回の国風賞を凌駕する真柏は複数あったと思います。
別の言い方をすれば“もし、この樹達がここから年月を重ねれば“と想うものばかりでした。
日本の盆栽家達が最終的に求める盆栽の美と言う要素には、人が寄り添って過ごした年月、
鉢の中でどれ程の歳月を経た事で顕れる“表情“を重んじるものです。
盆栽は、人と自然が寄り添い、語らい、共に過ごしながら、「刻」と言う至高の導きが、真の美しさを創出してくれるものです。
その中には、表面的な“綺麗さ“を超えた、“人為では得られないもの“、
“自然が創り上げた“畏れ”にも似た、静かな厳しさが存在した樹“が、眼前に顕れた時、
ある意味の醜さを含めて初めて到達する“古雅“や“古感“、その総合的な美が、“美しい“と言う表現になるのです。

例えれば、若く演技も上手く顔立ちも綺麗な役者、その役者が歳を重ね苦難の人生を歩み演技に自然に“静かな重厚さ“を出すようになる。
皆さんはどちらが名優と思いますか?

学問優秀で眉目秀麗な若き禅僧。
人生を重ねて身を細めて、それでもすべてに達観して静かに佇む老僧。
どちらが名僧でしょうか?

盆栽は本来は、点数制で評価するものではありません。
しかし、展覧会では、大賞を選考するにあたり、その方式を行います。
日本の盆栽家達が、何よりも大切にするのは、この「刻を重ねた雅格」です。

日本盆栽作家の頂点、木村正彦先生に、この点を伺ったところ、
「私の作品は、幹を曲げ、根をたたみ、舎利を削り、まさにその樹が気の遠くなる歳月の中で受ける天災にも似た厳しい刻を一瞬で与えているのです。
その姿を評価してくださる事は、嬉しいですが、樹が最終的に名樹としての佇まいを醸し出すのは、
ここから日々の雨風を受け、四季を繰り返し、創出から四半世紀以上を経た後でしょう。
その時は、私が“創った“と言う人間の業にも似た、自然界には存在しないあってはならない“醜悪さ“が消えているでしょう」との弁。

盆栽は“輪廻“を繰り返すものだと思います。
創出から完成へ、そこから歳月という河に磨かれる玉のようなものです。
玉と盆栽の違いは、“生き続けている“事です。玉のように至高の完成を見られるのは一瞬です。
人が悟得の境地に近づけば、老齢となり生涯を全うする様に、盆栽が老成した姿をそのままに維持は出来ません。
また新たに創り直しをしなければなりません。
しかし、それは無からではありません。
一度老成して見事な姿を経たからこそ、次なる姿が深く誕生するのです。

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海外の皆さんが出品下さった真柏達は、“未来の名樹“として、ここからの老成を楽しみたい逸樹なのです。


縁あって、数年前国風展の大賞に輝いた楓の石付が手元に来ました。

若い修行時代、松田松月園氏の扱いで、展覧の席で拝見した時、“これが有名なあの楓“と心躍らせたものでした。

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細身の立石に絡みつくように根をおろした姿。
独特と言える樹相と、印象的な古鏡型の鉢。
40年前の出来事が目の前に甦りました。

羽生に届いた時、“これがあの樹?“  と思うくらい、印象が変わっていました。

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樹の培養状態、作品としての維持と手入れは満点なのに・・鉢映りでした。
培養を考えて和鉢の深みのある楕円に“のんびり“と植えられていました。
2ヶ月、全国の仲間に“古鏡型の中渡り鉢がないか?“と問い続けて、ようやく京都で想いの叶う鉢に巡り会いました。

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半世紀前は、紫泥のおとなしい古鏡。
今回はひとまわり大きくなった樹に合わせて
海鼠の大鍔型の古鏡。
植え付けを終えて、眺めれば、往時の感慨が再び心に甦りました。

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盆栽は鉢を“締め込む“事で、樹相が“大きく“感じられます。
勿論、培養のみを考えれば、楽な合わせが順当なのでしょうが、やはり“衣装“はその樹を変えます。
自分で納得のゆく鉢合わせ、私も和鉢まで入れれば3000点以上の鉢を保有していますが、
それでも、植え替えの時、うまく合わない時は、半日かけてもピッタリと来ない時があります。
48年間、植替えを毎年やってきても、それは変わりません。

盆栽人として、“最良の美なる鉢映り“を、いつも心掛けてゆきたいとあらためて思った楓の石付です。

“深山の更に奥を逍遥すれば、崖上より岸壁にしがみつくように生きる樹々の姿
その梢はあくまで細やかでやさしく、降りおりるような景色“

私の中の石付盆栽の象徴のひとつが“あの頃の姿“になりました。


6日に開催された第96回国風盆栽展も、13日より二部のスタートとなりました。

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一部に劣らぬレベルの高さ!
どちらが良いとなど言えませんが、私は個人的にはこのニ部の方が、グッと落ち着いた深みを全体の展示構成に感じます。

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松柏盆栽が席巻する時勢が続く中、季節の移ろいを感じる雑木盆栽や、
早春の自然を謳う“旬の盆栽“が減少してきているように感じます。

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中品盆栽・小品盆栽は、私の範疇を超える程の出来映えと内容!
感服するばかりです。


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コロナ禍オミクロンや、天候の不順など、来場者の減少が目立つ今回ですが、
100年の刻を続ける展覧会の中には、こんな時もあるものと、開催できたことを素直に喜んでいます。

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