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盆栽歴49年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

カテゴリ: 盆栽


二十代の頃からお世話になってきた趣味家の方、八十路を前に体調を崩され、
半年以上にわたるリハビリで、ようやくご本宅に戻られましたが、半身不随となり、お見舞いに伺った時は「盆栽のすべての処理を頼む」の弁。
日本を代表する企業の重役に、高卒でなられた立派な方。
愛好家としても、季節を楽しみ、飾りを楽しまれる生粋の趣味者。
“たとえ10点でも残されて、お楽しみになって“とご子息と説得の結果、30点を残されて100を超える蔵樹を放出されることになりました。


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よく盆栽業では“旦那さんが止める時は、自分の退職金”などと、まるで自身の儲けのような事を言う人達がいますが、私は昔から苦手です。
勿論商売はしたいですが、そのお客様と歩んだ永い年月、ひとつひとつの盆栽への思い出と、愛された持ち主の気持ちを思うと、
“こんな時こそ、出入方として、これが最善の姿、という扱いでいたい”と、ガラにもなく思うのです。
同じ愛好家として私のまわりで朋友と言える程のお付き合いをされてきた皆さんに、お声かけをして
“後日、全国の盆栽業者が集う交換会に○○さんの放出品を出します。事前に集まって頂き、ご希望があるものを優先して受け継いで下さい”
と申し上げました。
約20点の盆栽が、蔵者の友人達へ継承されます。勿論私は10%の手数料を頂きます。

この中には、旧高木コレクションのものもあり、特に高木さんが財団を興した時に日本橋三越で開催した記念式典「悠久のコレクション」の図録に収録されている五葉松名樹「稲取」もありました。

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バブル期を挟んでの愛好人生。
家一軒分に等しい対価が注ぎ込まれたでしょうが、盆栽は手入状態、時勢での評価、などで、手放す時は“今いくらするか”が基本となります。
たとえ100万出した事を知っていても、プロとして今が30万なら、
蔵者のご友人に「30万はありますのでお願いします」と伝えるのが、私の役目と思っています。
半世紀近い出入方として、自分で儲かりそうなものを先に買うことも出来ますが、
他を捌いて、良いものだけ自分が、と言うのはどうも出来ません(笑)。
それでも数人の友人達で400万ほど、盆栽達の“嫁ぎ先“が決まりました。
あとは、3月1日に開催される「天地会オークション」に全品出品して、キレイに伝票でご報告することにしています。
救いは、ご本人がこの形を喜んでいる事、そして30点のご自身で選んだ盆栽達がある事です。

たとえ半身が不自由となられても、まだまだ楽しんでほしいです。
失礼を顧みず申し上げました。
「○○さん、これだけのご苦労ご苦難をされた方にしか見えないものが、きっとあると思います。ここから見える盆栽の素晴らしさを楽しんで下さい」と。

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1日は、各盆栽業者の皆さんが、“お金にならない”と、競りで声をかけない樹達を、私の役目として、一生懸命買ってみます。


【幻の祖母五葉松!初公開‼️樹齢250年!】

国風展併催の上野グリーンクラブ『立春盆栽大市』も、後半「国風後期展」に合わせて、
小店2カ所のブースの“プレミアムブース“を、飾り替えしました。

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前期展で飾った「木村正彦先生、初公開巨大真柏」も、予想に反して(失礼しました)ご成約になり、
もうステージの役目は充分に果たしたのですが、売約品を自慢そうに飾っておく事は、昔から大嫌いなので、
中日に下げて、これも初公開の五葉松を中心に飾りました。


250年の歴史が克明に残っている「幻の祖母五葉松」。

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本当は3月に開園する「大徳寺内・芳春院盆栽庭園」の柿落としに飾ろうと思っていましたが、ひと足早く、帝都での披露とさせて頂きました。
正直、今回の国風展は、コロナの影響で、殆ど売れないと思っていましたので、
こうして高額の盆栽達が、いらっしゃるお客様達のお心を掴んで下さったこと、本当に嬉しいです。


また、映像に写っているイワシデの大型盆栽は、私が20代より関わった斯界の誰もが知る名品。

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旧蔵者のご好意で、30年ぶりに私の棚に帰って来て一年。
鉢を入れ替えて、これも大徳寺で披露しようと思っていましたが、友人の盆栽園主人が国風展にご一緒にお連れされた愛好家の方が、
“今回の大市の中では、この樹が一番だね”と仰って下さって、お求め下さいました!
なんと30代の方❗️
しかも「どうぞ大徳寺の開園に飾って下さい。引渡しはその後で良いですから」と。
ありがたいことです。

社会も盆栽界もコロナで苦しい刻の中、それでも盆栽が心を癒してくれると思って下さる方々。
毎日“今日が一期一会“と思って、出会いを大切にしたいものです。


【展示作品の重厚さは、前期を上回る⁉︎】

桜が咲くような暖かい日が続く中、第95回国風盆栽展も、後期展(13~17日)が始まりました。
前期展にも増して、展示作品の内容は高く、私見ですが後期展の方が全体としての内容が厚かったように思います。(中品・小品は前後期共に互角⁉︎)



特に国風展の中で総合的に優れた樹に与えられる「国風賞」は、やはり圧巻の存在感でした。


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しかし、私は世界の盆栽展の象徴的存在のなっている国風展は、選考の上入選した名品の数々を鑑賞する場であって、
どれが1番良いか?と言うような考えは不要だと思っています。
勿論、審査と言うものは、人が行うものなので、各自の思考によって優劣は多少違うのは当然です。
但し、多様化する盆栽美が世界に広がる中、上位の選考対象となった作品は、どれも素晴らしく、
“これが最高のもの“と、一般の観客が判断してしまう材料になりやすい事に、危惧も覚えます。

古典的な“刻と鋏“で仕立てられた古盆、名匠の技が生み出した絶品、風趣風韻を心に感じる味わい深い樹、
盆栽の美に対して捉える幅は広く、もっと深い意味で言えば、その人ごとの人生観が反映する部分もあると思うのです。

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ただ単に、超が付く名品に感嘆の声を挙げるのではなく、それぞれひとつひとつの盆栽が持つ「表情」のようなものを、
楽しみ、学び、ここまでに辿り着いた、盆栽達の“生きた姿“を味わう事こそが、国風展の真のあり方ではないでしょうか。

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でも、コロナ災禍の中、こうして100年の歴史を持つ展覧会が、
日本はもとより世界の盆栽を愛する愛好家の方々と、それを支える専業者の協力で、途切れる事なく、開催された事に感謝したいです。


開催が危ぶまれた第95回国風盆栽展ですが、感染予防を徹底した対策の中で、無事に開幕しました。

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15歳の時からずっと見続けて来た国風展ですが、搬入日でもないのに、これだけ人影の少ない会場は見た事がありません。

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それでも却って、ゆっくりとゆったりと鑑賞できる利点もあって、100年近い歴史を止める事なく出来た事を喜びたいと思います。


入選展示された各種盆栽、栄えある国風賞受賞樹、どれも手入れが行き届いた素晴らしいものでした。

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大型真柏や小品盆栽の国風賞が、中国の愛好家の方などが、受賞されているのを拝見すると、国風展も時代で変化してゆく事を感じます。


都内が普段の喧騒を忘れたかのような静けさの中、盆栽を眺める事が、
こんな時何よりも心の健康となる事を、もっと広く伝えたいなあ、とつくづく思いました。

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コロナ感染非常事態の中で開催された「第95回国風盆栽展」併催の盆栽大市。

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私達専業者の本丸「上野グリーンクラブ」の特設売店も、
通常のブースメンバーから、出店見合わせの業者さんが多く、各店の配置も大幅に変更されました。


私共エスキューブ雨竹亭も、従来の2階大型ブースから、初めての1階屋外ブース。

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開催直前に、メイン会場の“名園大手”が定席となっているクラブ本館1階の、2店舗分を追加で受け持つ事になり、
思案の末、“こんな時だからこそ、来場される皆さんに、最高の展示をお見せしよう!“と決めて、
普段では出来ない、“名品のみの本格展示”をそこでしてみました。


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屋外の超大型ブースも、ありがたい事に、初日だけで25点のご成約を頂き、
メイン会場の名品展示コーナーも、皆様にお褒めの言葉を頂く結果となり、有り難く思っています。




盆栽園は、各園それぞれの個性と特徴があってよいもの。
規模の大小ではなく、自分の願う売店作りで愛好家に楽しんで頂く事が大切だと思います。
“海外が来ないから・コロナで来客が半減するから・どうせこんな時売れないから”、
色々な考え方があっても仕方がないと思います。
でも、私はこんな時こそ、それでも盆栽が好きでいらして下さる方々の為に、
プロ業者は、“明日の為に“精一杯の店作りに心がけるべきと考えています。

友人の名匠、鈴木伸二さんもいつもの年と変わらぬ見事な出店。

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17日まで続く祭典、来て下さる愛好家の皆様の為に、日々僅かな努力でも大切に盆栽界の一大イベントに尽くしたいと思います。

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