雨竹 盆栽 水石 便り

盆栽歴49年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

カテゴリ: 盆栽


オリンピックを迎える中でも、コロナ災禍は収まりません。
毎年この時期の盆栽飾りに欠かせない「祇園祭りの長刀鉾」の掛軸を使った応接室の気持ちも、
どこか“コロナ退散!“と叫びたい気持ちが込められています。

IMG_5008
千年以上続く、京都の夏の風物「祇園祭り」は、やはり疫病が都を覆う災禍を、神仏の力を借りて対峙する庶民の願いが込められていました。

IMG_5014
IMG_5007
特に山鉾車の先頭を行く「長刀鉾」は、天頂部に付けられた長刀が、邪気を切り祓う意味を持っています。
今でもこの先頭の山車だけには、人形ではなく本当の稚児が乗っています。


IMG_5009

五葉松の根がひとつから成るこの樹は、京都を守る山々を表し、
脇の滝石は、その山々から湧き出る清らかな岩清水を表現しています。

IMG_5015
大自然そのままを包む山々、命を守る清らかな水、人はどんなに時代が変わっても、自然と共生して生きてゆくものなのです。
厳しい暑さとなる季節、心と身体の健康の祈りをこの飾りに込めてみました。


所用で、久しぶりに宮城県に出向く予定が出来たので、羽生の“卒業生として、故郷で頑張っている、加藤充君の所へ行きました。


IMG_4691
朴訥な彼、商売も決して上手い方ではなく、盆栽で食べていくのを心配していましたが、
40を過ぎて、ようやく良きお嫁さんを得て、数年前に建てた自宅も落ち着き、
地域の愛好家の方々に愛されて、何とか頑張ってる様子に、ホッとしました。
彼の真面目さを理解して下さる皆さんに感謝感謝です!

IMG_4692
彼のお父さんが、愛好家として五十年以上培養した五葉松の中品など、
僅か小指ほどの誰でも買える素材を、半世紀愛しむ事で、こんな立派な樹になるんだなと、
あらためて、盆栽は、人と時間と自然が創るものだと思いました。

20年位前に、自宅の新築間もない頃に伺った、仙台市郊外の、吹田勇雄さんの盆栽園、
加藤君も行った事がなかったので、懐かしくて伺いました。

IMG_4693
当時の自宅は、引舞して、盆栽の応客室と展示場に、自宅は元の場所に新築されていました。
“これからは、年齢に合わせて、夫婦で地元の方々とコツコツやってゆくつもりです“

IMG_4694
海外まで、駆け回っていた彼、壮年となる中、良い年の取り方だなあ、と羨ましくもありました。



私のように、未開の大地を切り開いて、戦うように生きてきた道、
2人のように、地元と密着して盆栽業を営む姿、形はそれぞれでも、
皆んな盆栽で生きてゆく仲間達だなって、つくづく感じた1日でした。

【若き木村一門作家と見学!】

未来の名木作りに日々鍛錬を続ける、羽生近在で頑張っている、森山義彦氏。
木村正彦先生の愛弟子として、“良い作家となるように、導いて“と、先生に言葉を頂いてもう5年。
盆栽園を構え、結婚し、手入れに勤しむ毎日。


私自身も先代よりお世話になっている、長野県須坂市「井浦勝樹園」、
森山君が一度も伺ったことがないと聞いて、真柏原木群の庭に伺いました。

IMG_4482
名樹「風神・雷神」内閣総理大臣賞「雷」を筆頭に、夥しい数の真柏群!
森山君も初めて見る“失われつつある真柏素材群“を目の当たりにして、圧倒されていました。


IMG_4483

面倒見の良い現当主井浦さん。
真柏名人と謳われた、先代と共に苦労した経験を、惜しげもなく、若者達に享受していました。

IMG_4481
こうして、日本の若い盆栽作家たちが、先輩たちの経験を受け継いで、
次の時代の名木達の守り人となってくれる事、そばで見ていても、嬉しいものです。
それにしても、相変わらずの、真柏の素材!素材!素材❗️


梅雨の天候の動きで、黒松・赤松の芽切りを、どの程度に進めるか?
この何年かは、とても気苦労が多いです。


IMG_4470
大型の名木が多い羽生なので、4人掛けで移動しながらの悪戦苦闘です。
一発切りと二度切りの方法がありますが、春先から肥料を効かせておくことで、一発切りで進められます。


IMG_4471
今月中に大型を終わらせて、中型から小品へと、徐々に進めます。
この時季は、芽切りとの日々戦いです!

【大型逸材群の植付け!】

昨秋、四国鬼無地方で買い付けた、五葉松(通称・銀八又は大阪松)の太幹素材の第二次植付けを、先日スタッフ総動員で行いました。

IMG_4341
朝6時開始!途中の水掛け(羽生は広く多く!4名で2時間!!)を挟んで、夕方までに完了したのが、25本。
とにかく大きく、根巻の状態で4人で持ち上げるのも不可能な重さ!


IMG_4344

フォークリフトの爪に、樹の幹に縛り付けたロープを引っかけて、吊りながらの根捌き、植付け。
半月前の四国よりの到着間もない頃に、植え付けるのに、手持ちの大型鉢(左右80~100センチ!)も使い切り、
思案の末に馴染みの大工さんに、杉材で寸法を測った木箱を大量に発注して、その到着を待っての取り掛かりでした。

IMG_4343
木箱下準備1名・吊り手1名・根捌き植付け3名・用土入れ完了3名・と言う流れ作業!
それでも、今まで50〜80年を、鬼無現地の古老達が、目先の利益を考えずに、弛まぬ丹精を続けて作出した、“二度と作れない太幹大物”。
鬼無を代表する、小西松楽園翁、庭内に1200年前の天皇家にまつわる古墳がある名家
「神高桃太郎家」(桃太郎さんは、代々のご当主の世襲名、吉備の国、桃太郎伝説を実際に家系に持つ方)
そして培養地の転用の為に、断腸の思いで作出される一群約150点を私に託された、山根家。
鬼無の盆栽、鬼無の銀八五葉松を支えてこられた方々の、歴史が詰まった樹々達。


IMG_4342

ここから、次の時代への名樹となるよう、私達が守り作らなければなりません。
今日仕入れて、明日売ってゆく、盆栽商売が跋扈する今。
この作品群をこうして大切に作ってゆく事、採算では合わないかもしれません。
でも、盆栽人として未来への遺産を作り遺す事の意味を、
スタッフ達がわかってくれる日がいつかは来ると信じて、樹と向き合い、“お前はどうやってここまで生き抜いて来たんだ?“と、
問いかけるように、仕上げてゆきたいと思っています。
IMG_4340

↑このページのトップヘ