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盆栽歴49年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

カテゴリ: 盆栽


昨年の春、3年間の日本での修行を終えて、故郷中国へ戻った、ハオ君とツァオ君。

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私と一緒に日本での技術習得を見守って下さった、名人・木村正彦先生も
“稀に見る二人。出来ればもう一度来日してあと数年学べば、紛れもなく、唯一の私の弟子として認められる“
とまで言わしめた逸材達。
故郷のご両親、ビザなどの関係で帰国しましたが、“ここからの更なる向上が大切“と思って、
私が公私共に盆栽家として人として信頼する、中国常州の王永康先生の所に預けて、“生活費は私が出します。
王先生には住居と食事をお願いします“とお願いして、一年半が経ちました。

雨竹亭の10倍はある王先生の「随園」二人はここで日々、数え切れないほどの盆栽の手入れに従事しています。

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一年中、盆栽の手入れが出来る環境。
盆栽家を志す者なら、理想の日々と言える毎日を、彼らは怠る事なく過ごしています。

週に一度ほど、“会長、見て下さい“ と、仕事をする前の樹と針金施術をした後の姿を数多く送ってくれます。
70代の老翁・王先生は、何も言わずに、我が子のように彼らの仕事ぶりと技術の向上を見定めながら、扱う樹の内容と作家としての技術を授けてくれています。
日本の木村先生・中国の王先生。
交流のある二人は、本人達が言うようにまさに“義兄弟“のような盆栽を愛する老翁達です。

私には若き中国の盆栽家友人として大倉という所に孫程輝さんがいます。
商売ばかりが目立つ中国盆栽界(日本も似ていますが・笑)で、“この人は本当の盆栽業を作れる人“と思った人物です。
例えれば、ある日、私と久しぶりに彼の所で会う機会がありました。
当日、彼から連絡があり、
“森前、申し訳ないが、日程を明日にしてくれないか。実は昨日、悪天候で私の大切なお客様の盆栽が、強風で棚から落ちて鉢が割れてしまった。急ぎ弟子達と向かっているので“ と。

盆栽家は、愛好家あってのもの。
この姿勢こそが何よりも大切なのを私達も修行時代に身に付けました。

この孫さんの所に数年前から黒松の名樹を預けています。
培養から芽切りなど、“友人だから気にしないで“と、料金も取らずに守ってくれています。

ここへ先日、ハオ君とツァオ君を王さんの許可をもらって、手入れに派遣しました。
日本で習得した技術。
帰国して王先生の所で磨いた技。

私が思っていた通りの仕事を彼らはしてくれました。

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“商売を考えるな、ひたすら盆栽と向き合え、そうすれば自然に人は集まってくるから“
そう教えて日々応援しています。
コロナなんて、早く消えて、昔のように海を渡って当たり前のように往来したいです。
盆栽を愛する仲間に、国も国境もありません。
若い二人と、もっと“次なる幕開け“を語りたいです。


【見捨てない命と象形(かたち)の継承】


羽生雨竹亭には、第一・第二・第三・各培養場を合わせると、数千本の盆栽があります。

お客様よりお預かりしているもの、美しく明日にでも飾れる手入れを施してあるもの、

まだまだ未完で数年をかけて作り上げてゆくもの、そして様々な原因で本来の姿を失って、

傷み枝枯れしたり衰弱によって樹勢の衰えが見られるもの。

そのすべてがここにあります。


先日、雨竹亭がこの地に根をおろして間もない頃からご縁を頂く愛好家夫人より森前さんの声が聞きたいとの連絡を頂きました。

懐かしい方、ご家族でこの庭でひとときを過ごされる様子が蘇ります。

久方の夫人よりの電話の内容を聞いて、申し訳なく恥じ入る想いでした。


愛蔵して日々楽しまれている真柏の古木。


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私のお誘いで、日本盆栽大観展に出品された樹です。

この連絡の少し前に、京都から羽生に戻ると、この真柏が庭にありました。


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枝枯れをして、針金が食い込み、樹の劣化がハッキリと見られました。


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お客様が痛めてしまったのだろう、時間をかけて作り直さないとと、

銀座や羽生でよくある樹の回復管理、と言う認識でした。


夫人の電話は以下の通りでした。

“ 森前さんとはホントにご無沙汰しています。頂いた真柏は、我が家の大切な樹として素人なりにも日々管理に努めて、楽しんでいました。

しかし、この数年、少しずつ状態があまり良くなく、羽生に連絡して相談していました。

そんな中、私が大病を患い、主人にも面倒をかけながら、樹を見守ってきました。

それでも中々、大観展に飾った頃の素晴らしい姿に戻ることはなく、

このままでは樹の為にもいけないと、幾度か羽生に連絡して預かってほしいと連絡しました。

出来れば森前さんに直接お願いと相談をしたかったのですが、担当の方との連絡で、今に至りました。

主人と相談して、これでは盆栽の為にも、趣味で楽しむべきもので、

心を痛めたり、苦労をしたり、盆栽を処分してもらって、この趣味をやめようか、と思っています


エスキューブ・雨竹亭は、全国の愛好家の方々に盆栽とサービスを提供する会社。

夫人のお話を途中でごめんなさいと言いたいのをこらえて、聴いていました。

“○○さん、お詫びの言葉もありませんが、せめて一年、この樹の為にも、私に時間を下さい。

一年後、大切になされた樹をご覧いただいてから、方針を決めて下さい

これが私がお答え出来る精一杯でした。

元々、良識深い人柄のご夫妻、私の言葉を受け取って下さり、ここから一年の時を、

この樹が、愛好家が、受けてきた刻を想いながら、樹勢の回復、樹相の改作に努めたいと思います。


担当者に非のすべてがあるとは思いません。

愛好家の方々、担当者の日々のあるべき姿、

そのすべてに心くばりが至らなかった、私の責任です。


若い頃、お客様に誘われて、ヘリコプターで、東京の夜の空を眺めた時、

なんて綺麗!まるで宝石が散りばめられているようだと思った時、操縦桿を握るお客様から

「森ちゃん、この綺麗な光ひとつひとつに、多くの人達のその人にしかないドラマと苦労があるんだよ。

綺麗な見方だけではなく、その中にある真実を感じることが大切だよ」

と教わりました。

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この真柏も、百年以上の刻を深い山岳の中で必死に息抜き、人の目に留まり、自然界から盆栽への道を数十年前に歩み始めたものでしょう。

多くの盆栽家、愛好家の慈愛を受けて、盆栽としての姿を展覧会に勇姿を見せるまでになったのです。

今、この樹は、人為と言う恥ずかしい災害で、苦難の刻を迎えています。

人が与えてしまった災害ならば、人の手によって、回復させてみる!

羽生の庭にある数えきれない樹達。

日本盆栽界を代表する名樹達から、ささやかな名も無き、見捨てられがちな草木まで、それらはすべて「命」なのです。

忘れてはいけない盆栽人としての大切な心を、夫人が問いかけて下さった気がします。

人生、失敗だらけの私、この真柏は私そのものです。

もしそうならば、私のように多くの人達に助けられて、今を生きるそのままを、この樹にも授けてあげたいと思います。

しばらく、私と一緒にこの羽生で暮らします。

来年の秋、どのようなになってくれるか?頑張ります!


盆栽を業として生きる皆さん、これは私の教訓です。

私たちプロは、日々多くの盆栽を世に送り出します。

そこには忘れえぬ名木もあれば、数えきれぬほどに扱ってきた数多の樹々もあります。

しかし、その樹を家族として迎えた愛好家の方々にとっては、どれもがかけがえのない唯一の名樹なのです。

盆栽ひとつで、人の輪が広がる・・この事を是非心に刻んでいきたいものです。

【7,000万の出来高❗️】

日本水石協会の文化事業を応援する業界組織として、仕組みを新たに開催されたオークション。
本来は東京盆栽倶楽部で行うイベントでしたが、昨今のコロナ拡大を配慮して、
少しでも換気の良い広い会場という事で、私達羽生雨竹亭での開催となりました。

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事務局を預かる私の周りは、名匠木村正彦先生、主催代表の小林國雄先生、業界を代表する皆さんが、全国から集って下さいました。
一般の業界オークションと少し違うのは、水石協会の活動援護の意を知って、
蔵深くに眠り続けている名石・名水盤が盆栽群と共に、表舞台に見る事が出来る事です。

今回も、“天下五剣“の筆頭として名高い国宝「三条・三日月宗近」を国立博物館に惜しげもなく寄贈された、
名家が旧蔵していた紅鞍馬石の絶品「若草山」や、銀象嵌の名器「鍋長楕円水盤」など、息を飲む品々!

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そこへ木村先生など、盆栽界の宝とされる作家の盆栽作品群!

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5,000円ほどの愛らしい石から、数百万の名樹まで、朝8時に開始されたオークションは、
気が付けば、終了の手締めがされたのは薄暗くなる黄昏時になっていました。

盆栽以外の競りすべてを担当した私は、今朝も声が出ないほどでした💦
でも、こんな時期に予想を超える参加者と出来高、仲間の心意気に感謝!感謝の1日でした。

【“オヤジさん“  江波戸照夫氏】

関東の庭木の一大拠点 千葉県匝瑳市。
ここで庭木の他、盆栽の市場を月に複数回、
全国からの盆栽業者との交流で多くの仲間が集う“マルキョウ交換会“を主宰する江波戸のオヤジさん。

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あふれるほどの盆栽!
海外からの注文にも精算の立替や取置き管理を“いいよ!任せておけ!“と、気っ風良く引き受ける昔気質の人。

交換会以外で伺う機会も少ない中、久しぶりに元気な顔を拝見に伺いました。
22歳の時、奥様(私たちの呼び名は“お母さん“)と75,000円(奥様が5万円・江波戸さんが25,000円💦)で始めたマルキョウ植木は、
今では全国で知らないプロはいません。

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伺った日も、友人の目利き盆栽家の田中さんとどこまでが敷地なのか?
わからないほどの中にある盆栽達と仕事をされていました。

“オレは物も良く見えないし、勘と度胸と仲間に支えられて今日までやってきただけ。ありがたいよ“と、相変わらずの気持ち良いくらいの人柄。
陰で支えられる奥様共々、いつまでも私たちの道標として元気でいてほしいと心から思いました。

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ビックリするくらいの盆栽の量!
そして江波戸さんに逢いに皆さんも一度は是非訪れてみて下さい。


【五山の送り火と盆栽庭園 悠久の時の流れ】

8月16日、京都は13日にお迎えした個々の精霊(先祖)を冥土に迷わず送る“五山の送り火“が行われました。
東山の“大文字“・松ヶ崎妙法山の“妙“と“法“。
西賀茂の船形から、北山の“左大文字“、そして曼茶羅山(水尾山)の鳥居本。
妙と法はひとつと数えて五山の送り火としています。
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大徳寺盆栽庭園からは、すぐ後ろの北山金閣寺から仰ぐ“左大文字“が間近に見えます。

1000年以上前に起源を持つ送り火。
最近は観光的な報道が多い行事ですが、
京都の方々にとっては、順々に灯火されてゆく送り火に手を合わせて、精霊や先祖に対しての尊崇を心に祈る“静かな“ものなのです。


長い時の中、戦禍や疫病など、人々を苦しめる様々な出来事が歴史の記憶にあります。
盆栽も日々愛情を注ぎ、これを守ってきた人達、数多の災害を経て、樹相を変えながらも必死に生き抜いてきた老樹達。

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庭園から“左大文字“を仰ぎながら、盆栽を眺め楽しめる“今“が、ずっと続きますように、祈る日でした。
合掌。

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