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盆栽歴45年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

カテゴリ: 雨竹亭

【恩人との45年】

盆栽の修行を始めて間もない頃からお世話になっていた大家愛好家の旦那さんが、この春83歳でご逝去されました。
百ケ日を過ぎて、奥様より「整理ごとのすべては、森前君に任せるように」とのお言葉で、
ハイエース6台に及ぶ水石・水盤・卓・掛軸・添景・茶道具・を、羽生の新設倉庫の方に移動して、奥様にも同席して頂いて、整理を始めました。
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“信頼しているから任せる”このお言葉は、何よりも重く、
日本有数のコレクションをどの様にしてゆくべきか?頭を痛めています。
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千点を優に超える収蔵品。
ひとつの桐箱を開ければ、ひとつの故人との思い出。
“旦那さんはどうする事を望まれたのだろう?”と、考えながらの1日でした。
拙い目で仕分けしながら、
(目利き愛好家の方に受け継いで頂きたいもの)(業界の市場に送り出すもの)(美術界にお返しするもの)
等々、相応しい判断が自分の役目です。
二十歳から三越を舞台にどれ程のお客様のお相手をしてきたでしょう。
どれ程の人徳者の方々をお見送りしたでしょう。
私の様な失敗ばかりの大馬鹿者にどれ程のご芳情をかけて頂いたでしょう。
すべき事は、残された奥様やご家族の皆様の“声なきお心”に沿うように摂り進める事だと思います。
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数百点の掛軸も、明日からひとつずつ開いて仕分け、茶道具の方は京都の付き合い古い信頼のおける方に相談して(亡くなった旦那さんもお知り合いでした)
上中下の区分の上、整理したいと思います。
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形見分けはご遠慮して、盆栽の庭で旦那さんが使っていた鋏を頂き、庭の観音堂に納めました。
空の上から見てくれていると思います。
ありがとうございました。
これからも遠い所から見守って下さい。 
合掌

【羽生市長来園!】

休日を利用して、雨竹亭のある羽生市の河田晃明市長が来園されました。
藍染の街として歴史ある羽生に、日本文化のひとつである「盆栽」のランドマークが来た事を、開園当初より歓迎してくれた市長。
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教育者の道から市政の道、ご自身も農家の生まれで、教職からこの街を預かる立場になった苦労人。
コロナ対策の激務の中、ひと時の憩いの場として楽しんで頂ければとお迎えしましたが、お話の中身は相変わらず街の発展。
今回もふるさと納税の返礼品に盆栽をとのお話。
この町で生産される産物として、「家庭の中に憩いを与えてくれる盆栽」と言う観点からご相談を受けました。
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盆栽人としてありがたい事で、これからの社会にマニア的なレベルではなく、
「誰もが楽しめる家庭的な盆栽」という意味で、エスキューブが目標とする「社会性ある貢献」にぴったりのお話。
行政を預かる方が、このような日本の伝統的文化を大切に思ってくれる事は嬉しいです。
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美しい花姿の季節を迎えた皐月「鈴の誉」を床の間に飾り、楽しい刻を過ごしました。
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【珍しい「山蔓あじさい」と水石の景趣】

空気が少しずつ潤湿となり、霧雨が降る季節となりました。
滋賀県に住する聖職者、関目六左衛門先生よりのお預かりしている稀少盆栽「山蔓あじさい」を応接室の床に飾り、深みある季節の飾りをしてみました。
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「岩がらみ」に代表される同系の盆栽は、初夏を代表する目に嬉しい盆栽ですが、
原生種である山蔓あじさいは、盆栽として保存されているものが、とても少なく、この樹も雑木盆栽の名手と称えられた故勝俣翁が自身の名で展覧した作品です。
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分け入るような深山の大樹に巻き付きながら生きるこの樹は、懸崖の姿が良く似合います。
今回は、絵ではなく、書と取り合わせてみました。
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明治の能書家として内閣大書記官・元老院議官・貴族院勅撰議員をされた天保生まれの巌谷一六翁の書です。

欲采紫芝去 蹋雲深入林
偶尓逢僲叟 並筇聴水音

※紫芝を采らんと欲して去くに
 雲を蹋(ふ)み深く林に入る
 偶尔(たまたま)仙叟に逢えば
 筇(つえ)を並べて水音を聴く

『紫芝(仙薬の霊芝)を探そうと、雲煙の中を林の奥に入る。偶然にも仙人と逢ったので、ふたり並んで杖をついて水音を聞いている』

脇の琵琶床には、この盆栽と書に記された景趣を扶ける意味で、貴船の渓谷石を取り合わせてみました。
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樹・書・石・が、三位一体となって共鳴する空気感。
“軽きものは深く見つめて飾る”先人達が残した美への求道の精神を伝えてゆきたいものです。


いつの間にか、新緑に目も慣れた今、雨竹亭の応接室も季節の雰囲気が変わってきます。
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日本人は歳時記に謳われているように、春夏秋冬の四季から、12ヶ月の暦、そして二十四節気の移ろい、
果てには日々の日射しや気を敏感に捉えた七十二候(およそ5日ごとに変化してゆく自然観)など、まさに自然と共に自然の中に生活を営んでいます。
私達盆栽家も、日々の手入れや商売に追われながらも、日本人として盆栽人として、
お越しくださる(今はコロナで殆ど誰も来ませんが!)皆様に盆栽・水石・山野草・の美しさ、素晴らしさをお見せする役目を忘れずに努めたいと思っています。

菖蒲の花が咲き始めました。
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端午の節句に剣に見立てた菖蒲を飾り「菖蒲湯」に浸かる。
江戸の昔から続く風俗文化です。
この菖蒲は鉢で4~5年持ち込んだもので、締まった姿に仕上がりました。
この持ち込んだ姿は今年が見頃。
ここまで根が締まってきたら、植替えが必要です。
また数年の培養で、勿論毎年楽しませてくれますが、本当に美しさを見せてくれるのは、その中で植替え前の最後の1回です。
山野草はどちらかと言えば、盆栽と比べて低く見られがちですが、
奥の深いもので、人の手が過度に加えられない事が、審美の心を駆り立ててくれます。
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掛軸は、戦前の名筆・田中以知庵の「飛燕図」つがいで飛び交う姿は、この季節に巣作りに励む燕そのものの風景です。
脇床には安部川石の清冽な滝石。
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水を打った古銅水盤に瑞々しい涼景を見せる石は、立夏を迎えた“先取りの飾り”の好機と言えます。
床飾りの側面棚には、ヤマコウバシの寄せ植え。
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新緑が映える高原の林間が優しく映し出されています。このヤマコウバシは、先日惜しまれながら天国に逝った勝俣先生の作品です。
野山にあるヤマコウバシを寄植え盆栽の代表的な美へと導いた盆栽界の恩人です。
鉢に入れると数十年を経ても太らない、切返しでの造りを嫌うヤマコウバシは、雑木盆栽の“優しい美”をとても良く表現してくれます。
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足下の菖蒲・仰ぐ山々の中にある滝・その向こうの山中の高原の林間。
ひとつひとつが奏でる美が、共鳴して日本の四季の「今」を室に醸し出しています。


〈コロナ災禍で刻を止めた日々・盆栽との静かな時間〉

半世紀近く、盆栽業をさせていただく中で、ゴールデンウィークと言えば、お得意様・一般の盆栽に興味を持たれる方々の対応に追われる年に1度の季節。
今年は人生の中で初めて“誰も居ない”この時期を過ごしています。
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17人のスタッフ、内12名の男子は、
普段ならそれぞれの仕事(銀座店・レンタル盆栽・本店管理)などに分かれて慌しい日々を過ごしているのですが、今は庭内の仕事が殆ど!
仕事の合間に盆栽棚で腰に剪定鋏と又枝切とピンセットを持って、
ひとつひとつの樹の細かい切込みをしていると、吹き抜ける風の音と、自分で切っている鋏の音だけが聞こえてきます。
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世の中がウィルス災禍で身動きが出来ない中、こうして自分の広い庭で1日中手入れをしていられる事に感謝しなければいけないのですが、
手入れをした盆栽達を見て楽しんでくださる方々が、誰も訪れない不思議な今、
私達盆栽家が出来ることって何だろうと、自問自答してしまいます。
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何か世間のためになる事はないものか?
こうして出来るだけ、自分の出来る事を発信して、たとえ一人の方にでも、盆栽を伝える事になればと、拙い願いを込めています。
“出かけないように”と、世の中は言っています。
それでもせめて写真の中だけでも「盆栽の楽園」を見ていただいて、少しでも心の癒しにして欲しいです。 
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