雨竹 盆栽 水石 便り

盆栽歴45年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

カテゴリ: 雨竹亭

【珍しい「山蔓あじさい」と水石の景趣】

空気が少しずつ潤湿となり、霧雨が降る季節となりました。
滋賀県に住する聖職者、関目六左衛門先生よりのお預かりしている稀少盆栽「山蔓あじさい」を応接室の床に飾り、深みある季節の飾りをしてみました。
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「岩がらみ」に代表される同系の盆栽は、初夏を代表する目に嬉しい盆栽ですが、
原生種である山蔓あじさいは、盆栽として保存されているものが、とても少なく、この樹も雑木盆栽の名手と称えられた故勝俣翁が自身の名で展覧した作品です。
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分け入るような深山の大樹に巻き付きながら生きるこの樹は、懸崖の姿が良く似合います。
今回は、絵ではなく、書と取り合わせてみました。
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明治の能書家として内閣大書記官・元老院議官・貴族院勅撰議員をされた天保生まれの巌谷一六翁の書です。

欲采紫芝去 蹋雲深入林
偶尓逢僲叟 並筇聴水音

※紫芝を采らんと欲して去くに
 雲を蹋(ふ)み深く林に入る
 偶尔(たまたま)仙叟に逢えば
 筇(つえ)を並べて水音を聴く

『紫芝(仙薬の霊芝)を探そうと、雲煙の中を林の奥に入る。偶然にも仙人と逢ったので、ふたり並んで杖をついて水音を聞いている』

脇の琵琶床には、この盆栽と書に記された景趣を扶ける意味で、貴船の渓谷石を取り合わせてみました。
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樹・書・石・が、三位一体となって共鳴する空気感。
“軽きものは深く見つめて飾る”先人達が残した美への求道の精神を伝えてゆきたいものです。


いつの間にか、新緑に目も慣れた今、雨竹亭の応接室も季節の雰囲気が変わってきます。
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日本人は歳時記に謳われているように、春夏秋冬の四季から、12ヶ月の暦、そして二十四節気の移ろい、
果てには日々の日射しや気を敏感に捉えた七十二候(およそ5日ごとに変化してゆく自然観)など、まさに自然と共に自然の中に生活を営んでいます。
私達盆栽家も、日々の手入れや商売に追われながらも、日本人として盆栽人として、
お越しくださる(今はコロナで殆ど誰も来ませんが!)皆様に盆栽・水石・山野草・の美しさ、素晴らしさをお見せする役目を忘れずに努めたいと思っています。

菖蒲の花が咲き始めました。
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端午の節句に剣に見立てた菖蒲を飾り「菖蒲湯」に浸かる。
江戸の昔から続く風俗文化です。
この菖蒲は鉢で4~5年持ち込んだもので、締まった姿に仕上がりました。
この持ち込んだ姿は今年が見頃。
ここまで根が締まってきたら、植替えが必要です。
また数年の培養で、勿論毎年楽しませてくれますが、本当に美しさを見せてくれるのは、その中で植替え前の最後の1回です。
山野草はどちらかと言えば、盆栽と比べて低く見られがちですが、
奥の深いもので、人の手が過度に加えられない事が、審美の心を駆り立ててくれます。
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掛軸は、戦前の名筆・田中以知庵の「飛燕図」つがいで飛び交う姿は、この季節に巣作りに励む燕そのものの風景です。
脇床には安部川石の清冽な滝石。
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水を打った古銅水盤に瑞々しい涼景を見せる石は、立夏を迎えた“先取りの飾り”の好機と言えます。
床飾りの側面棚には、ヤマコウバシの寄せ植え。
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新緑が映える高原の林間が優しく映し出されています。このヤマコウバシは、先日惜しまれながら天国に逝った勝俣先生の作品です。
野山にあるヤマコウバシを寄植え盆栽の代表的な美へと導いた盆栽界の恩人です。
鉢に入れると数十年を経ても太らない、切返しでの造りを嫌うヤマコウバシは、雑木盆栽の“優しい美”をとても良く表現してくれます。
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足下の菖蒲・仰ぐ山々の中にある滝・その向こうの山中の高原の林間。
ひとつひとつが奏でる美が、共鳴して日本の四季の「今」を室に醸し出しています。


〈コロナ災禍で刻を止めた日々・盆栽との静かな時間〉

半世紀近く、盆栽業をさせていただく中で、ゴールデンウィークと言えば、お得意様・一般の盆栽に興味を持たれる方々の対応に追われる年に1度の季節。
今年は人生の中で初めて“誰も居ない”この時期を過ごしています。
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17人のスタッフ、内12名の男子は、
普段ならそれぞれの仕事(銀座店・レンタル盆栽・本店管理)などに分かれて慌しい日々を過ごしているのですが、今は庭内の仕事が殆ど!
仕事の合間に盆栽棚で腰に剪定鋏と又枝切とピンセットを持って、
ひとつひとつの樹の細かい切込みをしていると、吹き抜ける風の音と、自分で切っている鋏の音だけが聞こえてきます。
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世の中がウィルス災禍で身動きが出来ない中、こうして自分の広い庭で1日中手入れをしていられる事に感謝しなければいけないのですが、
手入れをした盆栽達を見て楽しんでくださる方々が、誰も訪れない不思議な今、
私達盆栽家が出来ることって何だろうと、自問自答してしまいます。
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何か世間のためになる事はないものか?
こうして出来るだけ、自分の出来る事を発信して、たとえ一人の方にでも、盆栽を伝える事になればと、拙い願いを込めています。
“出かけないように”と、世の中は言っています。
それでもせめて写真の中だけでも「盆栽の楽園」を見ていただいて、少しでも心の癒しにして欲しいです。 
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【「涙藤」と名付けて】

外出自粛令の中、雨竹亭の庭は陽春の麗かな花物盆栽達が、競うように年に一度の絢爛を見せています。
普段の年ならこの季節『春の観賞会』と銘打って、一般の方々、お得意様達、同業の盆栽園の方、盆栽作家等々、
対応に追われる日々の中に居ますが、今年は庭の盆栽達を守るスタッフと私だけです。
「誰も来ないのだから、作業に専念すればいい」と、応接室などの飾りを控えても同じなのですが、
若い頃から「盆栽園は訪れる方々に盆栽の素晴らしさ・美しさをお見せするのも大切な役目」と思って過ごしてきました。
ウィルスの為にどれだけの人々が苦しんでいるのか!
辛く心が締め付けられるようです。
私は、誰も訪れない中でも、出来る限り普段通りの盆栽園の姿を守ろうと思っています。
それが、1年間一生懸命管理してきた季節の盆栽達の「晴れ姿」なら、せめて舞台を作ってちゃんと飾ってあげたいのです。
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先日も早めの藤の盆栽の飾りを紹介しましたが、今回は別の樹で、趣向を変えた飾りを作ってみました。
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五月雨のように咲き下がる美しい花姿。
掛軸には明治の名筆・今尾景年の「月にほととぎす」
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藤の盆栽の合わせ掛物は、4~5月の季節ものですが、前回の「揚げひばり」の軸ですと、
里山のどちらかと言えば、“人の住む世界の近く”の景となりました。
今回は霧煙る山々にスーッと翔ぶほととぎすとひと声の響く鳴き声。
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花下には、水を湛えた安部川の溜り石。
水盤は涼やかな季節に古渡の炉鈞窯の名器。
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そして琵琶床に木彫の「浮見堂」※田中一光作。
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朧の月の下、藤の花は満開に咲き誇り、足元には石清水を湛えた石。
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遠く山々の向こうに“有るであろう”湖水に見える浮見堂。
季節の盆栽も周りの道具立によって、浮かび上がる景色は限りがありません。
誰も観る人のいない季節盆栽の飾り。
咲く藤の花に“涙”を感じるくらいです。
あえて勝手に席題を付ければ『涙藤』と言いたいです。

【掛軸を使った黄木瓜バラの席飾り】

日本全土にコロナウィルスの災禍が人々の生活に苦渋の刻をかける今、こんな刻だからこそ、
ご自宅の盆栽達とせめて豊かな刻を過ごして頂きたいものです。
季節より少し早めに咲き始めた「黄木瓜バラ」の古樹、これだけでも充分楽しませてくれますが、
道具立てを取り合わせる事で、そこに広がる景色は大きく広がります。
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季節の花物盆栽は、可憐な花姿を愛でる“身近な世界観”となりがちですが、
盆栽の幹や枝に鉢持ち込みでしか現出しない“古趣”つまり厳しい刻を重ねた樹にしか見られない味わいがあるものは、もっと深い景趣世界を設えてみたいものです。
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今回は霞む山と一羽のほととぎすの掛軸を取り合わせてみました。
中型の盆栽に掛物を合わせる時、できれば樹が小さく見えないように、縦長の掛け軸よりも、横物の少し小ぶりな軸を使いたいものです。
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山里の麓に生きた木瓜バラの古樹。
老樹でありながら霧煙る季節には可憐な花姿が枝先に。
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遠くを仰げば芽吹に萌える山姿。
そこに一羽のほととぎすが一声鳴いて一閃。
自然の移ろい、静けさの中の盆栽の色彩、「樹画一体」の境趣です。
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添えの飾りに山裾に流れる川面の舟。
“静けさと“動”。
この時に船の材質も考慮したいものです。
主たる盆栽が花物ですので、唐金や古銅などの鋳金ものよりも、陶製や木製、つまり“堅くない存在感”に努めたいですね。
添景である舟も出来るだけ小さめ、大きくなると景色が“目の前”で強く余韻が無くなってしまいます。
床の間が無くても、添景や色紙掛けなどで、お部屋の中に盆栽が主人公の別世界が浮き上がります。
皆さんもお手持ちの盆栽でご自分の「心の中の自然」を楽しんで下さい。

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