雨竹 盆栽 水石 便り

盆栽歴49年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

カテゴリ: 雨竹亭


冬至を迎え、ゆく歳を振り返る中、盆栽の床の間飾りに1番苦労する季節です。
色鮮やかな“秋景色“の記憶、その後に訪れる暮の静寂。
新年を前に“色“を抑えた“冬姿“を、席中に表現してみました。

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主木は五葉松の古樹。
盆栽界の歴史にその樹相を残す名樹。


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サバ状の幹は徐々に懸垂しながらも、雲間の景のように、枝々を配らせています。


配する掛軸は、大家横山大観の師匠筋でもあった、明治画壇の名筆、今尾景年の「寒中月」

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深々と降り始めた雪が、冬空の半月に映されて、寂たる世界を醸し出しています。


脇には、古谷石の古石。


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﨟たけた石肌は、百年を優に超える愛玩が創り出した古感。

凍てつく程の冷気の中、葉色を変えながらも、常盤の翠を湛える松。
あくまでも静かに降りゆく雪と中天の月。
五葉松の樹相と溶け合う“厳なる姿“を持つ古谷石。
余分な景色を省いた、“水墨世界“を、席中に醸し出した「師走の盆栽飾り」です。
“何処かに季節、されど過ぎぬよう”・・飾りの難しさとは、尽きぬものです。



明日から長留守の京都行き。
展覧会の事や、大徳寺に対する礼儀など、無学な私には神経衰弱になりそうな毎日です💦

こんな時は、本来の自分に戻って、樹作りの時間を作る事が1番です。
木村先生門下・森山義彦君、私の所の卒業生(もう一人前の盆栽業者ですが)白石友也君、
そして3年の修行を終えて間もなく故郷中国へ帰るハオ君とツァオ君。
4人の力を借りて、四国から運んだ大阪松(宮島五葉松)の幹曲げ、枝曲げを伴う改作を行いました。

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素材の激減する中、若いみんなには、こんなそのままでは誰も見てくれない樹が、“本筋“に変貌してゆく姿を体現してもらいたかったのです。


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名匠木村正彦先生よりの鉄棒やジャッキを使った、樹の限界との挑戦のような仕事!


すぐには人前に飾れるものでは無いけれど、数年の刻をかければ、鉄棒も外れて、“これがあの時の樹?“と言うようになってくれると思います。

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やっぱり、樹と一緒に過ごしている時間は、何よりも楽しいですね♪



暦の上では、もう立冬。
暮らしのまわりにも“過ぎゆく秋”が感じられます。
夏の終わり頃に手に入れた柿の盆栽が、ようやく飾れる時になりました。

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スタッフ達は、“間もなく実も終わりますが“、とずっと言っていましたが、
私は柿の盆栽に求めるのは、たわわの実なりが過ぎて、僅かに残った葉の実の風情こそが、柿に描きたい世界だと思っています。

飾る当日、残された葉の半分を取る、この時、“自然に落ちてゆく葉姿“を心に浮かべて、
人間がいかにも“わざとらしく少なくした“感じが出ないように心がけました。

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鉢も今まで白い丸鉢に入っていたものを、“侘びた風情“が一層となるように、丹波焼の古鉢に、根を痛めないようにそっと植え替えました。

取り合わせた掛物は、田中訥言の「時雨の散り紅葉」。

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霜月の山風に葉を散らしてゆくもみじ。淡彩で描かれているので、柿の実の色を殺さず、溶けあってくれました。

添えには、木彫の茅屋。


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山里の晩秋の景色が、席中に表現出来たかなと思います。

この柿の見頃は、僅かに5~7日程です。
でも、季節の移ろいとは、そんな具合が丁度良いです。
その1週間の為に、1年の培養を続ける。
こんな贅沢こそが、盆栽趣味の醍醐味だと思っています。
さり気無い柿の盆栽。
国風展などに出品される老名樹とは違いますが、心に沁みる点では、些かも負けていません。
そこに込められたそれまでの時間、想い、
盆栽飾りは、これでいいと言うものがなく、奥が深く、私もまだまだ樹に教えてもらう事ばかりです。

【圧巻の春花園の盆栽群!】

来春の「第7回・日本の水石展」審査会が協会理事長宅、春花園で行われました。

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コロナ禍の中、150席の参加に感謝の限り!
内容高い展覧となります。


それにしても、小林理事長の所の盆栽群は、溜息の出るレベル!

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流石に美術館を名乗るだけの最高級!
蔓青園さん、鈴木伸二さんも、理事として参加しましたが、3人で “これだけのコレクションをプロでしている所は、ここだけだね”と。

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近く、盆栽『天』樹鉢『地』に続いて、集大成の水石を含めた小林國雄の大観を刊行する予定とのこと。
日本の盆栽水石界に残る本になる事を期待したいです!


台風の接近に一喜一憂する盆栽園、秋晴れの日になると、心がホッとします。
“名匠“木村正彦先生にお願いしていた五葉松の根連りが仕上がって帰ってきました。
2年前、うらぶれた姿で市場に売られていた木、培養の安定を確認するまで我慢して、先生に持ち込みました。

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100年を超える樹齢を見せる樹、揺れ立つ幹姿は、どんな盆栽作家でも創出することは出来ない味です。
「松風を聴く」・・そんな景色を創ってみました。

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掛軸は明治の名筆・山元春挙「来雁図」。

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渡り鳥の雁は、中秋から晩秋にかけて日本に飛んで来ます。
遠見に飛ぶ雁の群れのみで画中を構成しているのは、大家ならではの腕!
余計な書き込みがないだけ、主木をよく扶けてくれます。

脇には古谷石の重畳とした連峰の姿。

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大陸から島々を超えて来た雁の有り様を、席全体で表現しています。
やっぱり、持込みの古い松はいいですね!

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