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盆栽歴45年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

カテゴリ: 日常


【名匠・木村正彦師・渾身の作出!】

今から11年前、北海道盆栽界に太いパイプのある埼玉県盆栽業者より
「蝦夷松の未完・未公開の大変な樹がある。買わないか?」と連絡を頂き、現物を確認した時、
圧倒的な大自然が創り上げた天然樹形と、想像すら出来ない程の年輪の古さに“この樹は将来盆栽界の代表的な蝦夷松になる!”と確信しました。

但し高額であること、仕上げるのにある程度の時間がかかることなどから、
大型名木の著名愛好家である福島県の大家にお持ち頂き、植替え・整姿・針金掛け・を繰り返し、
今春、満を持して盆栽作家の頂点に立つ80歳にして今尚日々作品制作に励まれる名匠・木村正彦先生に完成への“最後の仕上げ”をお願いしました。
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樹齢500年を優に超える年輪を持つ大樹。
遠い昔より現地では「蝦夷松の王」として、“神”を意味する『神威・かむい』と言う名を冠されたこの樹は、人の手を嫌う程の存在感。
これに立ち向かい、樹と対峙できる作家はひとりしかいませんでした。
先日、仕上がったこの樹を所蔵者である福島県に持参して、予定される新たな鉢が、余りの大きさの為、1年前に中国宜興窯に特別注文しておいた朱泥長方に4人がかりで植え替えました。
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ここから数年の刻をかけて、姿に“なじみ”を持たせます。
未来に遺す遺産と言える名樹を手がけること、盆栽家冥利に尽きる仕事になりました。
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【初公開!改作室!】

桜の花がまだある中、木村先生が30年かけて手作りで作ったツツジの生垣はもう花が咲き誇っています。
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このアプローチの奥が先生の自邸、左が作品庭園です。
80歳を迎えても毎日制作活動をされる先生。
最近の作品から代表的名品まで、この庭で静かな日々を先生と送っています。
そのすぐ脇の一室に先生が半世紀変わらずに盆栽整姿をされる工房があります。
今は私の津山檜の仕上げ仕事をして下さっています。
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先生は昔から正座をして針金掛けをなさいます。
樹に向かい合って、膝の屈伸で仕事をした方が早いと言うのが先生の考えです。
この考え方・盆栽に対する姿勢にも頭が下がります。
コロナウィルス災禍で、外出での余暇がしづらい日々。
ここは先生と盆栽の楽園のようです。
何も変わらない毎日が続いています。


福島県へ手入れに出向いた時、昨年の同じ頃初めて出会った「種からの栽培」を今も大切に続けている『野尻種苗』さん。
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何も無い所から新しい命を産み出し、そこから将来の盆栽が誕生する・・
私達盆栽家が忘れかけている原点の姿がここにあります。
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名木や名器を扱う日常、そんな日常がコロナウィルス災禍で崩れている今、15歳の冬、修行に入った46年前のあの時、
毎日ハウスの中で“元接ぎ”技法で八房五葉の苗木を各種作っていた頃を思い出しました。
先日も栃木県の交換会で、あの頃作った瑞祥が立派な盆栽になって登場したことは、この福島の実生苗作りに通じる感慨がありました。
人々の生活すら煩わすコロナウィルス。
こんな時盆栽業としてすべきことは、次の時代に残す命をたくさん作ること、
そう思ってスタッフに相談したら、みんな“やりましょう!”と言ってくれました。
事情を話して野尻さんの常務が
「本当は契約栽培が殆どですが、森前さんのおっしゃる気持ちに応えたいので、特別にお分けします」!
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五葉松3年生1000本・黒松2年生500本。
私達はこの命を守り育てる責任があります。
仕事もしづらい毎日、こんな時新しい命にふれることは、とても嬉しく、何か忘れていた感覚が蘇ります。
一年後、この子達がどんな姿になっているか、ぜひご覧にいらして下さい。
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【総額10億円超えの春の手入れ!】

福島市に八分咲きの桜が咲く中、
毎年恒例の舩山会長邸・春の手入れ植替えにスタッフと宮城県の加藤充君・埼玉県の森山義彦君の合計7人で伺いました。
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あいかわらずの名木群。
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無粋な盆栽商的見方をすれば、ここにある盆栽達で約10億円と言う価値もあながち夢とは言えません。
手入れの方は総数200点を超えるコレクションの内、事前に予定した数十点を手始めに、
今回は外庭に植えてある8年前に移植して届いた吾妻五葉松の素材の鉢上げもしました。
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十数年、毎年行なってきた植替え手入れですが、いつのまにか樹が徐々に古色と格を帯びてきたのを感じます。
鉢合わせも既に尽くしたものが多くなり、根ほどきによる「本植替え」と、
表土の目詰まりを避ける為に、上土をはずして表面の水の浸透を良くする「表土替え」の二分する作業をしました。
出入り方として、普段は舩山会長に水遣り・消毒・施肥・をお願いしている中、会長が普段盆栽を管理なさる時に、
少しでも樹の為になり、会長の仕事が楽になる事を願って、それぞれの樹に合った手入れをしました。
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おひとりの愛好家の棚をこうして長くお手入れに入らせて頂くと、“盆栽は手入れを続ける事で完成されていく”ということを実感します。
金銭的な価値観などここにある樹達には関係ありません。
みんな平等に舩山会長の愛情を受けて育っているのです。
五葉松のふるさと・福島県吾妻地方。
吹く風の冷たさが樹を育んでくれる事を肌で感じる3日間でした。

【80歳の作家意欲に脱帽!】

国風展の時、わざわざ私のような者と会う為に上京して下さった「樹鉢界の至宝」中野行山先生。
“必ずお伺いします”と言う約束を果たす意味もあり、四半世紀ぶりに日本盆栽鉢の聖地、常滑を旅しました。

行山先生のご自宅兼工房を訪れて、まずびっくりしたのが、蔵されているご自身の作品の多さでした!
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所狭しと室内に陳列された鉢・鉢・鉢。
パッと見ても約1000点!
更に感心したのが、工房に隣接する中庭の盆栽棚、数十点の盆栽はすべて行山先生の鉢に納められていました!
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私が鉢造りに対しての思いがある事をご存知の先生とは、形姿・焼成法・歴史など、汲めども尽きぬ時間を頂きました。
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初めての訪問にもかかわらず、大切な工房から窯場までご案内下さり、
80歳の今も“森前さんはどう思いますか?”と、飽くなき探究の姿勢に感服するばかりでした。

常滑の街は、若い陶芸家の方々が、新しい焼物の街として色々な挑戦をされているのが窺えましたが、
盆栽鉢の作家の皆さんは、けして豊かな“今”を送られているわけではない事も実感しました。
昔訪れた時には、多くの窯の煙突が勢いよく煙をあげていましたが、環境問題もあり、古い窯はまるでヨーロッパの古城の廃墟のようになっていました。
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私達、盆栽業界に生きる者が、もっと作家達の卓抜な鉢造りの技術の継承にも目を向けていかなければいけないと痛感しました。
名工『誠山』『山秋』は今はいません。
行山先生のように老成された作家も少なく、幸いにも誠山窯を継いだ、釉薬鉢の名手『黎鳳』で名高い片岡黎鳳先生の窯に伺い、
洗練された作品群に触れた事を土産に“もう一度、もっとどうすれば手伝えるか?”を考えて、この街に来ようと思います。
立ち並ぶ窯煙突が消え去らないように。
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