雨竹 盆栽 水石 便り

盆栽歴49年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

2021年07月


【東京オリンピックの開幕初日、羽生は猛暑の中でも盆栽の作業!】

4月に四国から来た、宮島五葉松(四国での呼び名は銀八、海外では大阪松)の、
木箱植え以外の“根巻“状態のままの分を、ここからの保水と樹の健康を考えて、植木用の大型ポットに入れる作業。

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大量の赤玉土を手配して、根巻のままポット植えする事で、樹はとても楽になります。
手で持てるサイズではなく、フォークリフトを使っての流れ作業!

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新人達も、入社して暑い中、毎日この作業をしていると“盆栽屋さんって毎日こんなキツいのかな?“と誤解されそうです(笑)


秋になれば、ひとつずつ、樹筋を見ながら鋏を入れて・・・
ここからこの樹達が立派な大型盆栽になるには、3~5年の時間がかかります。
人と同じですね!

根巻のままでも、夏は越せますが、こうして根が土中に覆われると、多分樹もホッとしているでしょう。
彼岸も過ぎれば葉の色がぐんと良くなってきます。
それでも、数百のポット!

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これからの“水遣り“だけでも、5000坪の我が庭は、朝夕3~4名、合計4時間がかかります。 
人間も少し涼んでホッとしたいです❗️


大徳寺「孤篷庵」小堀遠州の“綺麗寂び“の世界!すべてが重要文化財の中に、松平不昧公の盆石‼️】

芳春院盆栽庭園を預かって100日余り。
ここと同じく、寺内の各塔頭は、それぞれ室町期からの歴史を連綿と繋ぐ“日本文化の玉手箱“のようなもの。
庭を預かった程度で、他の塔頭へノコノコと行くような事は、
宗務総長としてのお立場を預かる芳春院の和尚様に対して失礼があってはならず、
1年2年と経つうちに、ご縁を頂ければ幸いと思っていた矢先、
萩の著名陶芸家である“三輪休雪“先生との縁で、小堀遠州公が創建した非公開名刹「弧篷庵」にお邪魔させて頂く機会を得ました。


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約束していた時間に山門を潜り、庫裡の玄関で声をかけると、奥より数えて19代となるご住職、小堀亮敬師が出迎えて下さいました。

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水石の世界に身を投じて四十数年、数々の伝承名石に登場する小堀遠州公。
その総本家と言える弧篷庵に、ご住職と約束して伺う事になるなんて、思ってもみませんでした。

もとより非公開の寺院、しかも建築を含めて室内すべてが重要文化財!
それをご住職の案内で、ひと部屋ひと部屋と、襖を開けながら奥へ奥へと案内頂きました。
襖に描かれた水墨画は狩野探幽が、この寺の為に描いたものがそのまま!
雪見障子のような造りの向こうに、日本の茶庭園の本なら必ず載っている「忘筌」!

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そして、この“小さくも大きい“茶庭を眺める書院こそ遠州公直筆の扁額「忘筌」が掛けられた部屋!
仄暗い室の中には、外からの間接的な光が、天井にそして壁に、、これが遠州公が趣向を凝らした“綺麗寂び“の空間‼️

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次なる室に案内されてびっくり!
付書院風の棚に飾れた漆盆に載せられた古石!

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「ここを再興してくれた、不昧公の石です。森前さんが来るので飾っておきました」!!

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遠州公の茶の湯の精神を受け継いだ、松平不昧公。
茶人として名高い歴史上の人物の遺した水石界未公開の盆石!
ここは、水石文化の歴史の玉手箱です!

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私ひとりの為に、時間をとって下さり、奥様よりお薄茶まで頂き、
私にとってこの日は、芳春院盆栽庭園を預かる責務の中で生まれた、新たな1ページの日でした。
長いのご無礼がないように、お暇をしました。
ここに息づく日本の美と精神に共鳴下さる、愛好家の方々を、いつかはご案内させて頂ける事を願って。


オリンピックを迎える中でも、コロナ災禍は収まりません。
毎年この時期の盆栽飾りに欠かせない「祇園祭りの長刀鉾」の掛軸を使った応接室の気持ちも、
どこか“コロナ退散!“と叫びたい気持ちが込められています。

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千年以上続く、京都の夏の風物「祇園祭り」は、やはり疫病が都を覆う災禍を、神仏の力を借りて対峙する庶民の願いが込められていました。

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特に山鉾車の先頭を行く「長刀鉾」は、天頂部に付けられた長刀が、邪気を切り祓う意味を持っています。
今でもこの先頭の山車だけには、人形ではなく本当の稚児が乗っています。


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五葉松の根がひとつから成るこの樹は、京都を守る山々を表し、
脇の滝石は、その山々から湧き出る清らかな岩清水を表現しています。

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大自然そのままを包む山々、命を守る清らかな水、人はどんなに時代が変わっても、自然と共生して生きてゆくものなのです。
厳しい暑さとなる季節、心と身体の健康の祈りをこの飾りに込めてみました。


【盆栽達も“麦藁帽子“❗️庭園観賞用の遮光設備設置!】

多くの皆様に、盆栽の素晴らしさを伝える使命の盆栽庭園。
酷暑の訪れを前に、試行錯誤の末に、和尚様と相談して、今までにない遮光ネットの設置をしました。


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普通、盆栽園の遮光と言えば、ハウスに陽除けの必要な盆栽を集めて、

寒冷紗など、陽射しを弱めるものを張って、ひと夏そこで管理していますが、ここは大徳寺!
なんとか美観を保ちながら、管理が出来るように出来ないものか? 
建て方の棟梁と相談して、少し贅沢ですが、遮光が必要な盆栽ひとつひとつに、“帽子を被せる“ように、杭棒にひとつずつ遮光を作ってみました。

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蝦夷松・一位・もみじや姫沙羅、夏とは言え、庭園はいろんな盆栽を観て頂きたいもの。
庭園の美観もこれならいいかな?と言う感じになったと、自画自賛❓しています(笑)

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何よりも、盆栽達が、長梅雨の後、厳しい暑さと陽射しに耐えて、無事に充実の秋となる事を願うばかりです。

【潤湿な空気を席中に!】

“夏越の祓い“を終えて、季節は梅雨とはいえ、いよいよ“夏“の景色となります。
盆栽の室内飾りも、季節の“気“を捉えたものが大切になります。
松柏類などの“本格盆栽“では、鬱陶しい季節、涼やかなもの、涼を感じるもの、などが嬉しいものです。

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七夕の今、姫孟宗竹の景趣が床の間によく似合います。

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竹林を通る風、掛物(竹内栖鳳)が描く「清流にもみじと蛍」は、まさにこの季節を切り取った世界観。
その渓流の向こうに浮かぶ一艘の舟。

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“引算の飾り“は、盆栽飾りの究極ですが、人間とは勝手なもので、
湿度高く、過ごしづらいこの季節は、“当たり前の涼やかな自然“に、心がつい惹かれてゆきます。

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せめて、席中に水音と凉感を楽しみたいものですね。

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