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盆栽歴49年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

2019年11月

【古老大家の人生の縮図】

料理人としても盆栽愛好家としても名高い矢内信幸さん。
“ワシはただのメシ屋のオヤジ”と 言い切る矢内さん。
料亭の庭を改築して盆栽庭園に改装されました。
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日頃から 各部屋に時折の盆栽を「自然体」で飾られ、訪れる皆さんに何も言わずにもてなされている。
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日々これを繰り返す事、どんなに大変かは、それを是として精進する私達盆栽家が一番わかっています。
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喜寿をまもなく迎えられる中での改装、ご自分の中の盆栽趣味への渇望が、矢内さんを突き動かすのでしょう。
この庭を表現すれば、いつまでも完成しない、まるで「天平の空の下」のような雰囲気に包まれているようです。
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樹の表情に化粧をすることなく、その樹でしか見せてくれない姿を、時間と鋏で創り上げる翁の盆栽観。
個性豊かな翁の美意識には、まだまだ私は追いつきません。

【内閣総理大臣賞・真柏】

第39回日本盆栽大観展が開幕されました!
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今年の大賞「内閣総理大臣賞」は、広島の勝矢氏の真柏!
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銀座の店に訪れて、盆栽の魅力に取り憑かれた勝矢氏が、数年前の国風賞に続き、
今回の大賞で、東西の盆栽界を代表する展覧で冠を得る事になったのは、感慨深いものがあります。
私の「最期の大観展」となる巨大ブースも、お陰様で多くのご贔屓を頂き、注目を頂きながらの、売約御礼となりました。
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丹精を込めた優品が並ぶこの展覧は、圧倒的な海外からの来訪者に驚かされます。
展示各賞の内容も素晴らしく、あらためて日本の盆栽界の奥の深さを感じました!
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いよいよ私の大観展特別ブース“最期の展覧”に出発します。
10日間の留守をする羽生雨竹亭。
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それでもこの庭に訪れて下さる内外の愛好家は多く、居ない間の美しさをキチンとしたくて、庭と床の間を飾り替えました。
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「名残の秋」を 美しい紅葉で楽しんでもらえればと、ガマズミの彩り、となりには昨年の国風展に出品した、五葉松の古木。
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いらして下さった皆さんが、“盆栽っていいなあ”という、記憶をお土産にしてくれることを祈って飾りました。
私と一緒に京都まで行く樹達、羽生の庭で帰りを待つ樹々達。
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私にとっては、家族であり、共であり、ある意味私の生き方の形でもあります。

【乾坤一擲の準備!】

11月22日からの第39回日本盆栽大観展。
今年も昨年に続き、主催者の理解を頂き、展示ブースに特別設営のギャラリー展示をします。
今回は 私の大観展での最期の企画展示ブースになります。
来秋は、同じ京都 禅寺「大徳寺」内 塔頭「芳春院」に 造営が予定されている
『芳春院盆栽庭園』を任される事になり、私の活動の中心がそこになるためです。
全長28mの最大級の展示ブース、名樹・名鉢・名石・を、持てる力の限りを尽くして 皆様に披露します。
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今はその準備に追われる毎日、盆栽の整姿・苔張り・鉢合せ、
名石・名鉢 の展示設備の寸法出し など、時間の空く時を惜しむように ひとつひとつを仕上げています。
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第1回から関わってきた大観展、いつのまにか “業界最大級”となったブース。
還暦の年に千秋楽の披露をして、来年は大徳寺の庭園で 皆様のご案内役をする・・・
こんな盆栽人生が訪れるなんて、思いもしませんでした。
今は “ハレの舞台”に立つ樹々や名品達と、その日に向かって向き合う毎日です!
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羽生雨竹亭・秋の恒例企画『秋の観賞会』も終了し、庭内の整理や盆栽達の仕上げ仕事に追われる日々が続いています。
先日、細身ながら 山採りの枯淡の味わい見事な真柏を、長野県須坂市にある井浦勝樹園氏より譲り受けました。
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真柏の舎利仕上げでは、国内指折りの彼、さすがの舎利芸です。
私は 新しい樹が入るとしばらくの間、なるべく何気なく棚で見ているようにしています。
“この樹の直す所はないか?もっと良い捉え方はないか?自問自答の気持ちで、樹に向き合っています。
私達盆栽家は、ともすれば「これはこうしよう!」と即座に作り変える事がありますが、私はそんなに器用ではありません。
朝夕・日々・己の心が変化する中で、安直に答えを出さず、その樹が生きてきた年月を考えれば、他愛も無い僅かの刻を大切に見つめます。
中には10年以上育て作りながら、ある時 “あっこの樹はこの捉え方があったんだ”と、思いがまとまる時があります。
何度もその経験をした私は、自分の樹を観る心がしっかりとなった時にこそ、樹に向かい合うことにしています。
この真柏も、井浦氏が丹精を込めた樹で、何も悪い所は無いのです。
しかし、どうも枝が重い。
何故だろうと毎日眺めている間に、“そうか!枝を大切にしすぎているんだ!真柏の厳しさと幹芸が弱いんだ”と思いました。
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「差枝を切る」普通は 考えぬことですが、真柏に大切なのは、
「細身でありながらも、凝視すれば どれ程の厳しい刻を生き抜いてきたか」
が表現されていることだと思います。
ゴツ過ぎる鉢合せと共に、樹相の捉え直しを行いました。
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更に、盆栽は 棚で鑑賞することは、その素晴らしさの半分です。
庭で眺めるだけなら庭木と変わりません。季節や景色、遠く心の中に浮かぶ世界が、
部屋の中に持ち込めて、それが思うままの時に替えられるから素晴らしいのです。
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卓を合せ、「自在天」の書。
この書は 150年前、武家社会の身分封建制度から、万民平等の時代を作り上げた、明治維新の元勲 天信翁の書です。
翁は維新という革命を天皇と共に成しながら、一切の栄誉を拒み 新社会成立後は、文人として生涯を送った私が尊敬する人物です。
添えと言われる「点景」には、銅製の観音像を配しました。
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真柏は、人と共にある世界観の樹ではありません。
自然界を超越した神秘すら宿しています。
神仙の住む世界観に相応しい点景として、仏の姿を取り合わせました。
盆栽は、どの様な樹にも、その樹が持つ世界観があります。
草木ひとつに宿る生命、その命が描く「心の中の自然」これを表現することこそが、盆栽趣味の醍醐味だと思います。


※音声が流れます。音量にご注意ください。

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