雨竹 盆栽 水石 便り

盆栽歴49年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

2019年06月

 【国風展出品の皐月「大盃」】

梅雨に入る頃、皐月盆栽は百花繚乱の艶やかさを競います。
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普段は松柏類や雑木盆栽・そして水石飾りを設える 雨竹亭の応接室の床間も、
眼を見張る色彩美をみせる皐月名木の飾りとなります。
この樹は、昨年の国風盆栽展に飾られた「大盃」の名樹です。
樹相全体が花々で覆い尽くされて、樹姿そのものすら一切見えないくらいの花姿になっています。
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季節を彩る 独特の美がありますが、花はいっときのもの。
皐月盆栽も、雑木盆栽のそれと同じく樹筋で眺めたいものです。
季節ならではの観賞、真の美を楽しむ観賞。
どちらが良いなど、決めるものではなく、観る人達が 求めるその時の美しさこそが、盆栽趣味の面白さとも言えます。
私も若い頃は、爪先立って “花よりも樹味を楽しむ寒樹こそが最高”などと 思ったものですが、
命の謳歌と言える花期の美しさは、息を呑むものがあり、六十の歳の今は、厳しさの良さは勿論として、
生命の息吹を感じる季節の美も とても有り難いものと捉えています。
そんな事を考えると、人が求める「究極の美」なんて、移ろい易い「人の心」が映し出す幻のようなものなのか?と思うくらいになりました。
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国風展に飾った時の姿と、今の花姿、皆さんはどちらに心惹かれるでしょうか?

【名匠木村正彦先生 改作スタート!】

東北三陸地方から戦前山採りされた 東北真柏の巨木は、抜きん出た3点が平成の時代まで大切に受け継がれました。
その内 残念ながら2点は3.11の大津波などで今はありません。
この樹は、四半世紀以上前に 日本に残された巨木真柏の王である事を聞きつけた、
都内の著名盆栽家の切望によって、長く秘蔵されていました。
蔵者が天寿を全うして、夫人の手でしばらく守られましたが、
8年程前に高齢を理由に放出が決まり、樹の存在を知る僅かなプロ作家達の情報で私の知るところとなり、
お世話になっている現在の福島県の愛好家・舩山先生の下に移されました。
当初より“こんなに大きな樹をどうするんだ?”と、尋ねられましたが、
私は “この樹はいずれ大型盆栽としての大変貌を遂げる”という確信がありました。
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福島の吾妻山の吹き降ろす風を受けて、真柏は健常な生育をみせて、堂々とした樹相を示すに至りました。
“そろそろだ”と思い、舩山先生に「木村先生にお願いしてこの樹を世に問うものにしましょう」
こうお話したのが、4月の毎年の植替え出仕事の折です。
昨年、大徳寺芳春院ご住職・木村先生・舩山先生・を中心にお世話になっているお客様方と中国蘇州の旅をした折、
おふたりは同じ「叙勲者」として意気投合なさっていました。
木村先生も特殊な改作に対して、出仕事で他者の盆栽を出かける事は殆どありません。
事前にお見せした真柏の写真、
「舩山会長のお仕事ならば、お手伝いしますよ!」と快諾頂いた事で、この樹の将来は大きく変わる事になりました!
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木村一門の名手・栃木 藤川氏・太宰府から埼玉に本拠地を移しての森山氏。
この2人を伴っての 作業となりました!
今回は 樹筋を確認して 水吸いに枝を特殊な行程で打ち込む仕事。
まもなく80歳を迎えるとは思えない集中力で、6時間の第1次の改作作業を終えました。
「森前さん、この部分の枝打ち込みでいいかな?」あくまでも依頼した私の頭の中の構想を尊重して下さる姿勢にも頭が下がります。
日差しの為に余分な枝を捌き、鉢植えの枝を保水・固定・をして、「これで1~2年の後には、元枝を全部取り除けます」との先生の弁。
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これだけの大樹・これだけの大物が、僅か3~4年後には、別の樹に姿を変える・・・。
『木村マジック』と世界のプロが感嘆の声を挙げる意味がわかります。
今回を含めて この真柏は、完成までの道程を、月間『近代盆栽』が追跡取材して、世界に発信することになります。
1000年の命を 新たな姿へと発想した私の考えが、盆栽界にとっても、この樹にとっても、正しい選択だった事を心から祈るばかりです。
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補助手伝いとして同行した、私の所の中国研修者・郝君・趙君・にも、
二度と体験できない巨匠の技を目の前で体験する機会なった事も、嬉しいものです。
二人は この秋から、私と木村先生との友情で、1年半という短期ではありますが、
木村先生の所で、その秘技と人間修養の時を得る事になっています。
遠く故郷を離れて、慣れない日本で、朝7時から夜遅くまで、中国盆栽界に技と管理技術のすべてを習得して帰る事に、
自身のすべてをかけている若者に私の出来る事を何でもしてあげたいと思っています。
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【小学生への盆栽講演】
羽生に根をおろして13年、銀座の店を 落第点の私が開いて20年。
“子供達に盆栽を通して多くの事を伝えてほしい”と頼まれて、市内の小学校ふたつで盆栽教室と講演会を始めて長く経ちました。
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今回は体育館での6年生への盆栽講演。
思春期の中の子供達に伝える難しさをいつも感じながら、
言葉ひとつひとつに想いを込めて自分が歩いてきた45年の盆栽人生を振り返りながら 語りかけるようにしています。
盆栽は 自然のものでありながら、鉢に入って人と生きる時から、人に命を託して生きるもの。
人の愛情が薄れた時、何も言わずにそっと100年の命を閉じるもの・・。
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ひとりっ子が多くなる社会で、盆栽を通してひとつでも大切な“何か”を伝えられないものか?
いつも子供達の純真な姿と対する時、“この子達に嘘は語れない”と思います。
形や作り方なんて どうでもいい、「命を守る」たったそれだけで、
そしてそれ以上に大切なものはないんだという事を伝えたい。
その盆栽と同じに人もひとりではけして生きてはゆけない、いつも何処かで誰かに助けられている・・
その中で生きている自分、美しいこの国に生まれた事を感謝してほしい、
“美しい日本の宝物”である子供達を前にすると、伝えたいことが溢れてきます。
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未熟で半端な私がたったひとつできる「盆栽」。
その力をかりてこんな活動が続けられたら、私の生き方も 少しは役に立つのかなと思います。
でも、もしかすると、私がこのキラキラ光るこの子達に大切なものを忘れないように教えられているのかも知れません。

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