雨竹 盆栽 水石 便り

盆栽歴49年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

2018年10月

【「後の月」の 風情】

10日21日、今年の十六夜の月となりました。用向きがあって 
羽生市内の恩ある古老愛好家 根岸先生の所へ伺う時、
丁度名残りのススキの穂が上手く上がっていたので、数日の間 楽しんで頂こうと持参しました。
奥様共々大変喜んで下さったのですが、「座敷の方にこれと一緒に飾りましょうね!」と、
奥様が 月見団子と台飾りを運んで来ました。
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23代続く 名家、日本の歳時記の中で、ともすれば慌しい日々 
忘れがちな“大切な自然との対話”の刻を こうして何気なくされている・・・
頭の下がる思いでした。
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床の間には、蘇東坡の驢馬に乗った見事な木彫、名器 植松陶翠に設えられた舟形石の逸品!
石の銘は「浪浦」と言うそうです。
障子越しに影絵のように座敷に移るススキの姿、日常を豊かに楽しむことの素晴らしさを改めて教えて頂きました!


【小林國雄 理事長の圧倒的 盆栽作品に囲まれて!】

東京都美術館で毎年早春に開催される「日本の水石展」の 、
来春用の審査選考・撮影会が、
日本水石協会の 春花園 小林國雄理事長宅「啓雅亭・春花園盆栽美術館」で行われました。
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年々レベルが高まる出品石はもちろんのこと、相変わらずの理事長の盆栽作品群には息を呑むばかりです。
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私よりひとまわり年上の理事長、このところ、何となく温和で慈しみ深い相貌になられた様に思います。
“盆栽に向き合う刻と、弟子達の成長が 一番楽しいよ”と、今も昔も その時に自身が想う感情をそのままに言われる。
本来の心が 素直であることが、亭内にある 見事な作品を生み出したのだなあ、と あらためて思いました。
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小林理事長が太閤秀吉・不肖私が黒田官兵衛。
そんな事を世間に評されてもう7年、再来年、平成から新しき御代となった中、
明治神宮で予定している盆栽水石の一大展覧は、理事長と私の水石協会での集大成になる大催事。
長沢・鈴木 両副理事長・鈴木伸二氏・加藤蔓青園氏・など、多くの同志と共に、「果てなき夢」を追い続けて行きたいと思います。

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【 盆栽業界屈指のオークション】

半世紀の歴史を持つ、日本盆栽協同組合主催の 定例オークション「水曜会」は、
毎月組合員登録を持つ盆栽業者のみが参加できる 名門オークション。
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年2回(3月・10月)の大会は、私も参加して 全国から集められた秀作盆栽を買い付けています。
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今回は約1000点の出品!
お陰様で私もトラック1台分の買付で、取引高1位となりました。
但し、今回の様子を見ていても多少の不安が残ります。
出品作品のレベルが徐々に下がっているように感じられます。
市場に流通する盆栽そのものの数と内容が減少しているのです。
対中国関連の勢いは相変わらずのものがありますが、国内全体の市況はけして上向いているようではありません。
拙い私が言えることではありませんが、業者全体が、
“明日売れるものばかりに傾注して抱えて作る”
と言う盆栽業本来の姿を何処かにおき忘れているように思います。
新たな愛好家の方々への積極的なアプローチや、盆栽展などでどの様なプレゼンが必要なのか?
真剣に考える刻が待った無しで近づいていると思います。
買い付けた盆栽も、少しでも手直ししてより良いものにしてからお客様にご紹介する、
そんな当たり前のことをコツコツと続けたいと思います。


【胸を打たれるひたむきな研修生達】

12月に開催される盆栽作家の登竜門「日本盆栽作風展」は、
近年 次代の作家達のための
〈新鋭作家部門〉が設けられました。
今年も私の所で研修に励む若き盆栽家達が、拙い経験の中でも、必死に己の“今”を見つめて この展覧に挑みます。
特に今年は 私の中国展開を支えてくれる西安の提携会社「楊凌雨竹亭園芸公司」で
2年の就業を経て、
法務局の手続きによって出向社員として羽生本店で日々盆栽の手入れ管理に努める中国の若者二人が挑戦します!
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郝君(右:ハオ・23歳)と 趙(左:ツァオ・24歳)です。
中原と言われた唐の時代の首都 長安は蔵法師が天竺から仏教の経典を持ち帰った 古都。
彼等は「日本で盆栽の手入れや管理を覚えて必ず故郷で盆栽家として頑張る」という自分達の強い決意を胸に来日しました。
日本語も殆ど分からず、特別ビザの関係で、1年は肉親が死んでも帰ったら来られなくなる、
と言う様々な問題も、自分達で両親を説得して来日しました。
日常の彼等は 私から見れば、現代の日本の若者も見習ってほしい程の 勤勉さです。
月々の給料も 決して裕福とは言えない両親に少しでも送ってあげたいと、
“日本の野菜は高すぎ”と言って、培養場の隅で 自分達で菜園を作って食べています。
言葉が少ししか分からなくても、私の言うことを一言一句聞き漏らすまいと、
必死に動き、今では 私が考えている事も、殆ど先に理解しているようです。
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先日、最後の鉢合わせを指導しました。
自分の手で 仕上げた樹が、自分の名前で 展覧会に飾られる。
彼等に私の出来るすべてを3年間に注ぎたいと思います。
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【伝承の為 羽生に到着!】

昨年 世界盆栽大会で、その存在が公開された 絶滅したとされていた
九州八女地方の「祖母五葉松」伝承者である田中家はもとより、
現地では「矮鶏五葉松」で親しまれていたものです。
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昨春の訪問で この伝承種と田中家とのご縁を頂いた私ですが、
夏の終わりに 久しぶりに当地に訪れ、ご当主と歓談のひとときを得ました。
「苦しい戦後、先代達の想いを守る事だけを考えて、人が馬鹿にしようとも守ってきた事で、森前さんと出会えた。
私も歳をとって樹達の管理も大変になってきた。
世の中に矮鶏五葉松の大切さを伝えてくれた森前さんに、残されたものを託したい」
こんなお話から 羽生に去年の兄弟達が到着しました。
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“受け継ぐ心に応えたい” 早速 痛んだ枝を処理して、鉢が割れているものを仮植えして、
さあ、ここからこの山里に眠り続けた老樹達を、檜舞台に登らせる準備に入ります!
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