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盆栽歴49年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

2018年07月

【作品制作への情熱!】

羽生と同じく、木村先生の住む埼玉県伊奈町(羽生から車で30分)は、連日35度を超える猛暑。
屋外での作業は体感気温が楽に40度を超えます。
そんな中でも 先日先生の所へ 作品の相談と9月にご一緒する海外旅行の打合せで伺いました。
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立っているだけでも 汗が玉のように出てくる中、先生はいつもの格好で 奥の作業所から笑顔で出迎えて下さいました。
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見たことのない真柏の名木を私が棚で眺めていると「森前さん、この樹がどの樹か分かりますか?」との問いかけ。
見当のつかない私を見て先生は微笑みながら、「国風賞を頂いた樹だよ。どうしても納得いかないところがあったので、少し変えてみたんだ!」と。
たしかによく見ると数年前先生の作品として国風賞を受賞された真柏でした。
少し根の処理をされたのか?全体の高さが低くなっていました!
もっと驚いたのは、「木村ワールド」とまで評価される
中国『武陵源』をモデルにした真柏の石付き群の脇に
先生の背の高さ程もある同じジャンルの大型真柏石付きが ありました。
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春に先生と行った中国黄山の大自然のあの日、78歳の誕生日を黄山の上でお祝いした事が信じられません!
先生の創作意欲は 歳を重ねるごとに深く強くなられているように思います。
「秋には森前さんと行った 黄山の面影を写した作品を作ろうと思っているんだ!」と、
先生は すでに頭の中にある自分の創作世界を語られていました。
8月の初めに『近代盆栽』に その改作過程が一挙公開された、
北海道からの大型一位『神威』も、内庭に日除けをして守られていました。
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灼熱の夏、木村正彦先生の盆栽にかける情熱は、それ以上に熱かったです!

【千年続く 都の文化を床飾りに取り入れて】

連日の猛暑に とにかく盆栽達を強い陽射しと高温から守るのに必死の毎日ですが、
そんな中でも この羽生の庭へ訪れて下さる方々をお迎えする「夏飾り」には心掛けたいものです。
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昨年 七鉢程 作り始めた “蓮の花”の中で、やっとひと鉢だけ、飾ってみたいものが 出来ました。
自然の恵みと言うべき 花姿は、本当に 仏様がそこにいらっしゃるような、美しさと浄蓮さを感じさせてくれます。
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「山鉾巡行」の掛物が、“疫病退散”の祈願の神事として、京都八坂神社で始まってから千年以上の時が過ぎています。
ご存知ですか?
三十三基の先頭に立つ「長刀鉾」の山鉾は、邪気を祓いながら進みますが、決して御所と八坂神社の方に、刃先を向ける動線を取りません。
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脇床に 東山を連想させる貴船石の山形石。
蓮華の無垢なる美・祓いの願いを込めた神事の掛物・そしてその古都を映し出す水石。
飾りは 季節・歳時記・景趣・等々、込められた席中への想いが 遊び心を駆り立てます。


【古老名人達の本領!】

舩山秋英先生の叙勲を祝って友人達が開催した祝賀展は、
現代数寄屋建築の名亭「八芳園・壺中庵」全館を使っての平成最上の展覧でした。
招待客のみの半非公開の様な展覧でしたが、次代に伝えるべき内容だったと思い、特に秀抜な4席をご紹介します。


イワシデの席
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名匠 山北松月・松田恭治先生の作出による、イワシデの雅樹。
自然な株姿の古幹に数十年の鋏作りが物語る枝味の素晴らしさ。
日本盆栽界が捉えるべき雑木盆栽の美が集約された作品です。
格調高い床の間に合わせてかけられた「水墨山水」は、江戸期大家 狩野探幽の筆。
樹と掛物だけで充分に席中の風趣を醸し出していますが、場面の広さを考えて、
“留め飾り”として、この景色を壊さない 双鹿の添を配されました。

瀬田川石の席
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山水景情石の真骨頂と言える石相を持つ瀬田川石の賓石。
配する水盤は薄造りの中渡均窯の中でも釉調に静けさを漂わせる“吹墨”の均窯。
掛物は横山大観筆「東海の朝」。
祝賀の意を込めての目出度さを現出した水石飾りの“引き算の美”を見事に具現した一席。

赤松の席
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老樹の相見事な赤松。
静かな月の掛物との取合わせは、定法。
右に設えた、呑平水盤での蓬莱山の取合わせが心憎い。
閑雅な印象の赤松飾りに、蓬莱図を水石で取合せることで、祝賀の一席とされた。

ノウゼンカズラ(凌霄花)の席
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夏の儚い花姿が印象深いノウゼンカズラは、徒長しやすく蔓性ゆえに、盆栽仕立てが難しい。
花色も里の種よりもひと色濃く、暑季の中、ひときわの目を惹く。
水面に映る「水月」の図は、主木の観を見事に扶けている。
添えの一木彫りの苫屋舟が、塗床ゆえ “素置き”で配されたことで、席面全体を水面に見立てたものとなった。
花物盆栽で涼を呼ぶ好例。


【美術館ならではの 格調高い展示!】

日本水石協会との共催の形で、毎年恒例となっている大宮盆栽美術館の水石展が開催されています。

後期展(13〜15日)は、私の監修担当。
5席の “平飾り”・3席の床の間飾りで構成されています。
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盆栽に興味を持ってこの美術館にいらっしゃる方々の殆どが、水石をご覧になるのが初めての方。
“河原にある石”が 美術館の床の間に飾られている事に、初めは不思議そうな目で見ていた人たちが、
学芸員さん達が分かりやすく書いた解説などによって、見終わる頃には、納得の表情を浮かべられているのが、微笑ましかったです。
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14日に「盆栽アカデミー」の文化講演会で『水石の歴史と文化』をテーマに午前午後2回にわたって、講座を開かせていただきました。
古代から室町期の「東山文化」による盆石の誕生、江戸期の大名・茶人・文人による熟成、
そして明治からの「水石」という表現への変遷を出来るだけ丁寧にお話しさせて頂きました。
若き頃、片山一雨先生・高橋貞助先生・村田香樹園師・吉村香風園師・小口賢一先生・福島茂夫先生・等々、
数え切れない多くの皆様に盆栽・水石の文化をご教授頂いたあの頃を思って、微力でも次代へ繋ぐ役目の少しでも出来ればと、
勉強のつもりでこれからもお手伝いしてゆきたいと思います。
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【舩山 秋英 先生 叙勲・内閣総理大臣賞 受章記念 展覧祝賀会】

7月5日 都内屈指の名庭「八芳園」を舞台に、“1億円の五葉松”として知られる 
舩山会長の盆栽の昨年の日本盆栽大観展での、内閣総理大臣賞受賞と、
先生がこの春 天皇陛下より長年の正業による社会への貢献を讃えての叙勲「旭日双光章」を受賞されたことを、
友人達との盆栽水石研究愛好会「玄虹会」の有志が この五葉松を中心に、展覧会形式で祝いの飾りを不詳 私の企画で開催しました。
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当日は、盆栽界の頂点の面々が、皆 祝賀にいらして下さいました。
特にこの祝賀展は、自身が開くのではなく“朋友の信”を第一とする、私のお客様達の総意で開催されたことだと思います。
内閣総理大臣賞をとっても、叙勲の栄誉を授かっても、普段と何も変わらない舩山会長。
お側で 出入り方を努めて 十数年の時が経ちますが、どれ程の事を教わったか 数えようが無いほどです。
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木村正彦先生・小林國雄先生・友人の鈴木伸二氏・同じく内閣総理大臣賞作家 浅子隆敏氏
そして世界大会を指揮した 日本盆栽協会前理事長 福田次郎先生は、木村先生と同じく 私と40年のご指導を頂く方です。
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岩崎理事長・大嶋理事長・内海理事長・竹山先生・等々、私的な祝賀会にこれだけの錚々たる方々が集うことは、普段はありません。
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各飾りの席の気品、訪れて下さった方々の盆栽人としての美しい立居振舞。
恩顧 舩山会長へのほんの僅かな恩返しが出来たような気がします。
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