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盆栽歴49年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

2017年02月


【矢内 信幸翁 の 美意識と日常の中の盆栽】

先日 久しぶりに大阪箕面市の料亭「みのお茶寮」へ
20年来の得意先 矢内信幸先生の所に行って来ました。
元々はご自宅だった茶寮は、まさに矢内先生の美意識のかたまり!
自然体に造られた庭には、其処此処に盆梅の古木が点在していました。
建築や調度品など、造作のすべてが翁の凝った意識の中でまとめられ、床の間には白梅の古樹。
ここ"みのお茶寮"は、まさに「矢内ワールド」全開の世界でした!
20年前、独立間も無い私が初めて出店した「日本盆栽大観展」の売店。
そこで矢内先生に出会い、ご自宅の盆栽を拝見した時、
"関西にこんな味の効いた盆栽を理解して楽しむ方がいたのか!"
と驚きを覚えたことがつい昨日のようです。
長いお付き合いの中で、意見をぶつけたり、個展の開催をお手伝いしたり、いろんな事を教えて頂きました。
盆栽界にも料理界にも染まらず、自身の「矢内ワールド」を貫く姿は今も昔も変わりません!
約300点に及ぶ盆栽をたった一人で日常の管理手入れをし、
毎日店に訪れる方々を迎えるように各部屋に「季節の自然」を設える。
これを矢内先生は数十年続けているのです。
至福の昼食を頂いた後、退出する暖簾の脇に紅梅の古木が見送ってくれました。
 



【埼玉県行田市桜ロータリークラブ講演】

先日 ご懇意にしている愛好家の依頼でロータリークラブの講演をさせて頂きました。
私に出来ることは、盆栽や水石を隣において様々な自分の日常や出来事をお話しするだけです。
今回は4月の世界大会に出品する真柏を飾り、この大会が日本の盆栽界にとってどれ程大切なものかを伝えて、
併せてそこで「盆栽と水石を世界遺産登録へ!」という活動の発信についてお話しました。
地域や社会に尽くされる方々に、少しでも盆栽界の現状と未来を伝えられればと願っています。

真柏は彫技による舎利やジンの芸ではなく、自然の風雪が創り上げた天然の姿を持つ数少ないものです。
僅かな枝姿で幽玄な相を現しているのも真柏盆栽の真骨頂と言える樹です。
使われている鉢は宜興紫砂泥で特注した扇型で、
"古典と現代的モダン"を融合させた作品として私なりに気に入っているものです。
海外・特に中国での多くの真柏盆栽を目にする今ですが、
こんな日本ならではの美意識で作出された盆栽を訪れる多くの皆さんに観て頂きたいものです。

【月に緋梅  "紅一点の美しさ"】

国風展・日本の水石展  などで、慌ただしい如月、
ようやく雨竹亭の床飾を心静かに構える気持ちになりました。
三寒四温が近付く中、まだまだ名残の雪模様と盆梅が身近にあります。
昨年手に入れた緋梅の古幹が良き花姿を楽しませてくれる頃となり、
雪模様の空に浮かぶ月の掛物と「静謐な微春」を設えてみました。
太幹の堂々とした盆樹も良いですが、"梅一輪の美しさ"とされるように
一重の可憐な花姿は、この樹のように枯淡の味わいを大切にした自然な枝姿が嬉しいものです。
鉢も花の美しさを強調させるように、渋めの南蛮鉢に移し替えました。
渡辺公観が描いたこの月も、雪空の仄暗い中に浮かぶ情景がとても良く描かれています。
墨流しのような画、枯れ木のような幹枝に凜と咲く緋色の花姿。
全体を一幅の名画を眺めているように心がけてみました。
新春から早春へ、そして間もなく訪れる爛漫の春。
刻々と移り変わる日本の四季を盆栽の飾りにも大切に表したいものです。


【一休禅師「真珠庵」秘蔵の盆石 初公開!!】

2月10日~13日まで東京都美術館で開催された「第4回日本の水石展」は
同じく美術館で開かれた第91回国風盆栽展と共に大盛況の中無事に閉幕しました。
今回は京都大徳寺 真珠庵 より、正親町天皇ゆかりの盆石が特別出品され、
500年近い歴史の産物を初めて帝都で披露する機会となりました。
明治神宮・さいたま大宮盆栽美術館などの特別出品の他、一般出品の中にも
紀州徳川家所縁の古谷石・明治の画家 山元春挙遺愛石など、
レベルの高さでは他展の追随を許さない本展らしい名石の陳列となりました。

海外からの出品石も年々その内容が素晴らしくなり、
水石が世界の趣味となっていることを痛感する舞台にもなっています。

展示石を一堂に収録した図録は限定ながら、既に販売しています(1部3000円)。
ご要望は協会本部はもとより、エスキューブでも承ります。


【国風展売店に出現した118点の奇跡の一括展示販売】

2月9日  国風展後期第2部・日本の水石展  この2展の飾り込みが行われた夜、
警備施錠がされた上野グリーンクラブ「立春盆栽大市」で、
1台の搬送トラックが横付けされ、2階一角に大量の名品が搬入陳列されました。
『美術盆器名品大成』の所載品・貴重盆器登録品・悠雅盆器登録品など、"盆栽界の宝"と言える各種鉢類です。
尾張焼献上鉢・献上薩摩焼蘭鉢・東福寺・湧泉・平安香山・水府散人・小野義真・竹本隼太・大日本幹山・一陽・真葛香山等々、
総数118点の名鉢群は、地下で静かに交渉され、満を持して一挙に公開されました。

「一括商談中につき、お手を触れぬようお願い申し上げます」
と吊り札が保安布紐と共に貼り出され、翌日10日朝プロ業者をはじめ、
来訪される趣味家の度肝をぬく陳列となりました。

これは、国内有数の大コレクターが生涯を費やして蒐集に努めた珠玉の名品達で、
"散逸してしまえば二度とこれだけのレベルと数が集まることはない" 
ことを憂いたプロ有志が協力して一括で購入できる方を探し、
情報が漏れることに細心の注意をして企画したことだったのです
(ヤキモチやバラし売りを望む人達のトラブルを避けるため)

9日夜に飾られた118点は、10日の夜 横付けされたトラックにその全てが積み込まれ、
翌11日の朝にはこの24時間余りに繰り広げられた名鉢大展覧が、まるで白昼夢だったのかと思わせる位に
何事もなかったように元の盆栽展示販売のブースとされていました。

一括購入の相手先や、金額など、グリーンクラブ内には余熱のように噂話が流布していますが、
たった一夜、信じられない程の名鉢群が蜃気楼のように出現して消えたことは、事実としてお伝えします。
いつの日か、エスキューブ雨竹亭も協力してこの一群が公開されることを願っています。

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