【 『雲糸の松』】

先日上野グリーンクラブで開催された 日本水石協会主催のオークションに、心の奥に刻まれた五葉松が出品されました。
誰にも気付かれないように、せり台に登場した時「思いのある樹!」と声を上げて落札しました。
11年前、自分の不徳で もう立ち直ることも叶わない事業の失敗をして、命すら失う事も当然となった時、
馬鹿な私をまるで泥水の中からその手ですくい上げて下さった方の旧蔵樹。
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40年程前、その方が国風盆栽展に出品されたもので、18年前にも一度縁あって手元にあった樹です。
今でこそ、こうして多くの盆栽水石を愛する方々のお陰で 僅かでも斯界の役に立つよう日々を過ごしていますが、
あの頃を思えば、生涯 この世界の為に滅私奉公をし続ける事しか 私の一生は無いと思う記憶です。
こうして、3度目の縁で 羽生の庭に帰ってきたこの樹に『雲糸の松』と言う銘を付けました。
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芥川龍之介の短編に「蜘蛛の糸」という物語があります。
生きている時 ありとあらゆる悪行の限りを尽くしたカンダタという男が、地獄で無限の苦しみにもがいている時、
天からこれを見ていた仏様が、カンダタが命ある時一度だけ、道端の蜘蛛を踏まずに避けた事を思い出しました。
仏様は天から細い糸を地獄に降ろし、カンダタはそれにしがみついて地獄から抜けられる時、
下の方からこの糸に多くの地獄の亡者達が「俺たちも揚げてくれ!」と 細い糸が切れる程にぶら下がってきました。
「やめろ!これは俺のものだ!」と、カンダタが叫んだ時、仏様の糸はふつっと切れて、
カンダタは元の地獄の中に落ちていきました。
私をあの時 慈悲の心で導いて下さった方、その方へのあの時の想いをいつまでも忘れぬように、
この五葉松に『雲糸の松』と名付けたのです。
いつまでも羽生の庭で私の生き方を見守って頂き、私はこの樹を守り抜いていきたいと思います。