雨竹 盆栽 水石 便り

盆栽歴49年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

【珍しい「山蔓あじさい」と水石の景趣】

空気が少しずつ潤湿となり、霧雨が降る季節となりました。
滋賀県に住する聖職者、関目六左衛門先生よりのお預かりしている稀少盆栽「山蔓あじさい」を応接室の床に飾り、深みある季節の飾りをしてみました。
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「岩がらみ」に代表される同系の盆栽は、初夏を代表する目に嬉しい盆栽ですが、
原生種である山蔓あじさいは、盆栽として保存されているものが、とても少なく、この樹も雑木盆栽の名手と称えられた故勝俣翁が自身の名で展覧した作品です。
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分け入るような深山の大樹に巻き付きながら生きるこの樹は、懸崖の姿が良く似合います。
今回は、絵ではなく、書と取り合わせてみました。
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明治の能書家として内閣大書記官・元老院議官・貴族院勅撰議員をされた天保生まれの巌谷一六翁の書です。

欲采紫芝去 蹋雲深入林
偶尓逢僲叟 並筇聴水音

※紫芝を采らんと欲して去くに
 雲を蹋(ふ)み深く林に入る
 偶尔(たまたま)仙叟に逢えば
 筇(つえ)を並べて水音を聴く

『紫芝(仙薬の霊芝)を探そうと、雲煙の中を林の奥に入る。偶然にも仙人と逢ったので、ふたり並んで杖をついて水音を聞いている』

脇の琵琶床には、この盆栽と書に記された景趣を扶ける意味で、貴船の渓谷石を取り合わせてみました。
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樹・書・石・が、三位一体となって共鳴する空気感。
“軽きものは深く見つめて飾る”先人達が残した美への求道の精神を伝えてゆきたいものです。


自粛要請が続く東京や埼玉県。
私の羽生雨竹亭も、少し東京寄りの木村正彦先生の庭も、愛好家を招く訳もいかず、お互いに盆栽の作品造りに日々刻を重ねています。
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それでも私達盆栽家は、ある意味で幸せかもしれません。
広い庭園、多くの緑豊かな盆栽達、この中で樹と対話しながらこの災禍の間、本来の仕事でもある樹格向上に努めることができるからです。
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訪れる人のいない盆栽庭園で、作品に対するあれこれを木村先生と時を忘れて語っていられること、ありがたいものだと思います。
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せめてこのブログで、見事な仕上がりを見せる盆栽達をご覧下さい。
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東北道から北関東道へ、都心から約1時間半、宇都宮・上三川インターを下りて500m。
宇都宮緑花木センター』があります。
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先日久しぶりに行く機会を得て来てみました。
インターネットや、手頃な飾り易い盆栽の「素材」を仕入れる穴場として、年に数回訪れていますが、
鹿沼市の花木センターのように、園芸品が主体ではなく、盆栽を中心とした数少ない共販センターとして魅力ある所です。
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組合員制で、自分の棚場を月極料金で持った専門盆栽業・盆栽育成兼業農家・殆ど趣味の盆栽作出者・等々、それぞれが想い思いの盆栽を持ち寄っています。
“この樹は、ちょっと作り直せば良くなる!”や、あの棚は正札が比較的に安く、この棚は高い、と、
広い盆栽棚をゆっくりと歩けば、面白いものに出会えます。

エスキューブのネットオークションは、仕入値の原価のまま出品することが、殆どの方々が周知のものですが、
安く・良く・の材料を集めて、スタッフの手入れで仕上げて送り出す。
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月々100〜150点の商品を準備するには、コロナの影響で開催が止まっている業界卸売市場だけに頼らず、
こうして自分で歩いて探してお客様に喜んで頂ける素材を探していこうと思っています。
毎週火曜日に始まり、翌週火曜日22時最終落札となるネットオークション。
皆さんも是非ご覧をなって下さい!
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【四天王発見!】

3年前、九州八女地方の山里で、代々守り継がれた絶滅種「祖母五葉松」が確認され、
エスキューブによって『世界盆栽大会』の場で、総額1億円の公開がされたことは、盆栽界のニュースとして大きく取り上げられました。
今回、祖母五葉松を守った現地田中家から秘匿のうちに譲り移された「祖母四天王」と言われた名樹4点が、小店へ届きました。
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どのような経緯かは、先方との約束で秘匿しなければなりませんが、
田中家に残された幾つかの古樹は、現ご当主の意向で、“今あるものは、私の代はここで大切に遺したい”ということで、これ以上の割愛は当時から諦めていました。
今回、羽生に届いた四天王は、圧倒的な存在感。世界大会の巨樹3点に準じる現存が信じられないほどのものでした。
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“これだけの歴史的遺産をどのようにすれば良いものか?”
・・今は唯々現状な生育に努めることを第一に考えています。
3年前、九州に出向き、古老ご夫妻と膝を交えての相談をしたあの時を、ご夫妻の写真を見ながら思い出します。
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80年近く前、戦時色濃くなる中、軍部より
“盆栽など何の役にも立たない。置場を薩摩芋を作るように捨ててしまえ”
との命令に、方便で「畑にする時の風除けに植えますから」と泣く泣く鉢から外して地に植え、
目立たぬように日々夜半に桶で水を与えたと当主田中氏に伺ったことを思い出しました。
盆栽人として、先人が命がけで守ってきたこの稀少種達、同じ心で良き彼らの安住の地を探したいと思います。


いつの間にか、新緑に目も慣れた今、雨竹亭の応接室も季節の雰囲気が変わってきます。
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日本人は歳時記に謳われているように、春夏秋冬の四季から、12ヶ月の暦、そして二十四節気の移ろい、
果てには日々の日射しや気を敏感に捉えた七十二候(およそ5日ごとに変化してゆく自然観)など、まさに自然と共に自然の中に生活を営んでいます。
私達盆栽家も、日々の手入れや商売に追われながらも、日本人として盆栽人として、
お越しくださる(今はコロナで殆ど誰も来ませんが!)皆様に盆栽・水石・山野草・の美しさ、素晴らしさをお見せする役目を忘れずに努めたいと思っています。

菖蒲の花が咲き始めました。
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端午の節句に剣に見立てた菖蒲を飾り「菖蒲湯」に浸かる。
江戸の昔から続く風俗文化です。
この菖蒲は鉢で4~5年持ち込んだもので、締まった姿に仕上がりました。
この持ち込んだ姿は今年が見頃。
ここまで根が締まってきたら、植替えが必要です。
また数年の培養で、勿論毎年楽しませてくれますが、本当に美しさを見せてくれるのは、その中で植替え前の最後の1回です。
山野草はどちらかと言えば、盆栽と比べて低く見られがちですが、
奥の深いもので、人の手が過度に加えられない事が、審美の心を駆り立ててくれます。
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掛軸は、戦前の名筆・田中以知庵の「飛燕図」つがいで飛び交う姿は、この季節に巣作りに励む燕そのものの風景です。
脇床には安部川石の清冽な滝石。
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水を打った古銅水盤に瑞々しい涼景を見せる石は、立夏を迎えた“先取りの飾り”の好機と言えます。
床飾りの側面棚には、ヤマコウバシの寄せ植え。
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新緑が映える高原の林間が優しく映し出されています。このヤマコウバシは、先日惜しまれながら天国に逝った勝俣先生の作品です。
野山にあるヤマコウバシを寄植え盆栽の代表的な美へと導いた盆栽界の恩人です。
鉢に入れると数十年を経ても太らない、切返しでの造りを嫌うヤマコウバシは、雑木盆栽の“優しい美”をとても良く表現してくれます。
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足下の菖蒲・仰ぐ山々の中にある滝・その向こうの山中の高原の林間。
ひとつひとつが奏でる美が、共鳴して日本の四季の「今」を室に醸し出しています。

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