雨竹 盆栽 水石 便り

盆栽歴49年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”


国風展・日本の水石展・と、早春の一大催事も無事終了。
業界人として目のまわる2週間でした。

羽生の庭に帰ると、梅の盆栽の数々が、蕾から美しい凛とした花を咲かせていました。
展示会と商売に追われる刻を終えて、寒気の中でも、楚々と咲く姿を見ると、
人の気忙しさが他愛もない位に、自然はありのままに時を刻んでいる事を感じます。

半月ぶりに、応接室の床飾りをしました。

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盆栽と掛軸を使った「雪月花の飾り」
野梅青軸系の貴賓「月影」。


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昨年手に入れて、鉢合わせをしました。
月影は、花弁に萼の青さが透き映り、淡い萌色を見せてくれます。

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愛好家が相当長く愛培した事が、古感見事な幹味に感じられます。


掛物は、江戸時代後期に京都で活躍した“四条派“の画家、田中日華。

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この掛軸は、“描き表具”と言う筆法によるもので、表具と言われる絵のまわりの部分も、すべて日華の筆によって描かれたものです。

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まるで絵の外側の自然界から雪が深々と降ってくるような、粋で情緒満点の作品です。



脇床には、京焼の人形「紫の上」。


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20年以上前に、京都五条坂を焼物を探して散策している時、“これは盆栽や水石の添景に使える?“と思って、
工房を訪ねて、“あの作品の彩色をやめて髪色と紅だけにして作って下さい“と、
今思えば、陶芸家の方になんて無礼な注文をしたものかと、頭をかいています(笑)。

音も無く、しんしんと降る淡雪の中に浮かぶ月
冷気厳しい中でも、春の訪れを伝える梅“月影“の気品ある花姿、
月に雪に花に、何かに想いを寄せる紫の上の姿

やはり、私はこんな風趣を楽しむ世界が大好きです!
(中々、これだけでは食べられませんが、笑)


【幻の祖母五葉松!初公開‼️樹齢250年!】

国風展併催の上野グリーンクラブ『立春盆栽大市』も、後半「国風後期展」に合わせて、
小店2カ所のブースの“プレミアムブース“を、飾り替えしました。

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前期展で飾った「木村正彦先生、初公開巨大真柏」も、予想に反して(失礼しました)ご成約になり、
もうステージの役目は充分に果たしたのですが、売約品を自慢そうに飾っておく事は、昔から大嫌いなので、
中日に下げて、これも初公開の五葉松を中心に飾りました。


250年の歴史が克明に残っている「幻の祖母五葉松」。

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本当は3月に開園する「大徳寺内・芳春院盆栽庭園」の柿落としに飾ろうと思っていましたが、ひと足早く、帝都での披露とさせて頂きました。
正直、今回の国風展は、コロナの影響で、殆ど売れないと思っていましたので、
こうして高額の盆栽達が、いらっしゃるお客様達のお心を掴んで下さったこと、本当に嬉しいです。


また、映像に写っているイワシデの大型盆栽は、私が20代より関わった斯界の誰もが知る名品。

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旧蔵者のご好意で、30年ぶりに私の棚に帰って来て一年。
鉢を入れ替えて、これも大徳寺で披露しようと思っていましたが、友人の盆栽園主人が国風展にご一緒にお連れされた愛好家の方が、
“今回の大市の中では、この樹が一番だね”と仰って下さって、お求め下さいました!
なんと30代の方❗️
しかも「どうぞ大徳寺の開園に飾って下さい。引渡しはその後で良いですから」と。
ありがたいことです。

社会も盆栽界もコロナで苦しい刻の中、それでも盆栽が心を癒してくれると思って下さる方々。
毎日“今日が一期一会“と思って、出会いを大切にしたいものです。


【展示作品の重厚さは、前期を上回る⁉︎】

桜が咲くような暖かい日が続く中、第95回国風盆栽展も、後期展(13~17日)が始まりました。
前期展にも増して、展示作品の内容は高く、私見ですが後期展の方が全体としての内容が厚かったように思います。(中品・小品は前後期共に互角⁉︎)



特に国風展の中で総合的に優れた樹に与えられる「国風賞」は、やはり圧巻の存在感でした。


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しかし、私は世界の盆栽展の象徴的存在のなっている国風展は、選考の上入選した名品の数々を鑑賞する場であって、
どれが1番良いか?と言うような考えは不要だと思っています。
勿論、審査と言うものは、人が行うものなので、各自の思考によって優劣は多少違うのは当然です。
但し、多様化する盆栽美が世界に広がる中、上位の選考対象となった作品は、どれも素晴らしく、
“これが最高のもの“と、一般の観客が判断してしまう材料になりやすい事に、危惧も覚えます。

古典的な“刻と鋏“で仕立てられた古盆、名匠の技が生み出した絶品、風趣風韻を心に感じる味わい深い樹、
盆栽の美に対して捉える幅は広く、もっと深い意味で言えば、その人ごとの人生観が反映する部分もあると思うのです。

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ただ単に、超が付く名品に感嘆の声を挙げるのではなく、それぞれひとつひとつの盆栽が持つ「表情」のようなものを、
楽しみ、学び、ここまでに辿り着いた、盆栽達の“生きた姿“を味わう事こそが、国風展の真のあり方ではないでしょうか。

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でも、コロナ災禍の中、こうして100年の歴史を持つ展覧会が、
日本はもとより世界の盆栽を愛する愛好家の方々と、それを支える専業者の協力で、途切れる事なく、開催された事に感謝したいです。


【神話の銘を持つ神居古潭石「高千穂」特別展示❗️】

東京都美術館において、水石界の象徴的展覧会となっている「日本の水石展」が、コロナ下の開催が危ぶまれた中、無事に開幕しました。

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東京都への来訪を積極的にお勧めする時とは言えない中でも、昨年を上回る総席数177石の出品をいただいた事は、
事務局長を預かる身として、本当にありがたい事でした。


全国各地に愛蔵されてきた名石の数々が、一堂に展覧される国内最大規模の水石展。
今回は特別出品としてポスターにした石は、戦前より名石として名高く、帝国議会への展覧、
そして“天覧“(陛下がご覧になった事)の栄を受けた石、神居古潭、銘「高千穂」が選ばれました。

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天孫降臨の神話の舞台としての地、高千穂の名を持つこの石は、水石家の誰もが知るものですが、近年は公開の機会を得る事がありませんでした。
コロナ下の都心、気高い名を持つ石を首座に据えて、無事に開催が行われる事を願っての
出陳です。


他にも、廣瀬自在庵氏の協力で、郷男爵、旧三菱財閥岩崎家、等々の旧蔵歴を持つ、日本の代表的な名石12点を一挙展示する企画展示も注目の的です。

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外出を控えて、自宅での時間が多い中、自然界の造形である「石」の持つ美が、

多くの人々の心を癒やしてくれることを願っての展覧会になりますよう、祈りたいです。


開催が危ぶまれた第95回国風盆栽展ですが、感染予防を徹底した対策の中で、無事に開幕しました。

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15歳の時からずっと見続けて来た国風展ですが、搬入日でもないのに、これだけ人影の少ない会場は見た事がありません。

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それでも却って、ゆっくりとゆったりと鑑賞できる利点もあって、100年近い歴史を止める事なく出来た事を喜びたいと思います。


入選展示された各種盆栽、栄えある国風賞受賞樹、どれも手入れが行き届いた素晴らしいものでした。

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大型真柏や小品盆栽の国風賞が、中国の愛好家の方などが、受賞されているのを拝見すると、国風展も時代で変化してゆく事を感じます。


都内が普段の喧騒を忘れたかのような静けさの中、盆栽を眺める事が、
こんな時何よりも心の健康となる事を、もっと広く伝えたいなあ、とつくづく思いました。

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