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盆栽歴45年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”

【椎野宝樹園の今!

“若手盆栽業の一方の旗手“と謳われた、神奈川県秦野市「宝樹園」椎野健太郎氏。
抜群の行動力で培った全国的な情報ネットワーク、海外勢との巨額取引、
コロナ以前の椎野さんを取り巻く業容は、対中国を中心とする圧倒的な流通市場での存在感を示していました。
名門「大樹園」の一門という正統派の彼、開園当時よりよく知る私は、彼の本来の姿を見てきました。




久しぶりに訪問したこの前、“あっ、変わった!“とまず思いました。

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見事と言える整備された塵ひとつない庭園と棚場、松柏から雑木まで幅広く、
一つひとつによく手入れが施され、彼自身も室内で名樹の手入れに勤しんでいました。
“会長に以前言われたように、盆栽を作っていかないといけないと、この頃つくづく思います“ 
彼の言葉はそのまま園内に満ち満ちていました。

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“激流のような業界の商売はどうだい?“と問いかけると、
“嫌いじゃないですけど、やっぱり樹を作っている方が自分らしいですね“と、苦笑いしながら答える彼は、
何処かひとつの刻を突き抜けて、自身の持っている元々の盆栽観に似たものを語っているように感じました。
“ここからが、彼の本領の長い刻が始まる!“ 誰もが当たり前に思う、自分の棚場とお客さん、
そして“10年作れば良いものになる“とした、盆栽人の基本的な価値観。
慌しい商売を共にしている頃から、彼が他のバイヤー的な思考者ではない事は分かっていました。


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年上として、失礼を覚悟で言えば、今ここにいる彼こそが、本当の椎野宝樹園だと思います。
反面羨ましく、反面“ガンバレ!“と応援したい、“いい男“です!


青空の下、桧の伐採 庭園から比叡の眺め❗️
日照時間の極端に少ない晩夏からの9月。
久しぶりの青空はやっぱり良いものです♪

芳春院に隣接する古刹大仙院。
庭園からちょうど比叡山を仰ぐ方向に立っていた桧の高木3本。


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盆明けに業者さんが入り、枝の切り落としから、最終的に木そのものの伐採が行われて、
盆栽庭園から古都の守護山・比叡山がくっきり見えるようになりました。

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芳春院ご住職と大仙院尾関老師が相談されての結果と伺っています。
感謝です❗️

残暑こそ残る今ですが、彼岸も近づくにつれて、朝夕の山内の空気は“秋“を感じるものになりつつあります。
中旬までには、強い陽射しから盆栽を守ってくれていた遮光ネット設備を解体して、いよいよ庭園も秋本番の盆栽庭園へ向かいます。
コロナ感染で、訪れる観光の方々も10分の1程の京都。
ご住職には「来園の少ない中、庭を守るのに苦労をかける」と労って下さいますが、
私は生涯の仕事と位置付けているので、
「和尚様、どうぞ気になさらないで下さい。
10年30年50年と続ける覚悟でお預かりした庭。
1年2年でどうこう考えていません。
コロナは早く収束してくれると良いですが、この盆栽庭園をどのように守ってゆくか?
すべてが経験と思う中の1年目、のんびりと1年目が流れてゆくのもいいものです」
と申し上げました。
こんな中でも、日々、僅かでも訪れて下さる若いカップルさんもいます。
そんな方々と交わす会話は、日々盆栽業でクタクタの私に、忘れかけている昔の“あの頃“、
誰もお得意さんがいなくて、出会う人達みんなに“盆栽はお好きですか?“と声をかけていた頃を思い出たせてくれます。


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私はそれでもこの庭園は盆栽達と仏様を守って、皆さんの来園を毎日待っています。


大観展の打合せを兼ねて、長野県の鈴木伸二さんの所へ赴きました。

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入口から盆栽の棚場、応接室、回遊する何気ない所まで行き届いた盆栽ワールド!
とにかく綺麗です!
塵ひとつ落ちていない!
盆栽をどれだけ美しく見てもらえるか?そんな彼の考えが庭内に満ちています。

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名木からささやかな草物まで、どれを見ても“いいなあ“と思えます。
恥ずかしがり屋で、応対の苦手な彼、普段から一般の来園者が入らないように、入口はしまっているそうです。


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これだけ静謐に綺麗にしておくには、仕方がないですね!
5,000坪(16,500m2・25亩)を有する我が家、どんなに頑張ってもこんなに綺麗には出来ません!
それでも、そこを目指して頑張ります!



8月の記録的猛暑の後、また“記録的“長雨の梅雨のような日々。
そして数日前にはまた残暑とは言い難いほどの暑さ!
それでも蒼天に浮かぶ月は、秋景色の象徴として煌々とした美しさを見せています。
暦の上ではすでに秋。
せめて床の間の盆栽飾りだけでも、お越しになる皆様のために、
“秋が近づいている“と感じていただければと、春以来の月の掛軸を使ってみました。

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「中秋の名月」に代表される澄み切った空に光る月はもう少し後。
ほんの少し、潤湿さを残した月を使ってみました。

暑さの中で、水石や山野草の飾りが多かったひと月半。
ようやく本格的な盆栽が床の間に登場する季節が来ました。

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赤松の懸崖。
山採りの樹齢100年を優に超える古木。根元はサバ幹となり、残された命が懸垂する翠を湛えています。
自然界では、このように生い立つ所に厳しい相があればこその懸崖となります。
まさに“自然が創り上げた造形なのです。

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脇床には、遥かに仰ぐ連峰の姿を見せる揖斐川五色遠山石。
この石の古色も、愛玩100年が醸し出す味わいです。

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深山に生きる風に吹かれ生きる松。
幾重にも連なる山並み。
そして天空の月。
盆栽達も暑さを耐えて、訪れる充実の秋まで、あと僅か数週間です。

【木村正彦先生の妙技で名樹へのスタート❗️】

羽生雨竹亭から卒業して、東北の津波・震災を乗り越えて、仙台に程近い多賀城で盆栽業を頑張っている加藤充君。
東北人らしく、朴訥でどちらかと言えば商売は苦手な彼。
折々、ちゃんと業が成り立っているのか心配していましたが、
昨年無事に結婚して、最近は地域の愛好家の方々に可愛がられて、“出仕事“での手入れに忙しそうで安心しています。

彼から“山採りの真柏を沢山持っているお客さんがいる“と聞いたのは数年前。
どのようなランクのものか?分からずにいましたが、先々月、名勝「松島」に近いご本人の庭に加藤君とお邪魔して驚きました‼️
すべてがご自分で生涯をかけて山採りされた真柏の“筋物“素材!約200点!
「仕事も引退したので、ここからはこの真柏達を皆さんに見せて楽しみたい」
普通に聞けば、微笑ましいことですが、そこにあるプロが見ても“是非譲って欲しい“とつい、口から出てしまう、
手入れをすれば名樹になることが約束されているような樹が所狭しとあり、
“この状態で公開したら、日本や中国のハイエナのようなバイヤー達の格好の餌食になってしまう“と思い、その思いを2時間かけて説得しました。
“このままで公開したら、ご本人が望んでいるような、真柏を愛し、山採りを語り、素材から仕上げてゆく過程を共に楽しむような方が訪れるのは、ごく僅か。
殆どが、出来上がっていないままで、買い付けて行くことのみを狙う人達で、嫌になってしまいます“

「私には売らなくていいから、木村先生に頼んで何本か手入れをして仕上げてもらって、
それを近代盆栽の誌上で取り上げてもらいましょう。それからの公開にしましょう」

私の考えを理解下さって、日をあらためて木村先生に相談して“森前君が言うなら、行ってみましょう“と、81歳の名匠のお供をして、再び松島に訪れました。

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“ホンモノの木村先生だ“、ご家族の第一声には、苦笑いしてしまいました。
先生と数本の真柏を選んで、先日近代盆栽の編集部と共に、「幻の真柏群」の手入れが始まりました。

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勿論、私も商売ですから、こんな未公開の樹は、喉から手が出るほど欲しいですが、
半世紀をかけて山採りをして、誰に教わるでもなく、コツコツと自力で根付け、枝接ぎ、培養を重ねてきた愛好家を拝見して
「加藤君や地元の方々に残してゆくことも、私の仕事」と思い、東北の地に名樹として残るお手伝いに徹する事にしました。

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木村先生の所で、いよいよ始まった“眠り続けた逸材達”が、いずれ『月刊近代盆栽』の誌上でその全貌が公開されるでしょう。

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商売の方が、良質な盆栽を欲しいのは分かります。
でも、見守ってください。
これだけの真柏群をバラバラにしてはいけないです。
いずれは、ご本人が納得する時の末、次なる方々に移る事は当然です。
でも、それは加藤君達のような“これからの日本の盆栽界“を担う人達に委ねたいのです。
近代盆栽での公開を楽しみにしていて下さい。



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