雨竹 盆栽 水石 便り

盆栽歴49年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”


【夜長の季節、禅語と盆栽水石飾り!】

澄んだ夜空の月が美しく感じる秋。
盆栽庭園の展示場飾りも、季節の良さで心に染みる楽しみの頃となりました。
連席を芳春院ご住職の揮毫による禅語との取合わせで組み立ててみました。
国風展級の樹でもなく、水石展級の石でもないものが、
“設え“と言う日本文化が培って来た“席の構成が織りなす美の気韻“で、観者に響くものを感じさせてくれます。
三席の禅語の意味と共にご覧下さい。



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「月落露光冷 獨坐松根下」
月落ちて露光冷ややかなり 私はひとり松の根元に居る

五葉松の樹齢約百年の木立。
自然の三幹の生い立つ無理ない姿。
脇には佐治川のくずや石。

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禅林の夜、老松は月明かりの下で夜露の微かな光を見せている。
そんな景色を松と石が描き出しています。
くずや石は、“羅屋“と呼ばれる座禅をする粗末な庵を想わせます。
静けさ極まる禅寺の宵闇の景色が浮かび上がります。



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「鳥啼山更幽」 
鳥啼きて山更に幽なり

文房卓から変化した二段卓に、真柏の幹模様ある文人風の樹、下段に老僧を想わせる八海山石。
脇には楓の数本からなる林間の風景。


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精神性深い真柏、見立て心で感じとる姿石、そして簡略化された中に自然の景を見せる楓。
自然界にある“当たり前の景色“が如何に深いものかを語っています。
“鳥が啼き、山々はその静かな荘厳さを更に深く示している“
まさに、自然の偉大さを伝えてくれています。



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「時雨洗紅葉」 
時雨紅葉を洗う

見上げるようなケヤキの大木立。
樹下には山草の有り様を想わせる風知草。
間もなく訪れる晩秋の紅葉の景色は、この前後の意味を形に表しています。
時雨は人生の苦難を意味して、その時代や経験を超えてこそ、本当の人生の素晴らしさがある
(美しい紅葉)盆栽も酷暑を耐えて私達に目に鮮やかな紅葉を見せてくれるのです。
私達も、苦労を歓迎して日々を前向きに生きたいですね!


10月7日、羽生雨竹亭において、業界人専売オークション、第145回「天地会」が開催されました。
台風の影響で1週間の延期通知をしたのも初めてです。
この1週間の間に、新潟県で大切に培養されて来た未公開の真柏逸材を入手する機会を得て、
久々の“ホンモノ“に、商売ではあっても、胸躍るものがあり、
2日間の夜間手入れと植替えで、私が思う“真柏の盆栽はこうでありたい“と思う作品になりました。

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天地会の延期は各方面の仲間達の“台風“に対する配慮で決めた事なので、後悔もしていませんが、
中々逸品がオークションに出品されることがない昨今、“売れなくてもいい“と言う気持ちを持ちながら、出品に踏み切りました!


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結果、中国バイヤーを警戒していましたが、木村正彦先生、小林國雄先生と言う巨頭のオークションバトル!と言う思いもよらない形になりました!
勿論、私が入手した価格よりも数段高いビットが続き、最終的に木村先生が落札された事は、有り難い限り、、なのですが、
不思議に嬉しくもなく、何となく寂しい想いを抱いたのは、この樹が本当に名樹として庭に置いておきたい!気持ちが強かったのかもしれません。
こうして、どれくらいの逸樹をこの庭から送り出したでしょうか?

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考えても仕方がない事、と分かっているのですが、歳でしょうか?不思議なものです。
盆栽で食べながら、良い盆栽は売りたくない!
わがままですよね!
それでも、また明日出会う樹達との一生懸命、生きていきます!

【受け継がれる技術の継承】

日頃から雨竹亭の盆栽整姿術に協力をして頂いている、森山義彦さん。
木村正彦先生の直弟子として、将来を嘱望されている盆栽作家。
作風展頂点への挑戦をされる中、私と相談して、雨竹亭のスタッフである近藤瑞希君を
週に二日間の研修見習いを始めて頂くことになりました。

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森山さんと仕事を組み始めて4年。
温厚な人柄と、さすが木村先生が唯一埼玉県での独立を認めただけの腕!
そろそろ彼にも“本物の手入れ仕事“に打ち込める体制作りに入って欲しいと願って、
私のスタッフをそばに置いて、少しでも“生活費“の為の仕事が減らせるようにと願いました。


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勿論、雨竹亭としても、日常的な針金整姿のスタッフが、育ってくれれば、“1人がもう1人に“と、技術の継承ができます。
木村先生に憧れて盆栽作家を目指した森山君、そして彼が指導する若者が、技術を継承してゆく・・
年寄りの仲間入りが近い私から見れば、羨ましくもあり、微笑ましくもあり!

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まずは、近日行われる「日本盆栽作風展・審査会」で、森山君がどこまで階段を駆け上がるか!楽しみにしています!


秘匿され続けた、松島の東北真柏の逸材群!
現地の高橋さんが30年以上、すべてを山採り作出に尽して集めた百数十本の真柏達。

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初夏の頃、名匠木村正彦先生と内密に訪れて、高橋さんと将来の設計をして、木村先生の所へ数点を運び数ヶ月。
これが、一代で山採りから未公開で作出された真柏!? と驚く程の完成度❗️

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唯々、好きな山採りを続け、道なき道の果てに生き抜いた数百年の真柏達を、
山中で取木をかけ、1~2年、幾度も誰一人居ない山中へ行き、根着いた頃を見計らって、獣道を2〜3時間、巨木を背負い、誰も来ない自宅で数十年。
今回の名匠との出会いが、次代の日本の盆栽界に遺す名樹を生む事になりました。
弟子で宮城県多賀城で頑張っている、加藤充君の連絡でこの真柏逸材群を知ったのは、数年前。
“バイヤー達の餌食になるような事なく、東北の地で守ってほしい“ そんな私の願いを聞いてくれた木村先生には感謝しかありません。
所蔵真柏(全部高橋さんの山採り品)約200点! 出来れば一般に公開される来年までに、あと数点の逸材を木村先生にお願いしたいと思っています。

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“東北真柏の山採り未完の逸材群は生きていた!“ こんなフレーズで、『月刊近代盆栽』に、その全貌が公開されるのは、新春になりそうです。
ただ、海外でも人気の真柏は、札束を持ち歩く、“中国バイヤー“達の格好の餌食になりがち💦 

来年春には、愛好家の為に、自宅を公開したいとされる高橋さん。

「買取り希望の交渉、写真撮影は固くお断りします」


これを門前にかけて、この“未来の盆栽界の宝“を、みんなで見守りたいです。

【スッキリとした秋飾り!】


盆栽に興味を抱かれる方々、元々の愛好家のお得意様方。
羽生雨竹亭は、盆栽水石を楽しまれるすべての皆様への窓口を自負しています。
庭園の開設から16年。
応接展示室や展示場の屋根・壁も各所に傷みが生じ、8月下旬から9月中旬にかけて、大幅な改修工事をしました。
それに合わせて、工事期間利用が出来なかった庭園の整備と掃除をして、展示される盆栽達も一新しました。

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・・・自分で言うのも何ですが、❗️キレイ❗️になりました。
何が変わった訳でもなく、スッキリと開園当時の雰囲気に戻っただけなのに、とても清々しい気持ちになります。
多少の杭方の打ち直しや、植栽の撤去などをしましたが、全体の掃除を何よりも心がけて、
訪れる方々が、ゆっくりと、のんびりと、盆栽のある空間を楽しんで頂ければと仕上げました。


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庭内の老大樹や季節の盆栽達。
散策する楽しみとは別に、応接室には敢えて“何気ない季節の飾り“を縞ススキで設てみました。

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庭園に並ぶ名樹を前に、“これでもか“と、室内にまで高価な盆栽を飾るよりも、
お客様とゆっくり語らう前には、まるで“日本の野山の秋“がここにあり、その中でひとときを供させて頂いている。
この感覚を大切にしました。
ひとりで朝夕に庭に佇んでいると、言葉にならない“至福の時“を感じます。
何処からか、虫の音が聞こえて来る・・さあ、雨竹亭の秋の始まりです。


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