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盆栽歴49年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”


【国風展出品を待つ盆栽達を拝見❗️】

2月9日より開催される“第98回国風盆栽展“、誰もが知る日本盆栽界の最高峰の歴史ある展覧。
この出品先行審査が先日行われ、前後期合わせて、約300点弱の作品が選出されました。
選考に搬入される盆栽達は、どれもため息の出るレベルの樹達!
展示席数の関係で、すべてを飾る訳にもいかず、落選の憂き目をみるものも多くあります。

私が修行時代などは、出品申込数も今の2倍近くあり、数百点の逸品盆栽が、“これがダメだったの?“と言う有様でした💦

先日、木村先生のアトリエにお伺いして、出品が予定されている作品を拝見しました。

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三十数点と言う、先生の所からの国風展出品量!
80歳を超えてなお、相変わらず扱い数もトップという健在ぶりには驚かされます。

山採りの古典名木、現代的な創作的作品、理想型と言える模様木など、多種多様な出品内容。
今では国内愛好家だけではなく、海外の方々の出品依頼も多いとのこと!

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まさに“世界の国風展“になりつつあります。
しかし、先生は将来の日本の盆栽界の為への想いも仰っていました。
“山採りの素材すら枯渇する我が国、瑞祥や創作的寄せ植えなど、自分の手で一から育て仕上げる事の出来る盆栽を若い層にもっと伝えたい“と。
自分が苗木から育てた樹が、夢の舞台に行くなんて、愛好家からすれば、こんなに楽しい事はないでしょう!

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先生はこうも仰いました。
「古い名木は、時には傷んだり、海外へ“お嫁に“行ったり、増えることなく減り続ける。だからこそ、新しい盆栽を創出する事がとても大切」・・❗️

国内屈指の名樹の数々を守りながらも、視点を変えて伝えてくれる次世代への気持ち。
“10~20年で、名もない素材から国風展へ飾れるものもあるよ“と先生。
よし!私もまだ💦65歳!
苗木からやってみるか❗️(腕の差がある事!忘れてました💧)


暖冬の中、2月初めの立春を前に、梅の花も蕾を膨らませ、早咲きのものは、美しい花々を楽しませてくれています。
不思議なもので、12月には咲き始める一番早咲きの“初雁”も今が見頃で、追いかけるように各種の梅が花咲の準備をしています。

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日頃、商売用の盆栽の中に“埋もれている“私ですが、梅の時期となると、“枯淡の味わい“豊かな盆梅に心が惹かれます。
芽も吹かない中、枯れ枝の様な姿に蕾を見せる梅。枝作りといっても、人が作りすぎたものが嫌らしく見えるのも梅💦

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人と時間が創り出した古感豊かな幹肌や枝味、言葉に言い尽くせないものがあります。
それは、日本画の中に表れる梅への表現に近いものがある様に思います。
“梅はひと枝“  “梅は立ち枝“  色々な例えがありますが、古人達が伝えようとした“美“を忘れる事なく踏襲したいものです。


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雪降る月の図・飛鶯の図・で古感見事な盆梅を飾ってみました。
冬枯れの中、凛と咲く梅に、厳しさの中の美しさを感じたのは遥か昔。
菅原道真公の名歌が蘇ります。
“東風吹かば 匂い起こせよ梅の花 主なしとて春を忘るな“
間もなく国風盆栽展! 
梅!間に合うかな💦

【京都・大徳寺 厳寒に咲く盆梅の花❗️】

1月15日、小正月も過ぎると、古都京都はまさに悴む真冬の中です。
芳春院盆栽庭園も、市内とは別世界と言える“北山時雨“。
街中が晴れていても、ここは朝夕には山を越えて雪雲が降りてきます。

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細雪が庭を覆い、雲が晴れれば、陽の光でスッと雪が消えてゆく。
そんな毎日が始まります。
でも盆栽にとっては、これくらいの雪や寒さは、丁度良いものです。
埼玉からここへ飾った盆栽達は、何処となく葉色が良くなる気がします。

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雪帽子の寒椿から、ひと足早い梅の花へと、庭内の盆栽も替わっていきます。
野梅・紅冬至・道しるべ、雪舞う中に咲く梅の姿は、いいものです!
床の間にも、梅の飾りをしました。

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つい最近まで、培養場で何年も陽の目を見ずに置かれていた梅。
手入れをして鉢を替えて、この間まで、誰も見向きもしない所にあった樹が、今は大徳寺の床の間にあります。
私達盆栽人は、何よりも樹を作っていかないと!と思います。

厳しい冬はこれからが本番です。
その中でも、ここは夜明け前から、修行道場の鐘の音が聞こえてきます。


私達、盆栽を生業とする者は、お得意様との長いお付き合い、自園に訪れて下さる愛好家の方々との出会いから生まれる盆栽の販売、

地域の皆さんへの奉仕の気持ちでの盆栽教室、そして、大切なお客様方からお預かりする盆栽の管理・手入。

盆栽を中心とした多種多様な仕事で成り立っています。

近年はこれにインターネット上での販売が、大きな位置を形成し始めました。

時代が移り変わり、その時代に合わせた愛好家のニーズによって、

“売れ筋“の動向が少しずつ変化するのは当然と思いますが、

昨今の「海外に需要があるか・無いか」での、樹種による価格変化の偏向には、

半世紀盆栽に携わって生活をさせて頂く身として、忸怩たるものを思っています。


例えば、松柏盆栽の王道の頂点は、揺るぎなく五葉松でした

(実生や山採り五葉松の事!大阪松、別名宮島五葉、銀八は、黒松台木での別種で人気あり)。

しかし、海外の圧倒的な需要で、“五葉松は日本と同じ気候でないと痛む“と言う点で、

黒松・真柏からすると、その評価は半減と言う現状です。


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赤松なども、本来は黒松の上位として評価されてきた種ですが、

この数年で、赤松も五葉松と同じく、繊細な管理に不安を覚える海外勢の影響で、黒松の半額にも届かない状態です。

五葉松・赤松にしか表現出来ない微妙な盆栽の美観と言うものが、プロは理解しながらも、

“明日の糧“の為に、買い支える事も出来ず、売買価格が下落する一方と言うのが現実です。

(逆に言えば、日本の愛好家の皆さんは今こそ五葉松・赤松は“買い“なのです❗️)


勿論、本来の文化的美的価値と市場評価は異なる場合はあります。

しかし、100年の刻を経て斯界の先人達が築いてきた“価値観“は、揺るぎないものとして、

私達プロは、応対する愛好家の方々に、その真実の価値というものを伝える責務があるように思います。


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盆栽のグローバル化で、経済発展著しいアジア各国の盆栽熱は、日本国内の比ではないのも事実ですが、

“黒松・真柏は元気で丈夫“  このひと言で、100年の日本の盆栽の価値基準が右往左往する事に、

やむを得ないとは言え、“昭和の盆栽人“には、忸怩たる思いを隠す事が出来ません💧

海外の方々が、日本の盆栽を高く評価して下さる事は有り難く嬉しい事ですが、

そこに生業の糧を一極集中するのではなく、併せて、国内の次代の盆栽界の事を真摯に見つめる事も、

盆栽園を営む私達は、忘れてはならないと思います。


“味のある樹・古感こそが命・作り過ぎない樹“  色々な表現はありますが、全部日本盆栽界の歴史を物語るものです。

盆栽の人口は海外勢やインターネット内を含めれば増加しています。

しかしこれは、以前のような“国風展“を頂点とする趣味家世界の構造とは違います。

現に1万人を超えていた盆栽協会員も現在は4,000人を下回っています。

盆栽業者である私達の責任もあります。

来園して下さる“いちげんさん“の若い方々に、どれ程の応対をしているだろうか?と自省する事もあります。

旧高砂庵・岩崎大蔵先生の言葉が蘇ります。

“業者は種を蒔け・挿し芽をしろ“ 

この言葉は、そのまま初心者の愛好家を丁寧に育てる事に繋がるように思います。


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海外勢の偏向評価に一喜一憂する前に、門を潜って来園されるすべて皆様に、かけるべき言葉を大切にしなければ!

“いらっしゃいませ!盆栽は初めてですか“と。

あっ!それと、五葉松、赤松、やっぱり素晴らしいものです❗️


YouTube「WABIチャンネル」の撮影を兼ねて、雨竹亭がある羽生、飾りの求道に生涯を費やした、
故根岸庄一郎先生(号・雨卲)の遺された本格数寄屋建築の中に、盆栽飾りを今年初めてしました❗️

“明けやらぬ春“・干支の辰(龍)が不二(希望や夢)を目指して昇る。
こんな想いを、玄関・寄付床・書院・茶室、これが“ひとつの主題“で構成されている世界観でまとめてみました。

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玄関脇には、雪屋の香炉、京都清水焼の名工、清水六兵衛の作。
寄付には枯淡の幹味の野梅、掛け物は「雪に独雀」横山大観と並ぶ近代日本画の巨匠、竹内栖鳳の筆。
この2か所に込めた想いは、深々と降り積る雪、梅の花もまだ咲かず、雪上の一羽の雀は、寒さの中翔ぶ刻を待っています。
初春から早春へと移る手前、季節の訪れをじっと待つ“今“を表している世界です。

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本床(書院床)に飾られた真柏、細身ながらも厳しさを宿す姿は、まさに“龍が翔け昇る様“を感じさせています。
天を仰げば、そこには神厳なる霊峰。
不二は山でありながら、その姿を超越した“仰ぐシンボル“。
真柏の“龍“は、この神山に登ろうとする私達の心。
あえて脇床に大型の“大八洲・おおやしま“を配したのも、
“山“の被りと言う“忌み飾り“を承知の上で古典を超えて、年の初めの様々な“願い“を飾りに込めてみました❗️

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茶室には、数少ない門司梅花石。
“まだ咲かぬ梅の花、石の上だけでも咲き待ちの心を伝えたい“、これも願いを込めました‼️
掛け物は、若き“飾り道具としての掛物“の研究に尽力される、石川清秋師の“細雪“。
今年も早く“春よ来い“‼️

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