雨竹 盆栽 水石 便り

盆栽歴43年 盆栽家森前誠二がブログで綴る盆栽人の本音と 伝えたい日常の中の”心と技”


【大徳寺での 室礼盆栽飾り】

五葉松 名樹「天帝の松」の所蔵者として 有名な 福島市在住 舩山秋英氏は、
盆栽水石の研究愛好会「玄虹会」の当初よりの発起メンバーでもあります。
先月の京都「日本盆栽大観展」で 最高賞を受賞された事は、
来月の月間『近代盆栽』でも大きく巻頭で取り上げられます。
大観展が開催された京都で時を同じくして前述の「第九回玄虹会展」が、
定例会場となっている大徳寺 芳春院で開催されました。
ここで舩山氏は、盆栽界の展示とは その趣向を変えた
日本文化の中に創出された「室礼」を基本とした古典の盆栽座敷飾りをされました。

氏の故郷である吾妻山系から山採りされた五葉松の屈曲懸崖、瀬田川の梨地石、
そして氏の代名詞と言える真柏の古樹。
三点のバランス構成は見事さはもちろんのこと、
この会は"その飾りの見えぬ向こうに込められた席主の想い"が 展示すべてに発揮されています。

本席は自然界に生き抜く五葉松、幹を折り曲げながらも生きる姿は艱難辛苦を超えて生を全うする人生そのもの。
この"自然界"を仰ぐ神仙棲み暮らす山々(瀬田川石)の遥かに人智を超えた『神の化身』と言える姿の真柏。
自然から神仙世界へと、連席が奏でる精神の深みを一室で見事に表現されました。
展覧会的な会場での盆栽鑑賞が、日常的となった今、
この様な 日本文化の様々な要素を内包した盆栽展覧は、
未来の日本盆栽界の最も大切な部分になってゆくと思います。


【花梨名樹と"福来雀"】

慌しい歳末、とかく盆栽を床飾りする余裕も心から忘れがちな日々があり、
己のだらし無さを痛感させられるものです。
特に12月は季節を捉えた飾りが難しいもので、
"一年を振り返っての新年を何処かに思わせる"隠れた情緒が大切な設えとなります。
今回は、入手してまる二年、手入れ・植替え(均釉袋式長方)を進めて、
ようやく観賞できるまでになった花梨を使っての「師走の床飾り」をしてみました。

古幹の䕺立ちの揺れ立つ姿が、唐画の世界から抜け出してきたようなこの樹は、
花梨の盆栽として極めて持込み古い名樹です。
この樹を主役に雨竹亭の応接室を設えてみました。

掛物は「雪中双雀」作者は、岡倉天心が創設した東京芸大の前身、
東京美術学校の初期日本画教授として横山大観らにも指導をした今尾景年。
雪降る中に寄り添う二羽の雀。
寒さを避ける為身を膨らませて空気を孕んで暖をとる姿は、
古来より「ふくら雀」の愛称で呼ばれています。
これを「ふくら→福来→福が来る」になぞらえて、佳き新年を間近にする縁起に使ってみました。
過ぎゆく今年、振り返ってどんな一年だったかを想いながら、冬姿の寒樹と雀。
静かな当たり前の飾りの中に潜ませる趣意。
盆栽人として、己の鍛錬を込めて 飾りは "その向こう側にある想い"を必ず念想したいと思います。


【圧巻の逸材は "神の手"木村正彦先生へ!】

先月来 木村正彦先生と 共同で入手した 北海道からの山採り素材群。
最後に
"これが完成したら、木村作品の頂点・真柏 登龍の舞 を越える名品になる"
と確実視される一位が、到着しました!
うねり上がる幹は、どのように生きてきたらこんな姿になるものか、想像を越えるものです!
木村先生は「無駄な舎利やジンを取り除いて、この樹の本質を呼び出すことがまず大切」と仰います。
この樹の為に北海道一群輸送があったと言っても過言ではありません。
ここからの追跡取材は1~2年かけて『月刊近代盆栽』が、独占で行います。
名匠の技の限りを尽くした傑作の完成が楽しみです!


【京都大徳寺『玄虹会展』】

展覧会的な盆栽水石文化が 主流を占める昨今ですが、
海外とりわけ中国盆栽界の圧倒的な台頭は、盆栽や水石(鑑賞石)をその本体のみで楽しむ意味で、
本家とされる日本を凌ぐのは質量ともに時間の問題となっています。
その中で日本の盆栽水石は、世界に対して"何を発信すべきなのか" は、
この展覧に込められていると思います。
日本は古来より盆栽や水石を屋外で楽しむのではなく、室内に飾り、
そこに醸し出される空気感そのものを趣向の第一として来ました。
「侘び寂び」「幽玄」「もののあわれ」など、500年前に日本文化が生み出した美意識の根幹が、
盆栽水石にも感じられるのが、この展覧のような舞台です。
9年前のこの会の発足以来 御用掛けとしてお手伝いをさせて頂いてきた私。
今回の席の中で特に印象に深いものを数回に分けてご紹介します。

「ひとつの石が生み出した 景趣の広がり」

この席が飾られた大徳寺芳春院の大書院は、加賀百万石前田家による寄進で、
戦前はのちの宰相となった五摂家筆頭 近衛文麿公が京都帝国大学に学んだ時の寄宿所でもありました
(近衛家も芳春院の檀家様です)
本書院脇の"次の間"的なこの空間は、飾り上手の腕が試される素晴らしい室です。
今回は玄虹会最年少の会員 今井和貴氏が受け持ちました。
主飾りは瀬田川の梨地石。
盆山の美を示すこの石に「月に雁」の静かな茶掛。
そして脇床には、山柿の飄逸とした姿。
さながら「木守」と言うべき 侘びた風情を見せる実姿。

石には色も季節もありません。
しかし、それを飾る"道具立て"によって、自然の深い景趣が創出されます。
「威張らず、誇張せず、静けさという大切な衣装を纏った席」
これが日本人が探し求めた 審美の世界です。
名木名石のみが 美を伝えるわけではありません。
一木一草一石が、美意識高い人の設えによって、真の美を生み出すのです。


【真柏・書 で 『風神・雷神』】

日本盆栽大観展の特別企画展示(京都国際文化振興財団)で、
盆栽と書による巨大展示が行われました!
『風神・雷神』と名付けられたこの展示は、盆栽作家 鈴木伸二氏の作品でもある 真柏の持つ 神秘性と 、
絵画や書など、芸術活動で多くの作品を生み出した 表現者 片岡鶴太郎氏の
まっすぐな直視力で創出された 「風神」「雷神」で 構成された 9メートルに及ぶものでした。
演出デザインをこの展示企画のオーナーである京都国際文化振興財団(通称 慶雲庵)から、
全権を任された身として"どんな展示デザインが良いものか?"知恵熱が出る日々でした。
施工を担当した大観展の装飾設営担当業者でもあるフジヤの坂川さんの協力を得て、
琳派の表現を基調にした 豪奢な感じの設えとなりました。

巨大な展示スペースを、たった2点の樹と石で表現する初めての展示仕様は、
観客の皆さんの注目を頂いたようです。
演出によってその表情を変える盆栽。
これからも色々な挑戦を続けたいと思います。

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